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第十話 もう1人の転生者

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 クロエと出会ってから、1年半が経った。

 今は、クロエと、街に出掛けている。

 いつも通り、街を歩いていると、目の前に、何者かが、立ち塞がった。

 その顔には、見覚えがあった。

 あいつは、確か、2番目に仲間になるはずだった剣士だ。

 何故、こんなところにいる?

 シナリオ的には、11歳で、シロエと会ってから、1年後ぐらいに、出会うはずだ。

 そんなことを思っていると、剣士が、口を開き始めた。

 「何故、こんなところにいるんだ?主人公が?」と、剣士が、聞いてきた。

 俺は、何も答えなかった。

 クロエは、困惑した表情を浮かべていた。

 俺の答えを聞かずに、剣士は、「お前には、使命があるはずだ。魔王クロエを倒すという使命が。困るだよ、主人公。俺は、サブキャラを攻略したいからな」

 サブキャラ?

 ああ、あの女騎士か。

 シロエのストーリーしか出てこない奴か。

 こいつ、俺のことを主人公だと言ったか?

 と言うとこは、こいつは、俺と一緒の転生者か。

 そんなことを考えながら、ふっと、クロエの方を見てみると、怯えていた。

 クソ、失敗した。

 あいつは、クロエのことを魔王と言ったのか。

 クロエからしてみれば、自分が、魔王と呼ばれている。

 怯え無い訳ない。

 「失礼だな。こんな奴無視して、行こうか」と言い、クロエの手を無理矢理引っ張って、家に帰った。

 後ろから、剣士は、何か言っていたが、全て無視した。

 夕食の食材は、家に残っていたので、今日は、もう外に出なかった。

 だが、クロエとの間には、殆ど会話が無かった。

 あっという間に、寝る時間になった。

 会話も無くベッドの中に入っていた。

 「起きてる?リク」と、クロエが、聞いてきた。

 「ああ、起きているよ」と、答えた。

 クロエは、俺の方を向き、目には、涙を溜めていた。

 「私は、魔王、なの?」と、クロエが、涙声で、聞いてきた。

 「そんな訳ないだろう」と、答えた。

 クロエは、いきなり、起き上がり、「そんな、訳ある。だって、昼間、私は、魔王と、呼ばれた。私は、世界に、愛され、ない、忌子。だから、だから、不思議、じゃない」

 「私には、幸せに、なる、権利は、ないの?」と、クロエは、涙を流しながら、聞いてきた。

 そのクロエの体は、震えていた。

 俺は、クロエを抱きしめた。

 安心させるために。

 「大丈夫だ、クロエ。君には、幸せになる権利はある。だから、そんなことを言わないでくれ」と、答えた。

 クロエは、俺の胸の中で、泣き始めた。

 俺は、クロエが、安心するまで、抱きしめ続けた。

 クロエは、自分が安心出来るまで、俺の胸で、泣き続けた。

 30分ぐらいすると、クロエは、俺の胸から、顔を上げた。

 「ありがとう、リク。私を、安心、させて、くれて。嬉し、かった」と言い、クロエは、微笑んだ。

 「安心してくれたなら、良かった」と言い、俺も微笑んだ。

 「リク。ワガママ、言っても、良い?」と、クロエが、無意識に、上目遣いをして、聞いてきた。

 「勿論、良いよ」と、答えた。

 「あ、ありがとう。え、えっと、このまま、寝ても、良い?」と、クロエは、恥ずかしいのか、顔を少し赤くして、聞いてきた。

 このままということは、抱きしめたままか。

 「良いよ」と、答えた。

 すると、クロエは、嬉しそうな表情を浮かべた。

 俺は、クロエと抱きついたまま、寝ることになった。

 クロエは、泣き疲れたのか、直ぐに寝てしまった。

 な、なんか、寝れないな。

 顔が、こんなにも近いと。

 し、しかも良い匂いがするし。

 結局、俺が、寝れたのが、日付が変わってからだった。
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