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第四話 責任

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 私が取り出したのは封印する為のものだ。

 確かに裏ボスは倒した。

 だが、また直ぐに復活する。

 裏ボスは憎悪そのものだ。

 故に憎悪を取り込め、直ぐに蘇生する。

 次蘇生したら、もう倒すことは出来ない。

 私のレベルが上がってしまったからだ。

 だから、封印しなければいけない。

 そう思い、私は封印を始めたのだ。

 半分まで完了し、少し気を抜いてしまった。

 その瞬間、封印するための水晶が破壊されてしまったのだ。

 誰だ?

 そう思い、攻撃がやって来た方を向いたのだ。

 そこには主人公がいた。

 「俺の手柄を取るな。俺は勇者だぞ」

 思わず、私は絶句してしまった。

 なんて、馬鹿なんだ。

 勇者だから強いと思っているのか?

 しかも、裏ボスを復活させ、何も出来ずに吹き飛ばされたくせに。

 面倒だ。

 そう思い、私は踏み込んだ。

 拳を握り。

 一瞬の内に私は主人公の懐に潜り込んでいた。

 レベル差があり過ぎて、主人公は何も反応出来てない。

 そのまま、腹に拳を入れたのだ。

 すると、主人公は何も出来ずにまた吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた主人公は地面に転がり、白目を剝いていたのだ。

 邪魔者はいなくなった。

 早く封印の続きを。

 そう思い、裏ボスの方を向くと同時に黒い霧が包んだのだ。

 こんなのゲームでは無かったぞ。

 動揺していると黒い霧は晴れ始め、影が見えてきたのだ。

 その影は裏ボスのドラゴンでは無かった。

 代わりに積まれた瓦礫の上に人影があったのだ。

 やがて黒い霧は完全に晴れた。

 人影の正体が現れたのだ。

 黒い髪を伸ばし、黒い瞳をしている美少女だった。

 歳は私と同じくらいだ。

 美少女が現れたことにも驚いたが、更に驚いたこともある。

 それは美少女の格好だ。

 美少女は黒を基調とした和服に身を包み、黒色の簪で髪を纏めている。

 「見事の1言じゃ。素直に認めよう、妾の負けだと」

 喋った。

 これは予測、いや、ほぼ確実だが、聞いてみるか。

 「まさか、封印されていた存在か?」

 「正解じゃ。名は無いから好きに呼ぶといい」

 おいおい、まじかよ。

 まさか、憎悪の根源が人化するとは。

 原因は。

 あの主人公のせいか。

 封印が途中で終わってしまったから。

 「性別は女性だったのですか?」

 「いや、違うのじゃ。性別は無かった。先に言っておくのじゃのが妾の力は封印され、人間ぐらいの魔力しか無いと」

 やっぱりか。

 力を封印することは出来たが、存在までは封印出来なかった。

 さて、これからどうしようか。

 本来なら封印して終わりだが、生きている。
 
 しかも、美少女の姿で。

 力を失っているから無闇に殺すことも出来ない。

 様々なことを考えていると声を掛けられた。

 「お主の名前は?」

 「これは申し訳無い。名乗っておりませんでした。私はターカ・グラーサと申します」

 「では、ターカ。妾と結婚してくれないのじゃ」

 突然の発言に私は思わず驚いてしまった。

 「さてはお主。婚約者がいるのか?」

 「い、いや、おりませんが」

 「なら、何も問題無い筈じゃが」

 「私としては問題ないですか?そんな簡単に決めて良いのですか?」

 「構わないのじゃ。妾もそんな簡単に死にたくないのじゃ」

 ああ、そういうことか。

 普通に考えて彼女は危険だ。

 安全策を取って、殺される。

 だから、私と結婚する。

 そうすれば、殺されることは無くなるからな。

 「それにターカには責任を取る必要があるのじゃ。人の同意無しに女の体にしたことの」

 それを言われると何も言い返せない。

 仕方ない。

 私は男だ。

 責任はきちんと取る。

 決意を固めた私は彼女の方を向いたのだ。

 「分かった。責任を取らせて貰う」

 「それでこそじゃ」

 そう言い、彼女は満足そうな表情を浮かべていたのだ。

 そうだ。

 彼女と呼ぶのは不便だ。

 好きに呼べと言われたから好きに名付けさせて貰う。

 「名前が無いと不便だから、勝手に呼ばさせて貰う。これからよろしく頼む、エリカ」

 「エリカか、いい名前じゃ。こちらこそ、よろしく頼むぞ」

 この日、私は裏ボスの憎悪の根源を倒したのだが、人化したエリカが婚約者となった。

 後が色々と大変そうだ。

 説明も後始末も。

 気を重くしながら、私はエリカの方に右手を伸ばした。

 エリカは少し躊躇した後、私の右手を取ってくれたのだ。

 私はエリカのことをエスコートし、瓦礫の山からまだ無事な建物まで移動した。
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