俺の婚約者が可愛すぎる件について ~第三王子は今日も、愚かな自分を殴りたい~

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side フェリコット

side フェリコット2


 覚醒したフェリコットは強かった。
 生来の高慢で傲慢で我儘な性格はそのままだったが、前向きでなおかつ負けず嫌いの側面がいい方向に働いてしまった。
 侍女に癇癪を起こしても、勉強がうまく行かなくて投げ出しそうになっても、皆口をそろえて「でも、殿下と結婚したいんでしょう?」と言えば、ものすごく不服そうに「したい!!!!」と涙目で言うので「ならがんばらないと!」と励ました。

 フェリコットは高慢で傲慢で我儘だったが、トラヴィスの事になると心配になるほどちょろかった。
 それまで自分にとって嫌なことは癇癪と我儘でやらずにいたのに、「トラヴィスと結婚したい」という願望の前にそれらをすべて我慢したのだ。
 それどころか、いつかトラヴィスの素晴らしいお嫁さんになるためにと苦手なことも頑張った。
 ダンスも勉強も大嫌いで、家庭教師に癇癪を起こしては教本を投げて逃げ出していたのに、「わかんない!!」と泣きながらも、机にかじりついて「休憩しましょう?」と言う家庭教師に「いや! わかるまでやる!」と泣きながら言い返す有様で、大嫌いなピーマンとにんじんは泣きべそをかきながらも完食した。

 魔法の練習だって、今まではすぐに癇癪を起こしていたのに、できるようになるまで頑張るのだと、集中して頑張った。
 おかげで、貴族の割には魔力が少なくて苦手だった魔法も、貴族の平均並みには使えるようになった。

 そういうわけだったので、うまくできた時は家庭教師の先生や両親・兄弟は「すごいなフェリ!」と褒め讃えた。
 その高慢で傲慢で我儘な性格から、可愛がられたことは多くとも褒められたことは少なかったフェリコットは、ぱっと顔を明るくさせると無邪気に褒められたことを喜んだ。

「ふふん、そうでしょう! 私、とってもすごいのよ! だからこれからも頑張るわ!」

 なんて言って機嫌よく鼻歌を歌いだすのだから、周囲はそれを微笑ましく見守った。
 まったくもって、トラヴィス様々である。
 公爵はトラヴィスにとても感謝し、国王夫妻と話す時にはいつもこれを話題にしてはトラヴィスに感謝を述べ、なんならトラヴィスを拝む有様だった。

 そりゃそうだろう、フォルケイン公爵家の稀代の我儘公女が、こんなにも改心したのだから。
 愛娘の成長に頭を抱えていた公爵が拝みたくなるのも無理はない。

 そうして、偉大な目標の為に常識を学んだフェリコットは、高慢で傲慢で我儘ではあったが、そんな自分がとても非常識だったことを理解した。
 現に「これを頑張ればトラヴィス様のお嫁様になれるのよね!」と言っていた言葉が、成長するにつれて「これを頑張ったら、トラヴィス様のお嫁様になる可能性が上がるのよね!」と言うようになっていたから、些細な違いとは言え覚醒恐るべしである。

 高慢で傲慢で我儘ではあったが、性根は真っすぐなのだ。
 癇癪を起こしてはその我儘に振り回されながらも、侍女達が誰一人辞めたいと言わずにフェリコットに仕えてくれたのは、つまりはそういうことなのだろう。

 そうして4年努力して、14歳になったフェリコットはこの国のほとんどの貴族の子女がそうであるように、デビュタントを迎えた。
 ディシャール国の貴族子女のデビュタントは14歳から18歳までの間に王宮で行われる春の月神祭で行われる。
 月の精霊姫が建国王の元へ降臨して建国されたという神話が残るこの国で、貴族子女のデビュタントにその月の精霊姫を讃える祭が選ばれるのは当然と言えば当然のことであった。

 決まりとして、デビュタントは白いドレスと決められていて、爵位が高い家程差し色を入れてよいことになっている。
 フォルケイン公爵家はディシャールが誇る12公爵家の1つなので、白いふわりとしたドレスに、柔らかな桃色のリボンで飾りを入れ、裾にはうすくグラデーションになるようにリボンと同じ色の染が施されていた。
 美しくまとめ上げたストロベリーブロンドの髪には、いくつもの花が飾られている。これはフォルケイン公爵家が誇る繊維業で作られた、最高級の布花だ。中心を飾る小さな宝石が、光を浴びるたびにキラキラと輝いてフェリコットのデビュタントを彩っていた。

 フェリコットはそのデビュタントで堂々とした様子で、国王夫妻の前で見事な淑女の礼カーテシーをしてみせた。
 彼女の噂をかねがね聞いていた貴族たちは、噂とはあまりに真逆の小さな淑女に感嘆のため息を漏らしたし、国王夫妻は愛娘がトラヴィス殿下に憧れて覚醒したと、公爵から何度も聞いては拝まれていたので、「噂の我儘公女が……これが覚醒か」と、末息子トラヴィスのお手柄を喜んだ。

 当の本人であるフェリコットは、国王夫妻の隣に立つトラヴィスに改めて恋をした。
 金の髪にアクアマリンの瞳をして、少しだけ不機嫌そうに目を伏せているはいるものの、王家の盛装がとてもよく似合っていて、まじまじと見つめたい衝動をフェリコットは何とか抑え込む。

 一方、16歳になったトラヴィスはそんなフェリコットを一瞥して、フンっとそっぽを向いただけだった。
 末に生まれたトラヴィスは、その顔の良さから国王夫妻にも、兄達にも臣下たちにもちやほやされていて、フェリコットに負けず劣らずの我儘王子に育ったようだ。

 フェリコット以外の貴族には、学んだとおりの美しい挨拶をしたが、フェリコットの挨拶には随分と素っ気なく非常識な態度であったので、隣にいた兄王子たちは窘めるようにトラヴィスを見たけれど、トラヴィスの態度は変わらなかった。

 普通の貴族子女であれば、落ち込んだことだろう。
 然しながら、傲慢で高慢で我儘で、負けず嫌いなうえに都合のいいことに全力で前向きだったので、この時はトラヴィスに会えたと言うことで舞い上がっていて、トラヴィスの態度がおかしいことに気がつかなかった。

 けれども、このデビュタントでのフェリコットがあまりにも美しい淑女に成長していたことと、他に適齢期の子女がいなかったことで、フェリコットとトラヴィスは婚約を果たした。

 フェリコットの4年という、初恋の片思いが一つの結果を得た瞬間である。

 そうして、デビュタントからしばらくたった顔合わせの日。
 大人の挨拶が終わり、2人きりになったフェリコットにトラヴィスは「俺、お前のことなんか大嫌いだから。婚約なんて、絶対解消してやるからな!!」と指をさして宣言した。


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