15 / 61
初心
しおりを挟む
「そんなお菓子みたいな文鎮で最後まで書き切ることができるかな。石ならばともかく……」
風は小馬鹿にしたように吹いた。
たかがそよ風くらいのことと私は甘く見ていた。3文字目まで書き終えたところ波は強まって、あと少しというところで浚われてしまった。
もう1つ……。
私は文鎮をもう1つ加えて書くことにした。
「そんなお菓子みたいなものいくつ重ねても無駄さ」
またしても風は小馬鹿にしたように吹いていた。
そんなことはないさ。重さが倍ならば余裕で勝てるはず。たかがそよ風くらいのものなのだから。一から始め自信を持って書いていく。4文字目の糸へとつながるところで波は強まって、既に重ねた文鎮は浮き始めていた。
(風じゃない。もっと見えない力が働いているのか)
私は負けた。あっけなく紙は飛ばされてしまう。
「そんなお菓子みたいなもの……」
それは本当だった。いくつ重ねても最後には浚われてしまう。私はずっと打ち勝つことができなかった。
「成果はどうだ?」
師匠が喫茶店から帰ってきた。
「最後まで書き切れてません」
私は手強い風と文鎮について話した。
「文鎮のせいか?」
見ておくがいい。
師匠は文鎮1つも置かず堂々と筆を這わせた。まるで何も邪魔者はいないと言わんばかりだった。静寂の中に墨が命を吹き込む。お日様の光が世界を形作る黒さを祝福する。風がやってくる。何度も私を打ち負かした未知の力を引き連れて。庭の落ち葉が騒ぐ。猫があくびする。師匠の長髪が竜のように遊んでいる。筆は動じない。書は最後まで浚われることはなかった。
…… 『 初 心 』 ……
「書き切るのは意志なのじゃ」
風は小馬鹿にしたように吹いた。
たかがそよ風くらいのことと私は甘く見ていた。3文字目まで書き終えたところ波は強まって、あと少しというところで浚われてしまった。
もう1つ……。
私は文鎮をもう1つ加えて書くことにした。
「そんなお菓子みたいなものいくつ重ねても無駄さ」
またしても風は小馬鹿にしたように吹いていた。
そんなことはないさ。重さが倍ならば余裕で勝てるはず。たかがそよ風くらいのものなのだから。一から始め自信を持って書いていく。4文字目の糸へとつながるところで波は強まって、既に重ねた文鎮は浮き始めていた。
(風じゃない。もっと見えない力が働いているのか)
私は負けた。あっけなく紙は飛ばされてしまう。
「そんなお菓子みたいなもの……」
それは本当だった。いくつ重ねても最後には浚われてしまう。私はずっと打ち勝つことができなかった。
「成果はどうだ?」
師匠が喫茶店から帰ってきた。
「最後まで書き切れてません」
私は手強い風と文鎮について話した。
「文鎮のせいか?」
見ておくがいい。
師匠は文鎮1つも置かず堂々と筆を這わせた。まるで何も邪魔者はいないと言わんばかりだった。静寂の中に墨が命を吹き込む。お日様の光が世界を形作る黒さを祝福する。風がやってくる。何度も私を打ち負かした未知の力を引き連れて。庭の落ち葉が騒ぐ。猫があくびする。師匠の長髪が竜のように遊んでいる。筆は動じない。書は最後まで浚われることはなかった。
…… 『 初 心 』 ……
「書き切るのは意志なのじゃ」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる