13 / 13
入籍
しおりを挟む「いきなりなんですけど、入籍します。」
楽しい時間はすぐに終わる。
私は、朝からアルバイト先のコンビニにやってきていた。
店長に、入籍する報告をする為だ。
今日は、店長は午前中で帰ってしまうシフトなので、午前中の内に来ていた。
和馬さんも、書類は午後から出しに行けばいいというし、お疲れなのか寝ていたので、一旦ホテルにおいてきてしまつた。
店長は、私の顔をみて不思議そうな顔をした。
「知ってるよ。抽選結婚に当たったんだってね。お相手、かなりのイケメンなんだって?」
まだ、店長には抽選結婚の話はしていない。
シフトを変わってもらう時には、「家の用事があるんで、お休みが欲しいんです。」と言っただけだ。たまたま、店長が空いていたから店長がシフトに入ってくれただけだし…。
店長には抽選結婚の話はしていない。
他の人にはちょっとしちゃったけど。
なぜ、店長までもがそんなこと知っているのか。
店長と話している後ろで、パートのおばちゃん、安藤さんがニヤニヤしている。
「昨日見たよ!桂寿司にイケメンとお婆様と入って行くの!」
げっ…。
まさか、1番お喋りの安藤さんに見られていたとは…。
さすが、田舎は狭い。
と言うことは、既に抽選結婚の話は店の従業員中に知れ渡っていると言うことか。
「なつみちゃんも遂に既婚者ね~!」
安藤さんのでっかい声が、事務所に響き渡る。
「えらい背が高くてイケメンだったね~。この辺の人じゃないんだろ?訛ってないし、あんなイケメンがいたら町中が噂しそうだし。都会の人かい?」
まさか、店の中まで見られていたのか…?
「あ、まぁ。東京に住まれているそうです。」
「まぁぁ。じゃあ、引っ越しちゃうの?おばちゃん、若い子がいなくなると寂しいわ~。」
「いや、とりあえず別居婚になるので。そのうち、向こうが引っ越してきてくれるそうです。」
「別居婚!今どきね~。いいわね~。」
おばちゃん特有のマシンガントークが飛んでくる。
「公枝さんが、あなたのこと心配してたのよ。抽選結婚が嫌で泣いてたって。でも、イケメンならあなたも万々歳よね~。」
「え、私が泣いてたの、知ってたんですか?」
「ん?私は知らないけど公枝さんが、そう言ってたのよ。」
驚いた。おばあちゃんは、最初に抽選結婚の通知が来た時に私が泣いてたの知ってたんだ。そして、お喋りのおばさん達に言いふらしてたんだ…。
結局、なぜか結婚という単語にウキウキしてしまう自分がいて、1週間前くらいからちょっと楽しんでたけど。
おばあちゃんに心配かけちゃったな。
申し訳なかったなぁ。
「で、いつ入籍するの?」
「あ、この後いきます。」
「あら!そうなのぉ?急ね~。」
安藤さんのお喋りは止まらない。
「え、今日仏滅だよ?」
店長が、安藤さんの話の間に入ってくる。
あ、そういうの気にしてなかった。
「善は急げっていうから!仏滅なんてどうでもいいの!さっさとイケメン捕まえちゃいなさい!」
安藤さんは、細かいことは気にしないタイプだ。そして私も。
とうとう、今日が私と和馬さんの結婚記念日になる。
*******************
「戻りました。」
ホテルに戻ると、和馬さんは身支度できていた。
私は、役所に寄ってもらってきた婚姻届を和馬さんに渡した。
和馬さんは、カバンから高そうな万年筆を取り出して、サインした。
「これからもよろしくね。」
和馬さんが笑顔で私を抱きしめてくれた。
「よろしくお願いします。」
和馬さんの腕の中で返事をした。
私の車で、急いで役所に書類を提出した。
これで私は、既婚者になってしまった。
「後悔ない?」
和馬さんに尋ねられる。
「無い…。」
私はもう決意していた。
この人と、この先何十年も共に暮らしていく。
いろんな困難があると思うけど、2人で乗り切るんだって。
帰りは、飛行機だというので和馬さんを空港まで車で送り届けた。いや、私の車を和馬さんが運転して一緒に空港に向かった。
空港まで結構時間がかかる。
あまり言葉を交わすことはなかったけれど、和馬さんは私の手を握っていてくれた。
別れ際にそっとキスしてくれた、あの感触は絶対に忘れない。
「ひと月後に、また会おうね。」
そう言い残して、和馬さんは旅立ってしまった。
離れてしまう。
けれど、私たちの心は繋がったままだ。
だって、私たち、結婚してるから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
この作品は感想を受け付けておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる