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◯5月_体育祭の憂鬱2
しおりを挟むその次の週から生徒会の仕事は慌ただしくなり始めた。
どうせ長袖着てなきゃいけないなら、
まだ涼しい放送室から参加できるのは当たりだったかもしれない。
当時の実況とかは放送部がやってくれるし、
俺たちの仕事は主に開会式と閉会式の司会と音楽を流すことくらいだ。
とりあえず今日は放送室の下見と音楽をリストアップすることにした。
「み…柊先輩、鍵借りてきました」
ちょうど持っていくCDを生徒会室の倉庫から選び終えた頃に山神が戻ってきた。
俺が持っていたCDの山をかっさらって、手持ち無沙汰になった俺は鍵だけ受け取って彼の後ろについていった。
今日のお昼何食べましたかとか、先輩の好きな音楽ってなんですかとか、そんなたわいもない会話を投げられる。
黙ってるのもなんだし、一応返事はした。
途中で椿くんとすれ違い、
「仲良くなったようで何より」
と微笑まれた。
だから、違うんだって。
そうこう、してるうちに2階にある放送室にたどり着いた。
「柊先輩、開けてください」
「あ、ごめん」
なんかずっと彼が近くにいるせいか、
彼のフェロモンの匂いのせいで少しぼーっとしてしまっていたようだ。
俺はなるべく何事もなかったかのように、鍵を開けた。
向こうも別段追求してくることはなかった。
「へー、放送室ってこうなってたんですね」
CDを小さなテーブルに置いて、機材を見たり、奥にある収録室を見たり、山神は好奇心旺盛に放送室のなかを探検していた。
本当なら放送部員が案内してくれるはずだったけど、
なんか急用らしく、とりあえずマニュアルを逃げるように渡された。
ペラペラとマニュアルをめくって、目の前の機械のスイッチの確認をする。
なんか大丈夫そうな気がする。
「湊さん、傷の具合はどうですか」
突然ふわっと洗礼された花の香りが少し濃くなった気がした。
気がついたら、すぐ後ろに立っていた山神がマニュアルを覗きながら、そんなことを聞いてきた。
「…っ」
息苦しいほどではないけれど、
そのせいかひどく心臓がドキドキしていた。
これは体質のせいだ。絶対そうだ。
それかびっくりしたせいだ。誰でもなる。
大丈夫。
「…大丈夫、もう痛くない」
「そうですか…見せてもらってもいいですか」
少し体温の高い山神の手が傷があるあたりの頸を触れる。
「ヒャッ!?」
そんな優しい手つきでも、まだ少しジンジン痛むそこは過敏にその刺激を受け取った。
「あっ、ごめんなさい」
咄嗟に手が離れ、彼は少し心配そうにこちらの様子を窺っているようだった。
思えば、彼と二人っきりになるのはあの日以来かもしれない。
別段呼び出されたり、脅されたりすることもなく、彼は秘密を守ってくれている。
たしかに、今月分のカツアゲをしに彼の部屋へ行ったが、
それも一人で行かないようにした。
避けてるというか、
合わせる顔がなかったというか。
「無理はしないでくださいね、柊先輩」
少し複雑そうに、また先輩後輩の壁を作って山神は引き下がった。
その日はそれ以上何も聞かれることはなかった。
少し気まずい空気の中、仕事を終わらせて帰路に着いた。
鍵は返してくれるそうなので、
生徒会室から自分の荷物を取って俺は帰路に着いた。
いつも一緒に帰る、颯太(書紀)や蓮(会計)は先に帰ってしまったらしく、
珍しく一人で帰路に着いた。
さっき触られたせいで、
ズキズキと思い出したように疼く頸のことは思い出さないように、
少し足速に階段を降りた。
アイツとすれ違いたくなくて、奥の方の階段を使ったのは、無意識に近い逃避だったのかもしれない。
当日はずっと二人っきりで、放送室にいなきゃいけなくのか。
はあ…。今から考えても憂鬱だ。
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華園 颯太(書紀)二期生
紫よりの少し長さのある髪と三白眼ぎみな黒い目のクールで物静かな活字中毒。マイペースに生きてるが、湊がめちゃ生徒会長になりたがってたから、自分も少し頑張ってついていくことにした。
一之瀬 蓮(会計)二期生
赤い短髪の髪と青い目の派手な見た目たが、身内は守りたい硬派なタイプ。計算高さをいたずらにばかり使ってきた少しヤンチャな湊の幼馴染。
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