セイクリッター

アルバート

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第5話 ローリンス・ハーミリオン

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「出口はどこだ?」
アルバート達は男に言われた通りに肉屋の角を曲がり走っていたが、気付いたら正面は行き止まりだった。

「もしかして…罠!?」
「…その通りだ。」
「!!」
突然、アルバートの背後から声が聞こえ、大剣が伸びてきた。とっさにアルバートは振り返り、刀を抜いて受け止めた。

キイィィィィン

金属音が鳴り響いた。
ゆっくりと顔を上げた声の主は少し大柄で、少し若そうだったが貫禄が出ていた。
「俺の仲間達に手ェ出したそうじゃねえか。覚悟しろ。俺がハーミリオンだ。」
ハーミリオンは大剣を地面に突き立てた。
「退がっていろ。」
ハーミリオンが言うと、彼の背後にいたたくさんのインベラ隊員達が離れた位置に移動した。
アルバートはタバコを捨て、足でグリグリと踏んで火を消して言った。
「やれやれ…てめえら倒さねえとこの街から出れそうにねえな。俺たちに出口への道を教えた男はグルだったのか?」
「ああ。あいつはインベラ隊員だ。こういう場合に備え、俺は部下達を町中に潜伏させている。」
(流石だな…。だが、俺は負けるわけにはいかない!こいつをここで倒す!)
アルバートは気を引き締めた。

「ハァァァァ!」
アルバートの後ろにいたロデウスが拳を構えてハーミリオンに向かって突進し始めた。
「行かせねえよ。」
「!!」
突然、ハーミリオンとアルバートの横を男が通り、ロデウスの前に立ちはだかった。
「どけ!」
ロデウスがその男に殴りかかった。しかし、その男は片手で軽々とロデウスの拳を受け止めた。
「インベラ隊二番隊隊長、バルガだ。ハーミリオンさんの相手は、お前じゃつとまらねえよ。おまえのあいては、俺で充分だ。」
まだ少年の面影を残しているバルガは、ニヤリとした。
「くそ!アルバート、ハーミリオンは頼んだ!」
「ああ!」
アルバートはハーミリオンに向き直ると言った。
「さあ、始めよう。」



「フン!」
ハーミリオンが大剣で突いてきた。アルバートは後ろに飛んで避けた。
「!?」
しかしなぜか大剣がアルバートに向かって伸びてきた。
「くっ!」
辛うじてアルバートはしゃがんで避けた。

「でた!隊長は形を自由に変えられる能力のセイクリッターなんだよ!!今のは大剣を長くしたんだ!お前じゃ勝てねえよ!」
離れたところにいたインベラ隊員が叫んだ。

「そういうことだ。こういうこともできるんだぜ?」
ハーミリオンが少し笑みを浮かべた。その瞬間、大剣の真ん中辺りの部分が下にいるアルバートに向かって伸びてきた。もちろん先は尖っている。
アルバートはハーミリオンとの距離を縮めて剣を交わすと、雷を刀に纏わせて斬りつけた。
しかし、大剣を瞬時に盾の形に変えたハーミリオンに防がれた。
「貴様…雷のセイクリッターか?」
ハーミリオンが驚いた様子で言った。
「半分当たりで半分ハズレだ!」
アルバートが言うと、ハーミリオンの真上に大きなハンマーが出現した。アルバートはジャンプしてハーミリオンと距離をとった。
そして右手をひらいてハーミリオンに向かって突き出した。
「くらえ!アルケミー・ハンマー!!」
ハンマーがハーミリオンに向かって落下した。次の瞬間、ハンマーは石よりも小さい大きさになった。ハーミリオンにあたったが、痛くないのは明白だった。
「ちっ…」
アルバートは舌打ちをした。
「驚きだ。俺以外のセイクリッターに会ったのは初めてだ。お前、何の精霊と契約した?」
ハーミリオンが聞いた。
「俺は創造をつかさどる精霊、アルケミルと契約したセイクリッターだ。要は錬金術士みたいなもんだ。雷や炎、鉄といった簡単な物質は何もないところから生み出せ
る。こういうこともできるぜ。」
アルバートはそういうと右手を前に突き出し、人差し指を立てた。
その瞬間、ハーミリオンの後ろの地面が盛り上がった。
「武装!」
壁のようになっていた地面が瞬時に鉄へとなり、炎を纏った。
アルバートが人差し指をクイっと動かすと、その壁はハーミリオンの方へと倒れてきた。
「ちっ!」
ハーミリオンは間一髪でかわした。


一方、ロデウスとバルガの実力は互角ぐらいで、お互いに素手で技を掛け合っているものの、完璧に決まった技はなかった。


「そろそろ本気を出してやろう。セイクリッターのみ使える第二の力だ。お前は使い方を知らないようだがな。行くぞ!」
ハーミリオンが両手を合わせた。
(何をするんだ?)
アルバートは身構えた。


「ハーミリオン隊長!総隊長がお呼びです!」
ハーミリオンの頭上が光り出してきた時、突然インベラ隊員が叫んだ。
「少し待っていろ!今こいつを片付ける!」
「いえ、しかし、それどころではなく、できるだけ早く来いとの…」
「くそ!貴様、命拾いしたな。名前は?」
ハーミリオンの頭上から光が失われた。ハーミリオンは悔しそうな表情を浮かべていた。
「アルバートだ。」
「そうか。アルバート、勝負は次にお預けだ。それと、お前、その能力で壁にドア作って脱出すれば良かったんじゃ…」
「あ…」
(そうか、しまった!)
アルバートは頭を抱えてやれやれと溜息をついた。
「バルガ、行くぞ!」
「あいよ。」
ハーミリオン達は風のように去っていった。
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