俺の婚約者が可愛すぎる件について ~第三王子は今日も、愚かな自分を殴りたい~

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side フェリコット

side フェリコット3



 トラヴィス曰く、高慢で傲慢で我儘だと噂のフェリコットが自分の唯一の妻になるだなんて、我慢がならないらしい。
 兄王子たちから見れば「トラヴィスは鏡を見たほうがいい」と笑ったのだろうけれど、フェリコットには衝撃であった。
 けれどもショックは受けなかった。

 高慢で傲慢で、然しながら全力で前向きだったフェリコットは「なるほど、私はまだトラヴィス殿下に相応しいお嫁様じゃないのですね。ではもっと、精進して貴方様の隣に立てる立派な淑女になってみせますわ!」とトラヴィスの前で高らかに宣言した。
 綺麗な顔を歪めながら、困惑したトラヴィスは「は?」と首を傾げたが、何を言っても「大丈夫です!」「お任せください!」と胸を張るフェリコットに、やがて勝手にしろとそっぽを向いた。

 端から見れば、若い男女の不器用なやりとりに見えて、微笑ましかったことだろう。

 フェリコットはそれからとても努力した。
 王子妃教育も、社交もなにもかも。
 生来の高慢で傲慢で我儘な性格はそのままだったが、性根が真っすぐで素直であることと、負けず嫌いなこと。それから前向きなことがとてもよく作用したせいか、フェリコットは高慢で傲慢で我儘で、あまりにも貴族らしい貴族だけれども、愛嬌のある公爵令嬢として、社交界で可愛がられた。

「まぁ、セイブラレート伯爵家のミレーユ様。そのドレスはどちらで作りましたの?
 とても良い仕上がりではないかしら、私も一着仕立てたいから教えなさい。
 ……まぁ、貴女の家がはじめた新興事業なの?
 とてもいいわね、うちの領地で作った生地もこんな風に素敵なドレスに仕立ててくれないかしら。
 私、次の夜会に着ていきたいわ」

「今日のお茶はルクセリア子爵家が用意したって本当ですの?
 私の口には合わないみたいですが、きっと檸檬を入れたら風味が変わると思いますの!
 そこの貴女、ちょっと檸檬を用意しなさい。檸檬じゃなくても、何か柑橘系の果物を持ってくるといいわ。ルクセリア子爵家が管理する領地の名産なんだから用意できるでしょう?」

「まぁ、このお野菜、なんだかとっても変な味がしますわ!
 きっと体に良いのね、良薬は口に苦しというもの。けれども、もっと食べやすくした方がいいと思うわ!
 公爵家の料理人を呼びなさい、これは研究をする価値のあるものよ!」

 フェリコットが元気よく言う我儘は、周りを振り回しはするけれど、その我儘に応えることができると貴族の価値がぐんとあがると有名になった。

 なお、彼女自身は正直に思った事を言っているだけだ。
 長年の教育で「誰かを貶めたりするようなことをしない」とだけ矯正されただけで、それ以外は本質的には何も変わってないけれど、性格的にはいい方に成長したのだと、昔の彼女を知る誰もが言うから間違いない。

 ただ一人、トラヴィスだけはそんな彼女の事を嫌ったままだった。

「おい」
「はい、トラヴィス様!」
「名前で呼ぶな、俺は許した覚えはないぞ」
「失礼いたしました殿下!」
「いいか、エスコートはしてやるけど、挨拶が済んだら俺は友達のとこ行くから、お前は勝手にしてろよ」
「まぁ、せめて最初のダンスは踊っていただきたいですわ! この日の為に、たくさん練習しましたの!」
「お前となんか踊ってたまるか」
「でも、婚約者がいる場合は最初のダンスは婚約者と踊るのがマナーです。殿下と踊らなければ、私は誰とも踊れませんわ!」
「いいんだよ、お前は踊らなくて」
「そうですね! 私のダンスはまだまだ殿下と踊るには足りていないですものね! 苦手なステップが上手にできるようになったら、殿下、その時は一緒に踊ってくださいましね」
「……知らねーよっ」


「殿下! トラヴィス殿下!」
「だから名前で呼ぶなよっ!」
「はい、失礼しました殿下! 先日は誕生日に素敵な贈り物をありがとうございました!」
「俺は選んでない、爺やが選んだんだ。だれがお前みたいな我儘公女に贈り物なんか……」
「はい、それでも贈ってくださってありがとうございました。私の好みをお伝えしなかったので難しかったでしょう? ですから私、私の好きなものをお手紙にしたためて参りましたの! 好きな色も、好きな花も書きましたから参考になさってくださいまし!」
「は? いらねーよ、そんなの」
「あぁ、そうですね! 私はトラヴィス様からいただけるなら何でも嬉しいですもの」
「……じゃあこんな使った後のハンカチでもやろうか? まぁ、公女はそんなのいらな……」
「いいんですか! 嬉しい! 家宝にします!」
「……やっぱやめた。こんなのでもお前にやるとかもったいない」
「まぁ、残念です。では今度、うちの生地で作ったハンカチをお贈りしますね! 私、刺繍しますわ。トラヴィス様のイニシャルと、それから御花の紋を! いっぱい練習したので上手なんですよ! 私!」
「……っ」


 と、このように。
 フェリコットにはトラヴィスの嫌悪など無意味だった。
 高慢で傲慢で、我儘ではあったが、彼女はトラヴィスの全てを愛していたし、いつだってトラヴィスの為になりたいと前向きに明るく過ごしていた。

 公務で疲れた様子を見せた時は疲れによく効くと言うお茶を取り寄せ、トラヴィスの身につけるものから最近赤いものが好きなようだと気がつけば、産地から美しい魔石を取り寄せて宝飾品を作り、青い顔をしているのを見かけた時は慌てて王宮侍医に声をかけた。
 どれも、トラヴィスが知ればいつもの調子で受け取らないだろうから、こっそりとだ。
 高慢で傲慢であるのに、トラヴィスに対しては健気で一途で、いつだってフェリコットは元気よく、愛の言葉をトラヴィスに捧げた。

「大好きですよ、トラヴィス様。今日も明日も明後日も、お慕いしております」

 ことあるごとにトラヴィスにそう伝えては、フェリコットはふんっとそっぽを向かれていた。
 毎週送る手紙の返事も、贈り物への礼状も、トラヴィス自身から貰ったことがないので、愛されてはいないと理解していたが、貴族の結婚に愛が重要でないことを理解していたフェリコットは、自分がトラヴィスを愛することができたというだけで幸せだった。

 その幸せが壊れたのは、15歳で王立学院に入学して1年後、フェリコットが16になった春のことだ。


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