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●5月_下ごしらえはちゃんと済ませました

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体育祭当日の早朝。

少し早く登校して放送室の最終確認を済ませた。


結局湊さんには、警戒されているようで、
急用で帰るとか、聞きたいことがあるからと会計の先輩を連れてきたりとか、
二人きりになる機会はあからさまに避けられてた気がする。


僕もちゃんとαの本能が備わっていたみたいで、
隣に番のΩがいるのに、
全く触れられないのは少しつらい。

湊さんを連れていった病院でも、半分無理やりしたことは咎められたし、
あんまり無理させないようにしてほしいとも言われた。

大切にしたい気持ちが、だんだんあのとろとろにとろけたかわいい湊さんを見たい気持ちに染め替えられる。

そんな葛藤を抱えたまま、ため息をついてたら、ドアがノックされた。

「空いてますよ」

恐る恐とドアが開かれて、珍しく少し寝癖がついたままの湊さんが入ってきた。

「おはよう…はやいねー」

少し眠たそうにあくびをしながら、機材の最終確認をし始めた。

「湊さんこそ、早いですね」

「山神くん、だめ!ちゃんと苗字で呼んで」

「あっ、はい。すみません…」

やっぱりなんか心を開いてくれてない気がする。すごくよそよそしい態度が寂しかった。

「じゃあ、僕先に教室戻りますね。鍵ここに置いておきます。」

今度は自分から逃げるように放送室を後にした。

あのデレデレな湊さんはヒートのせいだったのだろうか。ただただそれだけなのだろうか。

そんな少しずつ降り積もった小さなモヤモヤは、小さなきっかけであっさり爆発してしまう。


…………

開会式を無事に終え、
放送室に向かう途中、僕のクラスメイトが湊さんを呼び止めた。

人前では言えない用事らしく、
少し強引に湊さんを人がいなくなった教室まで連れていった。

盗み聞きは良くないと頭ではわかってるけど、心配が上回って、僕はこっそり二人についてきてしまった。

生徒会の仕事に戻らなきゃいけないから、手短にのようなことを湊さんは言っていた。

相手からは、直球に好きで、あこがれていて、付き合ってほしい的なことが投げられた。
今回の体育祭で活躍するから、見ててほしいと。
α同士のカップルは珍しいけれど、自分の気持ちを受け止めてほしいと。


湊さんは少し困ったように、遠回しに断っていたが、
相手は照れて遠慮してると受け取ってしまったらしく、
オレ頑張りますから
とか言って元気に教室を出ていった。

二人が別れたのを確認して僕は急いで放送室に向かった。

案の定湊さんが先に着いていて、
「ちょっとお手洗いに行ってました」
とか誤魔化して、それとなくさっきの用事のことを聞いてみた。

なんか告白されたけど、ちゃんと断ったよと言っていた。
本人はそう思ってるらしい。


…………


ちゃんと準備していたおかげか、
放送の仕事はとてもスムーズに行えた。

午前で二人とも出場の出番は終わってしまったため、
お昼休憩を挟んだ午後の部はずっと放送室にいることになっている。

正直一人でもなんとかなる仕事量ではあるが、
二人きりになる貴重な機会を逃すのは勿体無いと思った。


湊さんはちゃんと振られた仕事をこなそうとやる気に満ちているように見えた。

さすが湊さん、僕と二人っきりにならないといけなくても、
サボらずにくるところは真面目だなと思いつつ、心はまた揺れ動いた。



飼い主には冷たいのに、
他の奴らには簡単に笑顔を振り撒いて、尻尾を振る犬には、
ちゃんとおしおきが必要じゃないかと。








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