11 / 22
side フェリコット
side フェリコット10
しおりを挟む「つまり、フォルケイン公女は時戻りを繰り返していて、4回も死んじゃったの?」
花の咲き誇る王宮の庭園。そこにある四阿で、トラヴィスは用意された菓子を頬張りながら、フェリコットに確認した。
フェリコットは、トラヴィスの声にびくりと震えながら、かすかな声で「はい」と返事する。
下がらせる前に侍女に淹れてもらった、心落ち着けるハーブティーを飲んではいるものの、フェリコットの顔にはいまだに怯えが滲んでいた。
この怯えの意味は二種類である。
殺されてきた今までの人生でのトラヴィスに対しての恐怖と、今回の人生であまりにも豹変したトラヴィスの態度に対する恐怖だ。
この四阿に連れてこられたフェリコットは、トラヴィスが臣下を下げさせてから根掘り葉掘りとこれまでの事を聞かれ、あっという間に全てを話させられてしまった。
フェリコットは今までの事を誰にも話してこなかった。
二度目の時は一度目のことを夢だと思ったし、三度目の時は親兄弟に言うには一度目の人生と二度目の人生が悲惨過ぎた。
四度目に至っては自暴自棄だったし、今までの事を話せば気が狂ったと思われるに決まっていると判断して、何もせずに自死を選んだのだから無理もない。
にもかかわらず、今回は初手で絶望して気が狂ったせいか、それともトラヴィスが聞きだし上手なのかは分からないが全て喋ってしまった。
今のフェリコットは、これで自分は頭が狂ったおかしな奴だと思われたと、フェリコットは絶望を深くする。
どういうわけか、今回のトラヴィスはとても友好的なのに、フェリコットが顔をあげたらトラヴィスはきっと、またあの冷たい視線を向けてくるのだろうと思うと、震えが止まらなくなってくる。
四度繰り返した絶望のせいで、昔の高慢で、傲慢で、無邪気で前向きで、いつだって自信満々だったフェリコットは、今のフェリコットを見たら想像することはできないだろう。
びくりびくりと挙動不審気味に怯えるフェリコットは、高慢にも傲慢にも見えない、庇護欲をそそるほど怖がりな少女にしか見えないだろう。
しばしの沈黙の中、フェリコットは震えながらも沈黙に耐えきれなくなって、涙に濡れた瞳で恐る恐る顔をあげてトラヴィスの顔を窺い見た。
フェリコットは、自分をじっと見つめるトラヴィスのアクアマリンの瞳と目を合わせる。
フェリコットの事を観察するようなその瞳に、今までの冷たさは全くなかった。それどころかフェリコットと目が合った瞬間に、嬉しそうな顔をして笑うのだから、フェリコットの困惑が加速する。
そもそも四度の人生で、ここまでまともにトラヴィスと喋ったことがあっただろうか?
いや、ない。
一度目の人生ですら、フェリコットが話しかけたことはあっても、大概無視。続いたとしても二言三言で、だいたい暴言を吐かれて終わっていたはずなので、こんなにも話を聞いてもらった記憶はとんとない。
そのうえ話した内容は、どう考えても頭がおかしいものなのだから、トラヴィスにこんな風に笑ってもらえるなんて思った事が無かった。
困惑したフェリコットが言葉を失っていると、トラヴィスはにこりと笑った。
「信じてもらえないって思ってる?」
「……っ」
「もちろん、信じるよ。君の様子からどうしたって嘘だと思えないし、四回も死んじゃって怖い思いをしたなら、今の君の反応は当然だ。どう考えたって、君の記憶の中にいる俺は、同じ俺でもドン引きするほどのろくでなしのクズだもの」
「怖かったね」と優しく声を掛けながら、トラヴィスはフェリコットの頭に手を伸ばした。
びくりと震えて思わず目をつむるフェリコットの頭を、トラヴィスは恐れる事無くそっと撫でる。
その手があまりにも優しくて、フェリコットは今までとは違う意味で泣きそうになった。
四度繰り返す中で、フェリコットの気持ちに寄り添ってくれた人は誰もいなかった。
誰もフェリコットが四度も人生を繰り返してると知らないのだから仕方がないが、フェリコットはずっと孤独だったのだ。
今度こそ、今度こそと祈り続けて、最後は絶望で終わる人生に、はじめて寄り添ってもらえた気がしてフェリコットはぼろぼろと涙を流す。
トラヴィスはクスリと微笑むと、そんなフェリコットをひょいと膝にのせて抱きしめた。
あまりのことに蒼褪めて硬直するフェリコットに、トラヴィスは「今までよく頑張ったね」と声をかけると、フェリコットの髪を手櫛で梳かしながら、自身の肩を貸して慰める。
その仕草に、フェリコットはトラヴィスに縋りつくと声を押し殺して泣き出した。
心にたまった汚泥の全て吐き出すように、しばしの間泣き続ける。
辛かったし、苦しかったし、何より怖かった。
誰にも理解してもらえない中、ただただ惨たらしく殺される人生は四度も耐えるものじゃない。
ようやく得た、理解という安寧に、フェリコットはただひたすら泣くことしかできなかった。
どのくらいそうしていただろうか。
吐き出すように泣いて、落ち着いてきたフェリコットは、自分の現状に気がついた。
どんな現状かと言えば、トラヴィスの膝の上に抱きかかえられ、トラヴィスの肩に顔を埋め、トラヴィスの肩口を溢れる涙でびしょびしょに濡らしたというフェリコットにとっては地獄のような現状である。
「ひっ」と悲鳴を上げたフェリコットは、また別の意味で泣きそうになりながらトラヴィスから離れようとするが、トラヴィスにがちりと腰を支えられている為逃げ出すことができない。
それでもどうにか距離をとったフェリコットは、顔を蒼褪めさせ震えながら、か細い声で「タイヘンモウシワケアリマセン」と抑揚のない言葉を発する。
