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最終章
11-10 魔族の王
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アリアちゃんを背に乗せ、狼の四つ足て跳び上がる。ただ地を蹴っただけなのに、驚くほどに軽い…… これが獣の力なのか。いや、強くなったアリアちゃんの力が、僕にも影響しているんだろう。
「ラウルが私の為に張ってくれたこの結界の中は、貴方がくれた私の世界。この中ではあれは王ではない」
アリアちゃんは、背から僕の狼の首をぎゅっと抱き、耳元で言った。
「これなら戦える。私は、魔王を倒します」
氷が解けて自由になった魔王が上に手を伸ばす。黒い靄がその手に集まるといくつもの黒い玉になり、僕たちに向かって飛んできた。
空で一回転して避けると、今度は魔王の腕が僕らに向けて振り下ろされてくる。その腕を飛び退って避けた。
アリアちゃんが手を前に差し出す。ヴィーさんが使っていた魔力の矢を放とうとしている。この矢が飛んでいく軌道もタイミングも、ずっとヴィーさんの戦いを見ていたからわかっている。
魔王を狙えるタイミングで再び跳び上がる。アリアちゃんの放った無数の魔力の矢は、魔王の体に突き刺さった。
魔王は魔法を食らいつつ、こちらに向けて炎の玉を飛ばしてくる。アリアちゃんが次に使おうとしているのは氷の魔法だ。この魔法を発動するための時間も威力も、セリオンさんが使うのを僕は見ていた。
アリアちゃんが魔法を発動する時を見計らって、火の玉の正面に位置を取る。アリアちゃんの放った氷魔法が、向かってくる火の玉を散らした。
あいつはジャウマさんほど力強くない。あいつの動きはヴィーさんほどに素早くはないし、あいつの魔法発動はセリオンさんほど早くはない。
――いいや、違う。
ジャウマさんたち3人が、最後に魔王を弱らせてくれたからだ。僕ら二人だけの力じゃない。
相手の隙を見つける方法もタイミングも、ジャウマさんの戦いを見て覚えている。魔王の攻撃を避けて足の間から背後に回り込んだ。
アリアちゃんが魔王に叫ぶ。
「貴方は私の母を奪い、私の人生を奪おうとした。そして、この世界から平和を奪おうとしている」
『全て神のご意思だ! この世界に我らの力を満たせと――』
「いいえ」
魔王の言葉を、アリアちゃんが遮った。
「この世界の人間たちは、すでに自ら戦えるだけの魔力を身に付けている。この世界に来た魔族の末裔は、獣人としてこの世界の一員となっている。もうこの世界に魔族は必要ない」
話しながら、アリアちゃんがありったけの魔法をその手に籠めている。もうすぐ、それが満たされる。
「私は貴方の娘です。王の娘として、私は貴方を止めます。そして――」
魔力は満ちた。
「ゼーン。私が貴方に代わって、魔族の王になります」
振り向いた魔王に、アリアちゃんの全ての魔力を籠めた魔法が放たれる。その魔法は、魔王の体を焼き、手足を凍らせ、風で全身を切り刻んだ。
アリアちゃんは、戦いを望まない。
アリアちゃんが王になれば、魔族たち……いや、この世界の獣人や人間たちの中にある争いを望む気持ちも、以前よりは抑えられるだろう。
そして願わくば皆が幸せになれる世界に……
動かなくなった魔王にポーションを浴びせると、その体から黒い靄が沸きだしてきた。これは魔王の魔力と女神様から奪った神力が混ざった物だ。
アリアちゃんはいつも『黒い魔獣』にしていたように、魔王に手のひらを向ける。魔王の体は端から崩れるように黒い靄に変わっていき、湧き出した黒い靄と一緒に、流れるようにアリアちゃんの手の中へ吸い込まれていく。
「私はね、ずっとずっと幸せだったよ。優しいパパたちが一緒にいてくれて。こうして再会できたラウルと、一緒に旅ができて。でも本当はもっと……」
アリアちゃんの言葉の続きは、嗚咽で聞こえなかった。
* * *
魔王の城が崩れるのを確認して、狼の足で駆け出した。
大黒狼の姿をした僕の背には、アリアちゃんと傷ついたクーが乗せられている。
