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第二十六話 凱旋
しおりを挟む今まで生贄になった者達を弔い、証拠として、古き害獣を持ち帰った。
それを持って、王城に帰ると、誰もが驚愕していた。
今まで、討伐出来なかった厄災を倒したのだから、無理も無いだろう。
私は、質問攻めにあう前に、王城を出て、家に戻った。
家の玄関を開けると、走る音が聞こえた。
その音は、どんどん近づいてきた。
息を切らしたエノーアがやって来た。
エノーアは、私の姿を見ると、両手で口を押さえ、目には、涙を溜めていた。
そして、そのまま私に胸に飛び込んできた。
「心配しました、篠井さん」
エノーアは、私のことを何処にも行かせまいと強く抱き締めてきた。
私は、少しでもエノーアを安心されるために、エノーアの頭を撫でた。
「もう大丈夫だ、エノーア。古き害獣は倒したから、もう生贄になることはない。だから、安心してくれ」
エノーアは、涙を流しながら、顔を上げた。
「本当にありがとうございます、篠井さん。でも、もう危険なことをしないで下さい。約束ですよ」
「ああ、約束するよ」
「はい、約束です。あ、忘れてました」
エノーアは、私から離れ、涙を拭った。
「お帰りなさい、篠井さん」
エノーアは、笑顔を浮べた。
ああ、この笑顔を失わらずに済んで、本当に良かった。
そんなことを思っていると、サリーサと純麗が、玄関にやって来た。
サリーサと純麗も私に抱き着いてきた。
再会を喜んだ後は、説教された。
危険なことをしないようにと。
私は、甘んじて受けた。
3人に心配掛けたのは事実だからな。
その後は、いつもの日常に戻ろうとしたが、何故か、パレードをすることになってしまった。
どうやら、相当の偉業みたいだ。
私は、重騎兵の装衣で、王都を回ることになってしまった。
民衆からは、大きな歓声を受けた。
まるで、凱旋だな。
パレードを終え、私は、王城前の広場に立った。
これから、演説するのだ。
だが、その前に彼女をここに。
ローブを被った者が私の隣に立った。
その者の手は震えていた。
私は、少しでも安心させる為にその者の右手を握った。
すると、その者の震えは止まり、私の方を向いた。
そして、その者は安心したような表情を浮べた。
その者は、エノーアだ。
ここで、真実を話すのだ。
エノーアのために。
これは、エノーアが、お願いしてきたことだ。
勿論、私達は反対したが、エノーアの意志は固かった。
エノーアは、ローブを脱いで、短い尖った耳をさらけ出した。
エノーアがハーフエルフだと気付くと、民衆は騒ぎ始めた。
中にはエノーアを罵る者もいた。
私は、フリントロック式の銃を取り出し、上に向け、引き金を引いた。
すると、銃声が聞こえた後、この場に静寂が訪れた。
「まず、宣言しておこう。私は、世界のためにあの厄災を倒したのではない。ハーフエルフのエノーアのために倒したに過ぎない」
民衆は、固唾を呑んで黙っていた。
「それと、ハーフエルフが、忌子と呼ばれる話を作ったのは、エルフだ。どうやらエルフは、純血が以外は、嫌悪する存在みたいだ。エルフ曰く、ハーフエルフは、世界に愛されていないみたいだ」
民衆は、唖然としていた。
無理も無いだろう。
今まで、当たり前だと思っていたことが、1つの種族が作った話に過ぎなかったのだから。
「だが、ハーフエルフは愛されている。こんな馬鹿みたいな話が浸透しているのに、恋に落ちた両親から生まれたハーフエルフはな」
私は、肩を竦めた。
「そもそも全てに愛される存在なんているわけないだろ。これで私の話は終わりだ」
私は、エノーアの手を引いて、去ろうとしたが、言い忘れたことを思い出した。
「あ、言い忘れていた。私もエノーアを愛している1人だ。だから、エノーアに危害を加えるようなら、古き害獣と同じ末路を辿るだろう」
そのまま、その場を後にした。
エノーアの顔は、何故か顔が赤かった。
その日、私は、エノーアに距離を取られた。
そして、サリーサと純麗から、なんとも言えない視線を向けられた。
私、何かしたか?
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