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討伐隊選出
103 ランクアップ(2)
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・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時もある。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、Sランク冒険者。デニスの兄貴分。ずっとアシュリーに想いを寄せていた。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…デニスの後輩のBランク冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。
====================
階上にある応接室に通された。中央にある立派なテーブルの上には記録の魔法石など冒険者カード管理用の魔道具一式が置かれている。
私たちを迎え入れたギルドマスターのマイルズさんは、腕組みをしながら少し難しそうな顔をしていた。
「シアンからざっと話は聞いた。闘技大会に出る為に経験値清算をしてほしいとの事だが、デニスはともかく、リリアンには流石に無理じゃないのか? いくら見習い時代に経験値を貯め込んでいたとしても、まだデビューして1年も経っていないんだろう?」
マイルズさんがそう言うのは当然だ。貴族の坊ちゃん冒険者のように、人を頼んで経験値を荒稼ぎするのならともかく、真っ当な方法でそこまでの経験値を貯めるのは並大抵な事ではない。
「まあひとまず見てやってくれや。足りなきゃまたミノタウロスでも倒して来るさ」
「ああ、以前にミノタウロスを倒したって言ってたな。でも偶然に手負いに会ったってヤツだろう? そうそうそんな幸運はないと思うぞ。それに分不相応なランクを与えても、彼女の為にはならんぞ」
「王都に戻ってから何度も一緒にクエストに行っている。しかもここしばらく一緒に旅をして、リリアンの働きもちゃんと見てたんだ。俺のお墨付きだぜ」
シアさんにほれほれと促されて、一部偽装を解除した冒険者カードをマイルズさんに渡す。マイルズさんがそのカードに記録の魔法石をかざすと、光る文字が浮かんでは隣にある板状の魔道具に吸い込まれていき、それは板の上で文章として固定された。
「……お前ら? いったい何をして来たんだ??」
それを読んだマイルズさんは、驚きの表情を隠す事もしなかった。
「高ランクのダンジョンを幾つか巡って来た」
デニスさんの答えに、マイルズさんはまた眉をしかめた。
高レベルのダンジョンを踏破した場合は、依頼としてでなくても経験値が計上される。その上いつぞやのヌエのようなダンジョンボスを討伐した場合には、ボス討伐の経験値がさらに加算される。
本来ならば、地図埋めともう一つ別の目的があって、その為のダンジョン巡りだったのだけれど、ランクアップの為の経験値もかなり稼ぐ事ができた。
「……一応リリアンの経験値はAランク相当まで計上された。しかし、ランクアップのもう一つの条件で、何かBランク以上のクエストをクリアしないといけない」
その言葉を受けて、アランさんがなるほど、と呟いたのが耳に入った。
「先日、私が受けたクエストなのですが、完了の報告だけしてあって経験値清算がまだなのです。自分も内密にお願いしたくてご一緒させていただいたのですが……」
そう言って手に持っていた書類をテーブルに置くと、アランさんは何か言いたげに私の顔をちらりと見た。
マイルズさんはアランさんのカードに魔法石にかざすと、書類と照合しながら確認をしていたが、もう一度私のカードの記録を確認してから、今度はこちらを睨み付けた。
「まったく…… わざわざ面倒な事をさせやがってと思っていたが、こりゃあ内密に処理して正解だな」
そう言って、マイルズさんはちょっと寂しそうな頭に手をおいて大きなため息をついて見せた。
「おめでとう、リリアン。今から君もAランク冒険者だ。しかしシアンから頼まれた通り、この事は内密の事とさせてもらう。カードの表記もBランクという事にしておこう。だが君はいいのかね? このままではランク通りのクエストは受けられない」
「構いません。目的はクエストではありませんので」
「……獣人が闘技大会に出た前例はないぞ」
「前例がないだけで、禁止はされていないはずです。獣人が闘技大会に出なかったのは、理由が無いからです。魔族は獣人の国を襲いません。ここシルディスに居る獣人の戦士たちにとって、故郷はあくまでも獣人の国で、この国ではありません。彼らは魔王を倒してこの国を守る、そこまでの理由を持ってはいないのです」
「君にはあるんだな」
にこりとただ笑ってみせる。それを見て、マイルズさんは敢えてそれ以上は訊かずに話を止めた。
「わかった。シアンの言う通りにしよう」
そこから、マイルズさんはアランさんに視線を移した。
「アランもこれでAランクだ。さっき清算したクエストは騎士仲間と二人で行ったらしいと受付嬢からは聞いていたが…… 何故かそこにリリアンの名前があった理由は、今は訊かないでおこう」
その話を聞いて、シアさんとデニスさんの視線が私に向けられ、誤魔化したくて笑おうとした。
「ったく、そういう事か…… まあ、結果的には良かったけどよ」
危ない事はすんじゃねえぞとシアさんに言われ、一応首をぶんぶんと縦に振っておいた。
デニスさんのランクを『S』に書き換える作業は、何の問題もなく終わった。
「アランも闘技大会に出るのか?」
「……デニスさんに敵うとは思ってはいません。ですが、実力を試してみたくはあるのです」
そう言ったアランさんに向けて、マイルズさんが大きな声で笑いながら激励の言葉をかけ、少しだけ場の空気が緩んだ。
これで闘技大会に出られる。そうして討伐隊になって、魔王のもとへ――
渡された『B』と書かれた冒険者カードを、ぎゅっと握りしめた。
====================
(メモ)
貴族の坊ちゃん冒険者(#6)
