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side トール
side トール 5
しおりを挟むと、突然バタバタとあたりが騒がしくなった。
音のする方をその場にいた全員が見やり、警戒心があたりを包んだと同時にフェリコットがドレスを翻しながらこちらへ駆けてきた。
フェリコットは、ついさっきまでの婚約が結ばれたことに喜んでいた顔とは打って変わって、菫色の瞳から大粒の涙を流しながら怯えているように見える。
驚く国王夫妻公爵夫妻と兄達だったが、そこからさらに驚かされる。
「フェリ!」
そんなフェリコットを追って、今まで見たこともないような必死の形相でトラヴィスがやってきたからだ。
「行かないでフェリコット」と懇願するような甘い声でフェリコットの手を掴んで引き留めたトラヴィスは、今にも泣きだしそうな声音でフェリコットに呼びかける。
「フェリ……」
「殿下……」
「行かないで、フェリコット。お願いだから」
「……いいえ、いいえ殿下。お願いですから、私との婚約を解消してくださいまし」
「どうしてそんなこと言うの? まだ婚約を結んだばかりなのに」
「私では……、私では殿下に釣り合いません」
「そんなことない。俺には君だけだよフェリコット。どうかそんなこと言わないで、俺を捨てないで」
トラヴィスはそう言いながら跪いて、フェリコットの手をからめとると、ちゅっと口づけた。
柔らかなフェリコットの手に甘えるようにすり寄って、あざとく見上げるとフェリコットの顔がさらに蒼褪め、ぼろりと涙が零れ落ちる。
兄王子たちは「お前誰やねん」と言いたくなったが言葉が出ない。
実際中味はほぼ別人だから、その疑問は正しく正しい。でもまさか、中味が本当に変わってるとは思っていない。
「や……や、です、殿下。どうか後生ですから、婚約を解消して下さいまし」
「やだ!!!!!」
「やだて」
次兄王子が思わずそう言葉洩らしたが、2人にはそんな声は聞こえていない。
ぼろぼろと泣き続けるフェリコットに、トラヴィスは必死に「なんで!!!!!」と聞き返している。
そのなんでという問いに、フェリコットは呻きながら、堪えるように泣いてから、ようやく声を絞り出した。
「だ……だって、でんか……私の事おきらいでしょう?」
四度の経験を経て、フェリコットはトラヴィスに好かれるという未来を一切思い浮かべることができなくなっていた。
死にたくなくて、嫌われたくない。
どうせリエラヴィアが現れたら、フェリコットはそれまでだ。
トラヴィスを思い慕っても、リエラヴィアが現れたら、フェリコットはまた惨たらしく捨てられるに決まっているのだ。
今なら、まだ戻れる。
記憶が戻ったばかりの今ならきっと……と、心が千切れそうなほど痛みながらも訴えた婚約解消だった。
「……私の事おきらいでしょう? 顔を見ただけで吐き気がするほど」
「んなわけあるか!!!!! めっちゃ好きですけど?????????」
あるうぇ????? と、フェリコットも兄王子たちもトラヴィスの言葉に首を傾げる。
いや、あなた、この茶会が始める直前まで、めっちゃめんどくさそうな顔をしてましたよね? と、兄王子たちは口をついて出そうになった。
そんな空気を理解しないまま、トラヴィスは早口でまくし立てる。
「フェリみたいな可愛い子を嫌うわけないでしょ?
顔立ちは美人で超かわいくて、菫色の瞳が俺を見つめては言葉じゃなくても愛してくれるって溢れてる。
柔らかなストロベリーブロンドの髪は甘くておいしそうでふわふわだし、フェリコットもふわふわでいいにおいするし、食べたいくらい可愛いし、可愛いし、めっちゃすき。どこに嫌いなる理由があるの?」
「で、ですが私は、高慢で傲慢で我儘と有名で……」
「確かにそうだったかもしれないけど、それ全部俺の事慕ってお嫁さんになりたくて改善してくれたんでしょ?
超可愛い子が俺の事好きで努力して頑張ってくれたって聞いて、嫌いになるような男いるわけないじゃんバカじゃん?
そんな子を嫌いになるとか馬鹿すぎるだろ俺。意味わからん」
「でもでも、リエラヴィアが現れたら……」
「フェリは、俺の事嫌い? 君を傷つけた俺と同じ俺は嫌いになっちゃった?」
アクアマリンの瞳を潤ませながら、トラヴィスはフェリコットを見つめる。
透流であった時、幾人もの既婚女性を落とした魔性のおねだりだ。
透流のスキルを使ってでも、トールはフェリコットを諦めたくなかった。この愛を手にするためなら、なんだってできると宣言しただろう。
まさに必死である。
透流だった時もこんなに必死になったことはないと、トールははっきりと言えるだろう。
その気持ちが伝わったのかどうかは別として、フェリコットは蒼褪めながらもふるふると首を横に振った。
たとえ嘘でも、フェリコットにはトラヴィスを嫌いになったとは言えない。
どんなに傷つけられても、どんなに繰り返しても、どうしてもこの想いだけは消えないのだから仕方がない。
涙で潤んだ菫色の瞳がトラヴィスを見つめ、「……嫌うなんてそんな事できません、私がお慕いし続けるのはトラヴィス・リオブライド・ランフォールド様ただおひとり……」と、最後まで言うことは許されなかった。
気がつけば、フェリコットはトラヴィスにぎゅっと、きつく抱きしめられていたからだ。
「絶対に君を捨てない、大事にする、約束する。トラヴィスを信じられないのは分かるけれど、どうか俺を信じて」
「……ですがっ」
「ポッと出の女になんか、絶対になびいたりしない。愛してるんだフェリコット。
どうか俺と結婚して。
俺だけの唯一になって、俺と一緒に俺達の子供に会いに行こう」
その言葉に、フェリコットは失った子を思い出してハッとする。
トールは、望んでくれるのだ。
三度目の人生で抱くことができなかった2人の子供の事を。
その言葉だけで、今日までのフェリコットが救われる気がした。
たとえ、この先の未来で捨てられたとしても。
フェリコットはとうとう堪えきれずに、トラヴィスの胸に縋りついて泣きだした。
そんなフェリコットを優しく抱きしめながら、トラヴィスはフェリコットの額に口づける。
まるでハッピーエンドの物語のラストシーンのようであり、それまで目を点にしながら見ていた国王夫妻と公爵夫妻、それから兄達四人は誰からともなく拍手した。
王妃と公爵夫人はトラヴィスの熱烈な愛の告白に顔を赤らめて喜んでいたし、国王と公爵はちょっと涙ぐんでいた。
ただ、兄達は勢いに乗せられて拍手していたものの、「なんで立場が逆になってるんだ????」と思っていた。
結婚したがってのはフェリコットだったはずでは????
トラヴィスはそんな気なかったよね????
と思いつつも、藪蛇をつつく気にはなれない。
ひとまず今は、相思相愛の婚約を喜ぼうと、半ばやけくそ気味に拍手をしていたというのは、兄達四人の秘密である。
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