10 / 22
side フェリコット
side フェリコット9
しおりを挟むぐらりと視界が揺れて、フェリコット=ルルーシェ・フォルケインは頭を抑える。
いつもと同じ景色が広がるが、自分と同じようにトラヴィスが頭を抱えているのが見えて違和感を覚えるが、それ以上にまた戻ってきてしまったという事に絶望を感じた。
目と目が合う。
トラヴィスの瞳に映った感情は困惑だった。
けれどもそれ以上に、フェリコットの心の中に四度繰り返した世界の絶望と恐怖がよみがえり、菫色の瞳から涙が零れ落ちた。
「……や、やだ。もうやだぁ……またもどってきちゃった、やだぁあああ」
「え、なに。ちょ? どうしたの、フォルケイン公女」
トラヴィスが慌てた様子で声をかけるが、フェリコットには届かなかった。
気が狂いそうなフェリコットに、トラヴィスはおろおろとしながら手を差し出すが、フェリコットはもう、トラヴィスも繰り返し続けるこの世界も、全てが恐ろしくて気が狂いかけている。
「大丈夫?」と、差し出された手に怯えたフェリコットは、思わず地にひれ伏した。
「やっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!!
もう我儘言いません、好き嫌いなく食べますし、意地悪もしません、
殿下の御名もお呼びしませんから、
だからっ、
だからっ、
お願いですから、もう殺さないでください!!!!」
「……は?」
フェリコットにはもう堪えきれなかった。いや、フェリコットでなければもっと早く狂っていたことだろう。
一度目の人生で野盗に凌辱されて殺され、
二度目の人生で愛した人の命令で首を刎ねられ、
三度目の人生で階段の上から突き落とされて子を失い、
四度目の人生で絶望のあまり自死をした。
そんな人生を繰り返して、今この時まで狂いきれなかったのは一重に、高慢で傲慢で我儘で、真っすぐで素直で、負けず嫌いなのに、健気で一途で全力で前向きであったが故だ。
四度の人生の辛さに、さすがのフェリコットの心も限界を迎え、ただただ子供のように泣き続けた。
さて、そんな状況を理解できず、疑問符を頭に浮かべたトラヴィスは、一瞬何を言われたのかと静止した。
が、しばらくしてからハッとして、胸元のポケットからハンカチを取り出すとフェリコットに差し出した。
「フォルケイン公女、落ち着いて。俺、そんな……君を殺すだなんて物騒な事しないから」
ね、と小首を傾げてトラヴィスに声をかけられ、フェリコットは固まった。
生まれてこの方、四度繰り返した人生の中で、フェリコットはこんなに丁寧で優しい言葉をトラヴィスにかけられたことが無かった。
フェリコットの知るトラヴィスは、いつだってその端正な顔を顰めて、フェリコットを睨み付けていた。
学院で生徒たちに話しかけられている時は、天使のような微笑みを浮かべて交流をはかるくせに、フェリコットにはいつだって冷たい瞳をむけて、フンっとそっぽを向くのだ。
一度目の人生でのフェリコットは、そんなトラヴィスも素敵だと思っていたけれど、三度目を迎える頃には、辛くて怖くて仕方がなかった。
四度目の人生で自死を選んだあの瞬間も、トラヴィスに名を呼ばれたような気がして嬉しいと思ったと同時に、恐怖が体を占めていた。
他の誰に優しくても、トラヴィスが自分に優しくしてくれることはないと、フェリコットの体と心が覚えている。
そのくせ、未だにトラヴィスの事を愛しいと思ってしまう感情があるのだから、今もまだ主張する初恋が憎たらしい。
いっそ、トラヴィスの事を嫌えたらよかったのに、フェリコットの心は未だに呪われたようにトラヴィスの事を愛しているのだ。これを呪いと言わずに何と呼べと言うのだろう。
だがしかし、フェリコットはもう、トラヴィスにあの冷たい視線を向けられたくなかった。
もしもこの時、フェリコットがトラヴィスにあの視線を向けられていたら、フェリコットの精神は間違いなく狂って、精神の病院に入院。あるいはそのまま修道院に送られて修道女になっていたことだろう。
けれども五度目の人生はそうはならなかった。
トラヴィスがフェリコットにハンカチを差し出したからだ。
信じられないといった表情で、ハンカチとトラヴィスの顔を交互に見てから、フェリコットは「ありがとうございます」と本当に小さな声でお礼を言って、ハンカチを受け取ると、そのハンカチをまじまじと見つめる。
ハンカチを差し出されることも、優しい言葉を掛けられることも初めてで、フェリコットは困惑した。
どうしていいか、全然全くちっとも分からなかった。
けれども、はじめてもらう優しさに嬉しいという気持ちがこみあげてきて、心がぐちゃぐちゃになってしまう。
それでも、かすかな優しさに縋るように、フェリコットがハンカチを握りしめるのを見て、トラヴィスは少しだけほっとしたような表情で肩から力を抜いた。
「四阿に行こう。侍女たちがお茶を用意してくれてるはずだから」
学友に語るような優しい声音で、トラヴィスは声をかける。
そんな声をフェリコットは、一度たりとも聞いたことが無い。
「そこでゆっくり話を聞かせて」とゆるく微笑むトラヴィスに、フェリコットは涙で濡れた顔を呆けさせたまま「うん」と子供のような返事を返すことしかできなかった。
トラヴィスがエスコートの為に差し出した手をじっと見つめて、それから恐る恐ると言った雰囲気で重ねた手をトラヴィスは嬉しそうに握り返す。
エスコートを求めた手を握り返されたことなどないフェリコットは、その行為にきょとんとして困惑したが、そんなフェリコットをみて、トラヴィスはとても幸せそうに微笑んだ。
85
あなたにおすすめの小説
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください
「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」
呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。
その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。
希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。
アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。
自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。
そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。
アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が……
切ない→ハッピーエンドです
※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています
後日談追加しました
悲報!地味系令嬢、学園一のモテ男に「嘘の告白」をされる
恋せよ恋
恋愛
「君のひたむきさに心打たれた」
学園の王子様、マーロン侯爵令息から突然の告白。
けれどそれは、退屈な優等生である彼が仕掛けた「罰ゲーム」だった。
ターゲットにされたのは、地味で貧乏な子爵令嬢・サブリナ。
彼女は震える声で告白を受け入れるが――眼鏡の奥の瞳は、冷徹に利益を計算していた。
(侯爵家の独占契約……手に入れたも同然だわ!)
実は、サブリナの正体は王都で話題の「エアハート商会」を率いる敏腕マネージャー。
「嘘の告白」をした男と、「嘘の快諾」をした女。
互いに利用し合うつもりが、いつの間にか本気に……?
お互いの本性を隠したまま進む、腹黒×腹黒の騙し合いラブコメディ!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる