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二度目の帰還
49 幽霊屋敷/デニス(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。友人の家に仮居候中。
====================
未練がましく、あの日の事を思い出す。
あの朝、泊めてもらった隠れ家のベッドで目が覚めたら一人だった。一応気遣って、ベッドの端で横になったはずだが、いつの間にど真ん中で寝ていたようだ。
リリアンの朝は早く、結局彼女がベッドに来たかどうかも、わからないままで。
「デニスさん、良く眠れてたみたいですね」
そう彼女は言ったけれど、それが俺の眠った後にベッドに来たからなのか、朝のトレーニングの前にでも様子を見に来たのか、それとも俺が起きるのが遅かったからなのか、どれもがありそうでわからない。
だからと言って、昨晩は俺の横で寝たのか?だなんて、そんな事を聞けるはずもなかった。
でも、もし同じベッドで一緒に寝ていたのなら、それはそれで目が覚めなかった事を後悔するだろうし。目が覚めていたら、きっと自分はどうしたらいいのかと戸惑っただろうし。彼女が来なかったのであれば…… それはそれでまた良くない事を考えてしまいそうだ。
ただ言えるのはこの数日、リリアンの隣で目覚める夢を見るのは、確実にあの日の所為だ。そしてその度に、大きなため息をついているのも。
今朝もそんな理由で大きなため息を一つついてから、ベッドを抜け出した。
昼からはリリアンと部屋を見に行くから、それまでにやる事は済ませておかないと。
* * *
「こんにちはー」
リリアンは、勝手知ったる様子で部屋に入って来た。
「おう、もう支度は出来てるから行けるぞ」
「先にこれ渡しておこうと思いましてー」
そう言ってリリアンが差し出した包みからは、甘い香りがした。
「今朝作ったんです。味見をしてもらいたくて。後でおやつに食べましょう」
包みを少し開けてみるとアップルパイの様だ。でもアップルパイってもっと別の香りもしなかったか? 甘く煮たリンゴの香りと、何か爽やかな香りがして、これはこれで美味そうだ。今すぐにでも食べたいが、部屋を探しに行くのが遅くなっちまうからな。包みを直して、マジックボックスに仕舞った。
部屋を探すにはいくつかの窓口があって、町には住む場所を斡旋してくれる店もあるし、商業ギルドにも家や部屋を紹介してくれる窓口がある。冒険者向けの部屋は、やはり冒険者ギルドの方が見つかりやすい。
リリアンもまずは冒険者ギルドで探す様だ。
家族持ちならともかく、単身の冒険者ならば家に居ない事も多いので、そう広くはない部屋を好む。荷物も最低限しか持たないので、収納にもそれほど拘らない。共用の台所がついているか、賄いのある部屋が人気が高い。個人用の風呂が付くと家賃が高くなるので、共用の風呂がある部屋や、風呂屋などを利用する者も多い。
リリアンは食事は『樫の木亭』でとるだろうし、台所は無くてもよさそうだよな。でも綺麗好きだから、風呂は欲しがるのかもなあ。そう、勝手に思っていた。
でもその予想は殆どが外れた。
「中古の売家の情報を見せてもらえませんか?」
そう言われた担当の男性は首を傾げた。
「家ですか? 部屋ではなく?」
「西地区の塀の近くに、気になる家を見つけたんです。売家になっていたので、こちらに情報があるんじゃないかと思って」
「冒険者ギルドで主に扱うのは単身用の物件ですからねえ。家なら商業ギルドの方が揃えが良いと思いますよ」
そう言いながらも、手慣れた様子で棚から物件の資料を取り出し、いくつかを見せてくれた。しかし、どれもリリアンの探している家ではないらしい。
リリアンは壁に貼ってあった王都の地図を眺めて、一点を指さした。
「確かここだったと思います」
担当者はそこをじーっと見つめて。いくらかの間の後に、あああそこかと、思い出した様に声を上げた。
「そこ、幽霊屋敷ですね」
「幽霊??」
「屋敷という程大きくはないのですが。つまり、出るんでしてね。そう呼ばれるようになったんです。勿論買い手は付かないし、こちらも無理に売ろうとも思わないので、ほったらかしになっているんですよね」
「ほったらかしって…… 管理はしているんだろう?」
「しているといえる程もしていませんよ。何せ幽霊の所為で誰も中に入れないんです。月に一度、家周りの確認だけはしていますが、その程度で。もう10年以上も前からずーーっとそんな感じですから、中ももう使える状態ではないと思います」
担当者はそんな話をしながら、棚の一番端から一つの書類箱を持ってきた。
「幽霊って事は、ゴーストかレイスとかだろう? 倒せないのか?」
担当者はその箱から資料を一つずつ出して確認をしながら話を続ける。
「過去に倒そうとした者はいるようですが、ダメだったと聞いています。こちらが掴もうとしても実体はなく、あちらからは触れる事が出来る様なので一方的だとか。そして触れられると魔力を持っていかれるらしいです」
「……ドレインを使うって事はレイスか。そりゃ厄介だな」
ああ、あったあったと言いながら、担当者は取り出した資料を机に並べた。
「しかも魔法も吸収されてしまうそうです。まあ、強力な魔法を試した事はないようですが。何せ町中なので、派手な事はするなとのご近所の反対もあって、そこまでの事は出来ないんです」
