ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

都鳥

文字の大きさ
10 / 333
冒険者デビュー

9 朝の風景、旅の話

しおりを挟む
 わんこ…… もとい、リリアンの朝はとても早い。
 日が昇る前、一番鶏より早く起きる。朝イチでするのは走り込みや素振りなどの基礎トレーニングだ。朝の薄明かりの中、『重量増幅』した上で街中の公園を何十周も走る。本当は町の外に出たいが、暗いうちは門番に止められるので、それは諦めた。

 前世でSランクの冒険者だったリリアンは、その頃のスキルをそのまま引き継いでいる。なので並みの冒険者よりも動けるはずだ。しかし体力や筋力などの基礎力は高くはない。肉体自体は赤子からのリスタートなので、当然と言えば当然だろう。
 その為こういった基礎トレーニングは、幼い頃からほぼ毎日行っている。おかげで今は、この年齢並み以上の基礎力を有するようになっていた。

 * * *

 デニスの朝も早い。
 一番鶏と同じくらいに起き、準備運動をしていつもの公園に向かう。軽くジョギングを済ませた頃に、子供たちが集まってくる。デニスの育った孤児院の子も居れば、貧民街の子供もいる。彼らの、体力づくり程度ではあるが、朝のトレーニングの相手をしているのだ。
 それが終わると、一人ずつにパンを手渡す。トレーニング目的でなく、そのパンが目的で来ている貧しい家の子供もいるようだ。でもそれでもいいんじゃないかと、デニスは思っている。
「腹が減ると、心も減るからな」
 腹が膨れてちょっとでも嬉しくなれるのなら、それはいい事に決まっている。

 * * *

 アランの朝もそれなりに早い。
 元々規則の厳しい騎士団に居た過去もあるし、今は雇われ人の立場である。主よりも遅く起きるわけにはいかないのだ。とはいえ、その主はむしろ寝坊しかねない生活態度なのだが。
 庭で軽い運動と素振りをして家に入ると、アランと同じ頃に起床したメイドが朝食の支度をほぼ済ませている。軽く絞った布で体の汗と埃を拭い、普段着に着替えると主を起こすまでがいつもの流れだ。

 * * *

 ニールはちょっと朝に弱い。
 王都に来る前には朝はメイドが起こしてくれていたし、今はアランが起こしてくれるので、それに甘えてしまっているのだ。最近は寝る前に図書館で借りてきた本を読みふけってしまっているのも原因だろう。これに関しては、一応冒険者としての勉強も兼ねているのでダメとは言えないと、アランは思っている。

 着替えて顔を洗い、アランと共に食卓に着く。最近は夕食を外で食べる機会が増え、腕を振るう機会が減った為、メイドが以前より朝食の支度に力を入れるようになった。今日は具沢山の野菜スープ、モーアの燻製肉を薄切りにして敷いた目玉焼きサニーサイドアップ、季節の野菜サラダ、手製の焼きたてパンが3種にパニールカッテージチーズが添えてある。

 このモーアの燻製肉は自分の力で手に入れたものだ。まともに冒険者らしいクエストをしたのはあれが初めてだった。またあんな風に…… いやもっと上のクエストにも行けるようになりたい。
「……なぁ、アラン。俺も朝練するから、明日から早く起こしてくれないか??」
 そう言うと、アランはちょっと驚いた様な顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻って澄まして言った。
殊勝しゅしょうな心掛けです。しかし、それなら起きるのも自分でなさってください」
 藪をつついて蛇を出したと思い、一瞬眉間に皺が寄った。が、あの時の自分の甘さに気付いた事を思い出した。違うな、蛇なんかじゃない。
「うん…… 努力する」
 はっきりと断言できない事は今は許してほしい。ひとまず今日は早く寝よう。

 * * *

 今日は久しぶりにデニスさん、アランさん、ニールとクエストに行ってきて、お陰で私はもう一つランクアップする事ができた。オークを狩ってきたので、夕飯はジンジャーソテーかトンカツかな?