ミノタウロス(#12)
ダンジョン(#89、#90)
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、Sランク冒険者。デニスの兄貴分。ずっとアシュリーに想いを寄せていた。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…デニスの後輩のBランク冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。
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階上にある応接室に通された。中央にある立派なテーブルの上には記録の魔法石など冒険者カード管理用の魔道具一式が置かれている。
私たちを迎え入れたギルドマスターのマイルズさんは、腕組みをしながら少し難しそうな顔をしていた。
「シアンからざっと話は聞いた。闘技大会に出る為に経験値清算をしてほしいとの事だが、デニスはともかく、リリアンには流石に無理じゃないのか? いくら見習い時代に経験値を貯め込んでいたとしても、まだデビューして1年も経っていないんだろう?」
マイルズさんがそう言うのは当然だ。貴族の坊ちゃん冒険者のように、人を頼んで経験値を荒稼ぎするのならともかく、真っ当な方法でそこまでの経験値を貯めるのは並大抵な事ではない。
「まあひとまず見てやってくれや。足りなきゃまたミノタウロスでも倒して来るさ」
「ああ、以前にミノタウロスを倒したって言ってたな。でも偶然に手負いに会ったってヤツだろう? そうそうそんな幸運はないと思うぞ。それに分不相応なランクを与えても、彼女の為にはならんぞ」
「王都に戻ってから何度も一緒にクエストに行っている。しかもここしばらく一緒に旅をして、リリアンの働きもちゃんと見てたんだ。俺のお墨付きだぜ」
シアさんにほれほれと促されて、一部偽装を解除した冒険者カードをマイルズさんに渡す。マイルズさんがそのカードに記録の魔法石をかざすと、光る文字が浮かんでは隣にある板状の魔道具に吸い込まれていき、それは板の上で文章として固定された。
「……お前ら? いったい何をして来たんだ??」
それを読んだマイルズさんは、驚きの表情を隠す事もしなかった。
「高ランクのダンジョンを幾つか巡って来た」
デニスさんの答えに、マイルズさんはまた眉をしかめた。
高レベルのダンジョンを踏破した場合は、依頼としてでなくても経験値が計上される。その上いつぞやのヌエのようなダンジョンボスを討伐した場合には、ボス討伐の経験値がさらに加算される。
本来ならば、地図埋めともう一つ別の目的があって、その為のダンジョン巡りだったのだけれど、ランクアップの為の経験値もかなり稼ぐ事ができた。
「……一応リリアンの経験値はAランク相当まで計上された。しかし、ランクアップのもう一つの条件で、何かBランク以上のクエストをクリアしないといけない」
その言葉を受けて、アランさんがなるほど、と呟いたのが耳に入った。
「先日、私が受けたクエストなのですが、完了の報告だけしてあって経験値清算がまだなのです。自分も内密にお願いしたくてご一緒させていただいたのですが……」
そう言って手に持っていた書類をテーブルに置くと、アランさんは何か言いたげに私の顔をちらりと見た。
マイルズさんはアランさんのカードに魔法石にかざすと、書類と照合しながら確認をしていたが、もう一度私のカードの記録を確認してから、今度はこちらを睨み付けた。
「まったく…… わざわざ面倒な事をさせやがってと思っていたが、こりゃあ内密に処理して正解だな」
そう言って、マイルズさんはちょっと寂しそうな頭に手をおいて大きなため息をついて見せた。
「おめでとう、リリアン。今から君もAランク冒険者だ。しかしシアンから頼まれた通り、この事は内密の事とさせてもらう。カードの表記もBランクという事にしておこう。だが君はいいのかね? このままではランク通りのクエストは受けられない」
「構いません。目的はクエストではありませんので」
「……獣人が闘技大会に出た前例はないぞ」
「前例がないだけで、禁止はされていないはずです。獣人が闘技大会に出なかったのは、理由が無いからです。魔族は獣人の国を襲いません。ここシルディスに居る獣人の戦士たちにとって、故郷はあくまでも獣人の国で、この国ではありません。彼らは魔王を倒してこの国を守る、そこまでの理由を持ってはいないのです」
「君にはあるんだな」
にこりとただ笑ってみせる。それを見て、マイルズさんは敢えてそれ以上は訊かずに話を止めた。
「わかった。シアンの言う通りにしよう」
そこから、マイルズさんはアランさんに視線を移した。
「アランもこれでAランクだ。さっき清算したクエストは騎士仲間と二人で行ったらしいと受付嬢からは聞いていたが…… 何故かそこにリリアンの名前があった理由は、今は訊かないでおこう」
その話を聞いて、シアさんとデニスさんの視線が私に向けられ、誤魔化したくて笑おうとした。
「ったく、そういう事か…… まあ、結果的には良かったけどよ」
危ない事はすんじゃねえぞとシアさんに言われ、一応首をぶんぶんと縦に振っておいた。
デニスさんのランクを『S』に書き換える作業は、何の問題もなく終わった。
「アランも闘技大会に出るのか?」
「……デニスさんに敵うとは思ってはいません。ですが、実力を試してみたくはあるのです」
そう言ったアランさんに向けて、マイルズさんが大きな声で笑いながら激励の言葉をかけ、少しだけ場の空気が緩んだ。
これで闘技大会に出られる。そうして討伐隊になって、魔王のもとへ――
渡された『B』と書かれた冒険者カードを、ぎゅっと握りしめた。
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(メモ)
貴族の坊ちゃん冒険者(#6)
ミノタウロス(#12)
ダンジョン(#89、#90)
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