並べられたそれは、その家に対する報告書だった。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。友人の家に仮居候中。
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未練がましく、あの日の事を思い出す。
あの朝、泊めてもらった隠れ家のベッドで目が覚めたら一人だった。一応気遣って、ベッドの端で横になったはずだが、いつの間にど真ん中で寝ていたようだ。
リリアンの朝は早く、結局彼女がベッドに来たかどうかも、わからないままで。
「デニスさん、良く眠れてたみたいですね」
そう彼女は言ったけれど、それが俺の眠った後にベッドに来たからなのか、朝のトレーニングの前にでも様子を見に来たのか、それとも俺が起きるのが遅かったからなのか、どれもがありそうでわからない。
だからと言って、昨晩は俺の横で寝たのか?だなんて、そんな事を聞けるはずもなかった。
でも、もし同じベッドで一緒に寝ていたのなら、それはそれで目が覚めなかった事を後悔するだろうし。目が覚めていたら、きっと自分はどうしたらいいのかと戸惑っただろうし。彼女が来なかったのであれば…… それはそれでまた良くない事を考えてしまいそうだ。
ただ言えるのはこの数日、リリアンの隣で目覚める夢を見るのは、確実にあの日の所為だ。そしてその度に、大きなため息をついているのも。
今朝もそんな理由で大きなため息を一つついてから、ベッドを抜け出した。
昼からはリリアンと部屋を見に行くから、それまでにやる事は済ませておかないと。
* * *
「こんにちはー」
リリアンは、勝手知ったる様子で部屋に入って来た。
「おう、もう支度は出来てるから行けるぞ」
「先にこれ渡しておこうと思いましてー」
そう言ってリリアンが差し出した包みからは、甘い香りがした。
「今朝作ったんです。味見をしてもらいたくて。後でおやつに食べましょう」
包みを少し開けてみるとアップルパイの様だ。でもアップルパイってもっと別の香りもしなかったか? 甘く煮たリンゴの香りと、何か爽やかな香りがして、これはこれで美味そうだ。今すぐにでも食べたいが、部屋を探しに行くのが遅くなっちまうからな。包みを直して、マジックボックスに仕舞った。
部屋を探すにはいくつかの窓口があって、町には住む場所を斡旋してくれる店もあるし、商業ギルドにも家や部屋を紹介してくれる窓口がある。冒険者向けの部屋は、やはり冒険者ギルドの方が見つかりやすい。
リリアンもまずは冒険者ギルドで探す様だ。
家族持ちならともかく、単身の冒険者ならば家に居ない事も多いので、そう広くはない部屋を好む。荷物も最低限しか持たないので、収納にもそれほど拘らない。共用の台所がついているか、賄いのある部屋が人気が高い。個人用の風呂が付くと家賃が高くなるので、共用の風呂がある部屋や、風呂屋などを利用する者も多い。
リリアンは食事は『樫の木亭』でとるだろうし、台所は無くてもよさそうだよな。でも綺麗好きだから、風呂は欲しがるのかもなあ。そう、勝手に思っていた。
でもその予想は殆どが外れた。
「中古の売家の情報を見せてもらえませんか?」
そう言われた担当の男性は首を傾げた。
「家ですか? 部屋ではなく?」
「西地区の塀の近くに、気になる家を見つけたんです。売家になっていたので、こちらに情報があるんじゃないかと思って」
「冒険者ギルドで主に扱うのは単身用の物件ですからねえ。家なら商業ギルドの方が揃えが良いと思いますよ」
そう言いながらも、手慣れた様子で棚から物件の資料を取り出し、いくつかを見せてくれた。しかし、どれもリリアンの探している家ではないらしい。
リリアンは壁に貼ってあった王都の地図を眺めて、一点を指さした。
「確かここだったと思います」
担当者はそこをじーっと見つめて。いくらかの間の後に、あああそこかと、思い出した様に声を上げた。
「そこ、幽霊屋敷ですね」
「幽霊??」
「屋敷という程大きくはないのですが。つまり、出るんでしてね。そう呼ばれるようになったんです。勿論買い手は付かないし、こちらも無理に売ろうとも思わないので、ほったらかしになっているんですよね」
「ほったらかしって…… 管理はしているんだろう?」
「しているといえる程もしていませんよ。何せ幽霊の所為で誰も中に入れないんです。月に一度、家周りの確認だけはしていますが、その程度で。もう10年以上も前からずーーっとそんな感じですから、中ももう使える状態ではないと思います」
担当者はそんな話をしながら、棚の一番端から一つの書類箱を持ってきた。
「幽霊って事は、ゴーストかレイスとかだろう? 倒せないのか?」
担当者はその箱から資料を一つずつ出して確認をしながら話を続ける。
「過去に倒そうとした者はいるようですが、ダメだったと聞いています。こちらが掴もうとしても実体はなく、あちらからは触れる事が出来る様なので一方的だとか。そして触れられると魔力を持っていかれるらしいです」
「……ドレインを使うって事はレイスか。そりゃ厄介だな」
ああ、あったあったと言いながら、担当者は取り出した資料を机に並べた。
「しかも魔法も吸収されてしまうそうです。まあ、強力な魔法を試した事はないようですが。何せ町中なので、派手な事はするなとのご近所の反対もあって、そこまでの事は出来ないんです」
並べられたそれは、その家に対する報告書だった。
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