 ニールが「今日のクエストも、また食える魔獣なんだな」って言うと、デニスさんは「クエストの後にも楽しみがある方がいいじゃねぇか」って笑いながら答えてた。
 でも、知っている。デニスさんは自分の取り分の肉を全部、孤児院に持っていくか困っている後輩たちにあげてしまうのだ。
 お金を渡すのは、受け取る側の心が傷つく時もある。でも食べ物を渡すのなら、とりあえずはお腹を空かせずに済む。クエストで多く獲ったからと言えば、相手が受け取りやすい事もわかっている。だから、食べるのに困らなくなるクエストを選ぶ。自分が食べたいからと、言い訳をして。

 いつもの様に『樫の木亭』でオークを調理してもらう事になった。席に着くとミリアちゃんが注文を取りに来た。
「こんばんは。デニスさん、この間はありがとうございました」
「ん?? ああ、あん時なー。気にすんな」
 ひらひらと手を振って答える。
「リリちゃん、ちゃんとお礼言った??」
 ミリアちゃんが私に小声で聞いてきた。

 …… まだ、言ってない……
 私の気まずそうな顔をみると、ミリアちゃんは「ちゃんと言わなきゃダメよ」と耳打ちして、去って行った。

 3人の視線がなんとなく集まる。
「あー…… 大した事じゃねぇし。怪我した訳でもなかったから、もう良いじゃねぇか」
 ミリアも真面目だからなぁと、デニスさんは呟いた。
「いえ、ご迷惑おかけしました。ありがとうございます……」
 何とかお礼を言ったが、二人の…… 特にニールの視線が恥ずかしい…… ニールは顔に出過ぎるんだよー 何があったの?って聞きたそうなの丸わかりじゃない。

「こないだの礼拝の時な、リリアンがぶっ倒れちまったんだよ。で、俺がここまで運んだからさ」
 間違ってはいない程度に、デニスさんが説明してくれた。
「あぁ、あの人混みですからねぇ。体調崩す人も居ますよね」
 アランさんがなるほどと言った様子でうなずき、その言葉に安堵あんどする。が、
「リリちゃん、ウォレス様に笑顔がもらえて、嬉しくてのぼせちゃったのよね~」
 飲み物を持ってきたミリアちゃんがニコニコしながら口を挟み、デニスさんの配慮を台無しにした。本人はそんなつもりはなく、また全くその事にも気付いていない。
「ルーファス様、格好よかったな~。リリちゃんも、旅に出る前にウォレス様に会えて良かったよね♪」
 ミリアちゃんは上機嫌にそう言って、別のテーブルに向って行った。

「え? 旅??」
 良かった、話が逸れた。この二人にはまだ言ってなかったのよね。
「うん。ニール、アランさん、私しばらく旅に出ますので」
 ニールは今度はきょとんとした顔をした。今日は特に表情が忙しいね。
「実家に、冒険者になった事を報告して来ようと思いまして」
 おおよそ1年ぶりの里帰りだ。

 オークのジンジャーソテーの乗ったディナープレートをつつきながら話をする。
「リリアンの故郷って、やっぱり獣人の国?」
「うん、その中でも北の方にあるよ」
 ニールは国と言ったが、正確には国ではない。獣人の村や町などが集まっており、それぞれが自治体として機能している地域である。
 シルディス王国やエルフの国、ドワーフの国などに対して、便宜上「獣人の国」として括られているに過ぎない。

「それだとかなり遠いですよね。ここから国境まででも馬車で五日はかかりますし……」
「国境から、さらに馬車だと三日くらいですね」
 嘘ではない嘘をついた。
「うへーー 遠そうだなぁ……」
「ちょっと寄る場所もあるので、戻るのはひと月後くらいになると思います」

「アラン、俺も行ってみ……」「ダメですよ」
 アランさんにピシッと拒否されて、ニールはかなり情けない顔をした。
 故郷の話をはじめたら、ニールの目がキラキラしていたから、そう言いだしそうな予感はしていたのよね。私としても、今回は色々と目的があるので遠慮してほしい。
「なんかお土産、買ってくるからね」
 にっこりと断言して、ニールの希望を砕いておいた。さらに情けない顔になったニールを見て、デニスさんが諦めろと言いながら隠しもせずに笑った。

==============================

(メモ)
 『重量増幅』の魔法石(#7)
 ニールの家(#4)
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

処理中です...