「パパ…… パパ……」
あれからずっと、アリアちゃんの涙が止まらない。
「城へ帰ろう」
声をかけると、彼女は僕の首にぎゅっとしがみついた。そして、また泣いた。
あれは、星がきれいな夜だった。
『ラウル、星にお願い事をしましょう』
無邪気に微笑みながらアリアちゃんが言った。
『そうだね、何をお願いする?』
『私はね、ずっとずーーっと皆と一緒にいたいなぁ』
彼女はそう言って、星空を見上げた。
ああ、そうだね。アリアちゃんはずっとそれを、ただそれだけを望んでいた。
この世界の平和よりも、ずっと皆と一緒にいることを、本当は願ってしまっていただろう。
結局僕は、本当の意味ではアリアちゃんを護ることはできなかったのかもしれない。だってこんなにも、彼女は泣いている。
僕の背中で泣いている彼女の、その涙を止めることすらも、僕にはできない。
でもせめて僕は、君とずっと一緒にいるから……
* * *
夢を見た。
皆で仲良く暮らす夢だ。
この世界に迷い込んだ魔族たちを、人間たちは温かく迎え入れてくれた。
そうして人間と魔族が共にくらす内に、種族を越えて恋に落ちる者が現れる。彼らの子供たちは人間と魔族の性質を合わせ持っていて、それらは獣人と呼ばれるようになる。また人間の内にも魔力を持つ者も生まれるようになった。
今日も森で摘んだ薬草を持って、町へ帰る。
町の門番は犬の獣人と、もう一人は人間だ。門番が獣人なのはよくある事だ。人間よりも耳や鼻がよく利く彼らにはこういう仕事がよく合っている。
冒険者ギルドでは、受付のおねえさんが薬草や魔物素材を判別してくれる。こういうのは彼女のような魔族の方が、素材に含まれる魔力を読むことができる。
報告の列に並ぶ冒険者たちも、様々な種族がいる。人間、獣人、魔族、それらの混血の者も。
どの種族が優れているとか、劣っているだとか、そういうのは関係ない。どんな種族であろうと、それぞれの長所を生かし、短所を補い合えば、こうして上手くやっていけるのに。
この世界の創造神は、何の為に僕らの一族をこの世界に呼んだのだろう。ここをどんな世界にしたかったのかな。
『安心してください。あの方は私がずっと抑えています。もう手出しはさせません』
優しい温かい声がした。アリアちゃんに似ている声だ。
『どうかアリアを…… 私の娘を頼みます』
「ラウルが私の為に張ってくれたこの結界の中は、貴方がくれた私の世界。この中ではあれは王ではない」
アリアちゃんは、背から僕の狼の首をぎゅっと抱き、耳元で言った。
「これなら戦える。私は、魔王を倒します」
氷が解けて自由になった魔王が上に手を伸ばす。黒い靄がその手に集まるといくつもの黒い玉になり、僕たちに向かって飛んできた。
空で一回転して避けると、今度は魔王の腕が僕らに向けて振り下ろされてくる。その腕を飛び退って避けた。
アリアちゃんが手を前に差し出す。ヴィーさんが使っていた魔力の矢を放とうとしている。この矢が飛んでいく軌道もタイミングも、ずっとヴィーさんの戦いを見ていたからわかっている。
魔王を狙えるタイミングで再び跳び上がる。アリアちゃんの放った無数の魔力の矢は、魔王の体に突き刺さった。
魔王は魔法を食らいつつ、こちらに向けて炎の玉を飛ばしてくる。アリアちゃんが次に使おうとしているのは氷の魔法だ。この魔法を発動するための時間も威力も、セリオンさんが使うのを僕は見ていた。
アリアちゃんが魔法を発動する時を見計らって、火の玉の正面に位置を取る。アリアちゃんの放った氷魔法が、向かってくる火の玉を散らした。
あいつはジャウマさんほど力強くない。あいつの動きはヴィーさんほどに素早くはないし、あいつの魔法発動はセリオンさんほど早くはない。
――いいや、違う。
ジャウマさんたち3人が、最後に魔王を弱らせてくれたからだ。僕ら二人だけの力じゃない。
相手の隙を見つける方法もタイミングも、ジャウマさんの戦いを見て覚えている。魔王の攻撃を避けて足の間から背後に回り込んだ。
アリアちゃんが魔王に叫ぶ。
「貴方は私の母を奪い、私の人生を奪おうとした。そして、この世界から平和を奪おうとしている」
