【エッセイ】自転車泥棒 

ロボモフ

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 眠るのが怖かった。
 目覚めたら誰もいなくなっているかもしれない。別の星になっているかもしれない。話が違っているかもしれない。疑わしい明日というものに一瞬でジャンプすることが怖かった。自分は自分のまま正しく再生されるだろうか。目覚めが裏切りを運んでくるのでは……。忘れかけていた疑いが帰ってくると夜の向こう側に渡るのが恐ろしくなった。

 怖くてもいつまでも現実にしがみついていることはできない。
 人には夢が必要だった。

 記憶を整理したり心を浄化したりするためには、どうしても夢の力を借りなければならない。もしも悪い夢を見た時は「夢でよかった」と現実に安堵することができる。それは生の肯定だ。もしも波瀾万丈ハラハラドキドキエンターテイメントな夢を見たなら、眠りながら思い出を作ったことになる。もしもそれを書き残すことができたとしたら……。
 夢は生産性を手にしたことになる。(眠りは単に義務でも休止でもない)

 記憶は断片的なものでもメモを取ること。取らなければその断片も忘れてしまう。断片もかき集めれば絵になる。隙間が曖昧につながって時間軸になる。夢見る度に書いていれば少しずつ覚え癖がついていく。あとは眠りの浅瀬で夢を拾ってくるだけだ。現実の世界とは少しずれた突拍子もないことが、夢の世界では当たり前のように起きる。テイクアウトはなかなか狙ってはできない。上手く行く時は結構続けて上手く行く。二度寝しても夢の続きを持ち帰れるドリーム・モードに入れる場合もある。そういう時には、寝溜めも惜しくない。

 眠りながら「創作活動をしている」。
 それはとても悪くない気分だ。
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