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●4月_運命のいたずら

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今日はついてる日だった。

朝、無事生徒会に入れたらしい。
一つ目の関門クリアに少し安堵した。

昼、生徒会の顔合わせでカレを見つけた。
柊 湊ひいらぎ みなと先輩。
金髪なのに、黒目という珍しい見た目と整った顔のせいで、それがすごく美しくて人形のように綺麗な人だった。
横に座った時、彼がオメガなのではないかと疑うほど、ほのかに蜂蜜のような甘いいい香りがした。

そんな高嶺の花のような彼に、カツアゲされた。
奨学金の半分をよこせとのご所望だった。
そしたら、この一年は悪いようにはしないと言い慣れてなさそうな脅しをしながら、取り巻きの書記と会計の先輩と一緒に寮部屋まで取りに行かされた。

半分持っていかれても、寮生活には困らなさそうなので、
この賄賂で一年安泰ならまあ、妥当なのかなと思った。
これが上流の世界の生き方なのだろうか。

でも多分他の人になら渡さなかったと思う。柊先輩だから、簡単に渡してしまったのかもしれない。


放課後、生徒会室に忘れ物を取りに行ったら、
昼よりだいぶ濃密な蜂蜜のような甘い匂いが肺を満たした。

その匂いが濃い方へ吸い寄せられるように行ってみると、
昼に聞いたカレの澄んだ声が聞こえた。

「はぁ…やまがみ…」

これがヒートなのだろうか。
そのドアに近づくにつれ、本能で体が武者震いした。

今日は本当についてる日みたいだ。


…………


柊先輩のロッカーを開けて、頼まれた薬を探す。

お守りのように小さな巾着袋に入ってるそれを見つけた。
やはり、Ω用の抑制剤のようだ。本で読んだことがある。
Ω用の抑制剤は高値だと聞く。なるほど、もしかしてカツアゲされたのはこのためか。

購買で水も買って、先輩の元へ向かった。


「ゔ…」

少し苦しそうなうめき声が聞こえる。

でもその中に混じってる熱のせいで、色っぽくも聞こえる。

確かめたくなった。そして小さないたずら心も芽生えた。
あの綺麗な仮面の下を見たくなってしまった。


「柊先輩お待たせしました、ドア開けてください」


ガチャン
鍵は解除され、ドアは自然と開かれる。

少し泣き腫らした目をした先輩が少し苦しそうに睨んでくる。

「ここじゃあなんですし、ひとまず生徒会室に行きません」

先輩の荷物を持って、彼に背中を向けると、素直におんぶされた。

昼に見たツンツンした感じとだいぶ違う。かわいい。

されるがままの先輩をそのまま生徒会の応接室のソファに寝かせる。

「ありがと…」

そう短くお礼を言って、
横になれて少し楽になったのか、
先輩は体を少し丸めてソファの背の方へ向いてしまった。

「やまがみぃ…くすり」

ヒートのせいで、少し上がっている息の合間から、そうねだられた。

僕の中の善意は本能に負けてしまったらしい。

「柊先輩って、本当はΩですよね」

「…っ、ちがっ」

その意地悪な質問に上手く答えれていないことこそが、返事になってる先輩にさらに楽しくなってきた。

「さっきカツアゲした分を返すか、今ここで僕の番になるのか…先輩選んでください」

どっちも酷な選択肢。でも前者を選ばせる気は毛頭にない。

「…っ」

前者の方がいいはずなのに、先輩は迷っている。

「やまがみ…くすりっ…」

「だめですよ。ほら、選んでください」

少し柔らかそうな先輩の脇腹を撫でると、先輩はゾクゾクと震え、体が喜んでいるように見えた。

「はっ…やめっ」

先輩のΩのフェロモンに当てられて、
僕もつられて発情してしまったようで、
今までにないくらい、フェロモンがコントロールできないでいた。
αのそんな濃度のフェロモンを近くで感じてしまっている先輩もなかなか苦しいに違いない。

それでもなかなか籠絡しないこの城がたまらない。
先輩はとても強情みたいだ。


「なら、僕が選びますね。」

そう宣言して、先輩の頸に鼻先を近づける。
やはり、僕が好きな甘く、とろけるような匂いがした。

「柊先輩を僕の番にします」


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