【エッセイ】自転車泥棒 

ロボモフ

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温かいのは最初だけ

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「温かい内にどうぞ!」

 まさにその通りである。温かいものを温かい内に食べる。それが温かいものを食べることの醍醐味である。そのためには食べることに集中しなければならない。食べている途中で食べていることを忘れたり、また他のことで夢中になりすぎてしまっては、その間に温かさが失われていくことになる。そうなっては後の祭りだ。温かかったのはもう過去のこと。冷たくなったものを食べることになってしまう。
 誰にでもできそうなことであるが、忙しい現代社会においては、これがなかなか難しい。いざ温かいものを食べようと構えている間にも、スマホが光り何かが更新されたことの通知が入る。反射的に手が伸びれば最後、SNSの世界に魂を奪われなかなか抜け出すことができなくなってしまう。そうなっては後の祭りだ。せっかくのもてなしも台無しである。そのような結果にならないためには、身近な誘惑に打ち勝つだけの集中力が必要である。


 温かい内に食べたくてもできないという人もいる。猫舌の人などは、少し冷めてから食べるくらいがちょうどいいのではないだろうか。温かいから温かい内に。一般的には喜ばれることかもしれないが、すべての場合にそれが当てはまるとも限らない。中には冷めた後でも、意外に美味しいというものもある。そういう場合は、そこまで急いで食べる必要はない。
 温かいものの代表と言えば、ラーメン、うどん、チャンポン、中華そば、タンメン、もやしそば、鴨南蛮そば、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、広島焼き、オムライス、ハンバーグ、シチュー、チャーハン、オムハヤシ、石焼きビビンバ、たい焼き、今川焼き、豚汁、ホットコーヒーである。


 温かいものを食べると体を内側から温めることができる。これは当然と言えば当然である。それ故に温かいものが最も人々に好まれるのは、寒い冬の間である。
 冬の代表的な料理と言えば鍋ではないだろうか。鍋が料理と聞いて腰を抜かす人がいるかもしれない。しかし、心配は無用。鍋そのものを食べるわけではなく、実際には鍋の中に入るものを食べるのである。鍋は中に入るものを温めるための道具であり、大切な手段を担うのだ。ぐつぐつと煮え立つ鍋は冬の大将軍であり、その発言力は部屋をも温めてしまう力を持っている。これは鍋の暖房いらずと言われることもあり、鍋の魅力の1つと言えよう。


 温かいものを食べると心まで温かくなるような気がする時がある。体が温かいものを欲している時、求めているのは心かもしれない。体と心はつながっている。今、僕がこうして色々なことを妄想できているのも、体が存在しているからに違いない。
 温かいものも、眺めている間にだんだんと冷めていってしまう。
 冷めていくのは、食べ物だけだろうか。


 最初だけ温かい。あなたはそんな人に会ったことがない?


 初対面ではすごく穏和そうな人だったのに、働き始めると急に当たりがきつくなってくる。距離がある内は優しかったのに、一緒に暮らすほどに冷たく変わっていってしまう。本当はその逆の方がいいのではないか。最初は怖そうな人に思えたが、長く時間を共有してみればその人のよさがだんだんとわかってくる。(ずっと変わらず温かいまま。それが本当は一番だろうか)
 ドラマなどでもそういうのがいい。いい奴に見えて悪人だったり。悪人と思われたのが、実はヒーローだったり。逆転のドラマが好きだ。


 コーヒーを4、5口、口に運ぶとだいたいいつも「温かいのもこれで最後か」と思う。そこから先、僕はほとんどコーヒーの存在を忘れて、疎かにしてしまうのだ。コーヒーを向いているのは席に着いてから最初だけで、後はPomeraの次元に入って行くことになっている。

「もったいないな」(せっかく温かいのに)

 Pomeraのいない世界で、僕はいつかコーヒーを飲んでみたい。
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