「いいよいいよ、気にしないで」
「で、ですが殿下の服が」
「服なんてものは汚れるものさ。侍女達だって、俺が可愛い婚約者を慰めることができたって聞いたら喜んで洗濯してくれると思うよ」
「あ、婚約したのだから、フォルケイン公女のこと名前で呼んでいい? 僕も君の可愛い響きの名を呼ぶことを許してほしいんだけどダメかな?」と問われて、状況に未だについていけていないフェリコットは、真顔のまま首を傾げた。
これは一体誰だろうと、フェリコットは必死に考えるが、声も顔も全部が大好きなトラヴィスにしか見えない。
性格……というより、フェリコットに対する対応だけが今までと違うのだ。
トラヴィスはフェリコットに触れたりしないし、こんな風に優しく声をかけてくれたりしない。フェリコットにトラヴィスの名を呼ぶことを許したことはないし、フェリコットの名を呼んでくれたこともない。
だいたいいつも、おい、お前の二つである。
甘い声で「フェリコット……、ううんフェリって呼びたいな」なんて天地が裂けても言うわけがない。
「……」
「フェリ?」
「……これは、もしかして夢ですか?」
「フェリちゃん?」
「いえ、夢なわけないですわ」
「うん、そうだよ現実だよ」
「だって、殿下が私に優しいだなんて、夢の中でもあり得ません」
「……うぇ? なんで?」
「だって、想像がつきませんもの。私に優しい殿下なんて!
いつも、お前とか、おいとか呼ばれて、私が話しかければ「うるせー話しかけんな」とか、「さっさと帰れ、二度と顔見せるな」とか言って、邪険になさる。
それが私の知る殿下です。
そんな殿下が私の事を可愛い婚約者だなんて仰ってくださる都合のいい夢があるはずない……はっ、もしかしてここは死後の世界ですか? 私、ようやく死ねたのですか?」
狂ったように菫色の瞳を輝かせながら、まるでそうであってほしいと言うように言葉を紡いだ。
そうであったなら、フェリコットは安心できる。だって現実の世界では起こり得ないことが起こっているのだ。死後の世界、精霊神の御許でようやく見れる幸せな夢がこれだと言うなら、フェリコットは酷い悪夢だと思いながらも享受することができるような気がしたのだ。
トラヴィスは困ったようにため息をついて、それから宝物を扱うかのように、フェリコットの頬に触れた。
温かなトラヴィスの手が、フェリコットの頬に触れたそのくすぐったさにフェリコットは「ひゃうっ」と、怯えではない悲鳴を上げる。
「マジで俺クソだな。こんなにも可愛くていじらしくて、俺の事を想ってくれる子をどんだけ追い詰めてるんだよ」
「殿下?」
「トール」
「?」
「俺の事はトールって呼んで、フェリ」
「……トール様?」
「そう、君を4回も傷つけたクズはトラヴィス、俺はトールってことにしよう。クズと一緒にされると気が滅入るから」
フェリコットは再び首を傾げる。トラヴィスが言ってる言葉の意味がまるで理解できなかった。
そんなフェリコットを見て、トラヴィス改め、トールはにこりと笑う。
そこに漂う、そこはかとない胡散臭さにフェリコットは気がつかない。
「俺は確かにトラヴィス・リオブライド・ランフォールドだよ。
でも多分、君が知ってるトラヴィス・リオブライド・ランフォールドとちょっと違う。
フェリが時戻り四回分の記憶を取り戻したように、俺にも記憶が甦ったから」
ひと時の沈黙。
その後、フェリコットは息を大きく吸ってから「……覚えていらっしゃるのですか?」と言葉を続ける。
あの苦しい記憶をと続けようとするフェリコットを制して、トールは首を振った。
「ごめん、君を苦しませたことを思い出したんじゃない。
俺が思い出したのは、異世界で生きてた別の俺の記憶だ」
「異世界で生きてた前世の記憶が甦ったって言ったら、フェリは信じてくれる?」と、トラヴィスに問われ、フェリコットは三度首を傾げた。
94
あなたにおすすめの小説
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。
待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。
もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
私を陥れる様な婚約者はいりません!彼と幸せになりますから邪魔しないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアントアーネは、根も葉もない噂に苦しんでいた。完全に孤立し、毎日暴言や陰口を吐かれ、無視され睨まれ、まさに地獄の日々を送っていた。
どうして私が、こんなに苦しまなければいけないのだろう…あの男のせいで…
そう、彼女に関する悪い噂を流していたのは、最愛の婚約者、ラドルだったのだ。そんなラドルは、周りの噂を気にせず、いつもアントアーネに優しく接していた。だが事実を知っているアントアーネは、彼に優しくされればされるほど、嫌悪感が増していく。
全ての証拠をそろえ、婚約を解消する事を夢見て、日々歯を食いしばり必死に生きてきたのだ。やっと証拠がそろい、両親と一緒にラドルの家へと向かった。
予想に反し、婚約解消をしないと突っぱねるラドルだったが、アントアーネは悪い噂を流しているのがラドルだという証拠を突き付け、婚約解消を迫った。その結果、無事婚約解消までこぎつけたアントアーネだったが、彼女を待っていたのは、残酷な現実だったのだ。
※小説家になろう様、カクヨム様でも同時投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる