隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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雨の日に思い出す【蓮也】


 あっという間に時はすぎる。

 有希くんが居ない日常に嫌でも慣れてきた。
 春から大学に、有希くんと過ごしたあの家から通っていた。 
 季節は冬を超えて、春も終わり、いつの間にか雨が毎日続く季節になった。

 雨の日は、思い出すことがある。

 ある日の放課後。

 確か、体育祭が終わって数日経った頃。


 放課後の校舎裏で雨に濡れた有希くんを抱きしめた。


 有希くんは、父親が家で待っていると言ってその日の放課後は会わない約束だった。

 だから、俺は生徒会室で生徒会の雑用作業を終わらせて、そのまま生徒会室で課題をしていた。

 2時間くらい勉強していたら、かなり辺りは暗くなっていた。

 もうすぐ19時。

 ふと、窓を覗くと人気がない。
 雨でグラウンドはぐちゃぐちゃなので、外の活動の部活はそもそも休みだったのだろう。
 グラウンドに誰もいない。

 いつもこのくらいなら、部活動生たちが残っているが、大雨だから早々に部活を切り上げて帰ってしまったのかもしれない。


(俺もそろそろ帰るか。)


 机に散らかしたノートと参考書を片付ける。


 静かな生徒会室に大雨の音が響く。


 今頃、有希くんは何をしているのだろうか?
 ひどい目に遭わされていないだろうか?
 俺が心配しても仕方ない。でも心配でたまらない。


 片付けを終えて、生徒会室の戸締りを確認しようと窓に近づく。


 校門のあたりに、人影が見える。

 傘もささず、びしょ濡れの男子生徒。



(有希くん!!)



 驚いた。
 有希くんが、ぬかるんだグラウンドを走っている。


 窓を開けて大声で叫ぶ。


「有希くん!!!」



 大雨の音でかき消される。


 多分声は届いていない。
 けれど、有希くんはこちらを見て手を振っている。気づいたみたいだ。


「そっち行くから!」


 たぶん聞こえていない。

 でも、生徒会室を飛び出て階段を駆け降りる。


 一階まで降りると、外にずぶ濡れの有希くんが待っていた。


 濡れるのも構わずに思いっきり抱きしめた。


「有希くん!!」

 会えないと思っていた好きな人に会えた。
 こんなに嬉しいことはない。


「人来ちゃう…。先輩も濡れちゃう。」


 有希くんがつぶやいた。


「あ、ごめん、ごめん。」


 有希くんから一旦離れた。


「どうしたの?お父さんは?」


「あ、今日は出かけるみたいで、帰ってこないみたいだから。それで、蓮也先輩まだ学校にいるかなって。戻って来ました。」


「もう!傘は?風邪ひいちゃう…。」


「馬鹿は風邪引かないから。」


 またそうやって自分を陥れる。

「もう、濡れたらダメ。中に入ろう?」


「僕結構濡れちゃったから。校舎の中が濡れちゃいます。」


 なんだか、謙虚でお利口さんで、気遣いができる。そういうところも大好き。


「じゃ、こっち来て。」

 校舎裏まで有希くんの手を引いていく。
 人目に付かなくて、少し屋根がある場所を知っている。あそこなら濡れない。


「ここなら人来ないから、抱きしめていい?」


「それなら…。」


 言い終わる前に有希くんを抱きしめた。


「大好きすぎる。」


「僕も…。」


 雨の音にかき消されなくてよかった。
 抱きしめた有希くんは冷たい。


「先輩が濡れる…。」


 口で口を塞いで、最後まで言わせなかった。
 雫が滴る有希くんは色っぽくて。

 濡れた紙を何度も何度も撫でた。
 何度もキスをした。

 濡れて、冷たくなった体を温めるように。

 大好きな有希くんが一生懸命会いに来てくれた。嬉しい。

 大好きな有希くん。
 今日の君が、雨に濡れていないか心配でならないよ。

 心の中で呟く。

 大好きな有希くん。
 2度と会えなくても構わない。
 その代わり、元気で幸せでいてほしい。

 

 蓮也の願いは届かない。




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