『全て神のご意思だ! この世界に我らの力を満たせと――』
「いいえ」
魔王の言葉を、アリアちゃんが遮った。
「この世界の人間たちは、すでに自ら戦えるだけの魔力を身に付けている。この世界に来た魔族の末裔は、獣人としてこの世界の一員となっている。もうこの世界に魔族は必要ない」
話しながら、アリアちゃんがありったけの魔法をその手に籠めている。もうすぐ、それが満たされる。
「私は貴方の娘です。王の娘として、私は貴方を止めます。そして――」
魔力は満ちた。
「ゼーン。私が貴方に代わって、魔族の王になります」
振り向いた魔王に、アリアちゃんの全ての魔力を籠めた魔法が放たれる。その魔法は、魔王の体を焼き、手足を凍らせ、風で全身を切り刻んだ。
アリアちゃんは、戦いを望まない。
アリアちゃんが王になれば、魔族たち……いや、この世界の獣人や人間たちの中にある争いを望む気持ちも、以前よりは抑えられるだろう。
そして願わくば皆が幸せになれる世界に……
動かなくなった魔王にポーションを浴びせると、その体から黒い靄が沸きだしてきた。これは魔王の魔力と女神様から奪った神力が混ざった物だ。
アリアちゃんはいつも『黒い魔獣』にしていたように、魔王に手のひらを向ける。魔王の体は端から崩れるように黒い靄に変わっていき、湧き出した黒い靄と一緒に、流れるようにアリアちゃんの手の中へ吸い込まれていく。
「私はね、ずっとずっと幸せだったよ。優しいパパたちが一緒にいてくれて。こうして再会できたラウルと、一緒に旅ができて。でも本当はもっと……」
アリアちゃんの言葉の続きは、嗚咽で聞こえなかった。
* * *
魔王の城が崩れるのを確認して、狼の足で駆け出した。
大黒狼の姿をした僕の背には、アリアちゃんと傷ついたクーが乗せられている。
「パパ…… パパ……」
あれからずっと、アリアちゃんの涙が止まらない。
「城へ帰ろう」
声をかけると、彼女は僕の首にぎゅっとしがみついた。そして、また泣いた。
あれは、星がきれいな夜だった。
『ラウル、星にお願い事をしましょう』
無邪気に微笑みながらアリアちゃんが言った。
『そうだね、何をお願いする?』
『私はね、ずっとずーーっと皆と一緒にいたいなぁ』
彼女はそう言って、星空を見上げた。
ああ、そうだね。アリアちゃんはずっとそれを、ただそれだけを望んでいた。
この世界の平和よりも、ずっと皆と一緒にいることを、本当は願ってしまっていただろう。
結局僕は、本当の意味ではアリアちゃんを護ることはできなかったのかもしれない。だってこんなにも、彼女は泣いている。
僕の背中で泣いている彼女の、その涙を止めることすらも、僕にはできない。
でもせめて僕は、君とずっと一緒にいるから……
* * *
夢を見た。
皆で仲良く暮らす夢だ。
この世界に迷い込んだ魔族たちを、人間たちは温かく迎え入れてくれた。
そうして人間と魔族が共にくらす内に、種族を越えて恋に落ちる者が現れる。彼らの子供たちは人間と魔族の性質を合わせ持っていて、それらは獣人と呼ばれるようになる。また人間の内にも魔力を持つ者も生まれるようになった。
今日も森で摘んだ薬草を持って、町へ帰る。
町の門番は犬の獣人と、もう一人は人間だ。門番が獣人なのはよくある事だ。人間よりも耳や鼻がよく利く彼らにはこういう仕事がよく合っている。
冒険者ギルドでは、受付のおねえさんが薬草や魔物素材を判別してくれる。こういうのは彼女のような魔族の方が、素材に含まれる魔力を読むことができる。
報告の列に並ぶ冒険者たちも、様々な種族がいる。人間、獣人、魔族、それらの混血の者も。
どの種族が優れているとか、劣っているだとか、そういうのは関係ない。どんな種族であろうと、それぞれの長所を生かし、短所を補い合えば、こうして上手くやっていけるのに。
この世界の創造神は、何の為に僕らの一族をこの世界に呼んだのだろう。ここをどんな世界にしたかったのかな。
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