魔王と騎士の楽しい世界統一新婚生活

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一章

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「うふふ、だってシューヤって重いんだもぉん。たまには息抜きしなくちゃぁ。」

甘ったるい語尾にかわいい声。見た目だってとってもかわいい俺の彼女。
大好きな声で聞こえてきたのは、死ぬほど残酷な言葉だった。



ーー今日は俺と彼女が付き合い始めて一年、同棲を始めて三ヶ月の記念日。
女性が記念日を大事にするってのは定説だ。
なので俺は、この日の為に数ヶ月前からサプライズを準備していた。

計画はこうだ。
彼女には朝仕事に行くと言って家を出て、以前から欲しがっていた指輪を
買い、こっそり家に帰って彼女にプレゼント。驚く彼女に結婚も申し込む
つもりだった。
高かったけど、俺の安月給じゃ給料半年分くらいかかる指輪だったけど
彼女が嬉しそうに笑うところを想像したら、全然高くない買い物だった。
宝石店の店員さんが「プロポーズですか?」なんて、にこにこ言うから
なんだかすごく恥ずかしくなりながら買ったことをぼんやりと思い返した。

ドキドキと弾む心みたいに軽い足取りで、なるべく音をたてないように
家に入りリビングのドアを開けようとした時だった。

『ぁん…っあっ、あっ…ぁああん…っ!』

俺は頭から氷水でもかけられたみたいに、全身が冷えていくのを感じた。
冷えて固まったみたいに動けないでいる体とは反対に、腹の奥では
熱くてドロドロとした何かがごうごうと燃え上がっていた。

俺はどうすることもできず、ただリビングのドアの前で立ち尽くしていた。
…どれくらい放心していただろう。いつのまにか行為は終わり
知らない男と彼女がなにやら甘い言葉を囁きあっているのが聞こえてきた。

「……しっかし、お前も悪い子だよな。いいの?俺とこんなことして。」

「いいのぉ。うふふ、だってシューヤって重いんだもぉん。
 たまには息抜きしなくちゃぁ。」

けらけらと無邪気に笑いあう二人。俺もドアの外で、一緒に声もなく笑った。
……ああ、俺はなんてバカなんだ。大バカだ。
そのまま二人には気付かれないように家を出て、マンションの屋上に向かった。

空は今にも雨が降り出しそうな黒い雲で覆われていて、生ぬるく湿った風が
俺の髪を掻き乱す。
乱れた髪はそのままに、屋上を囲う手すりに掴まって下を見た。

……別に浮気されるのも振られるのも、これが初めてな訳じゃない。
今までだって告白されて付き合っては、いつも向こうから振られるか
浮気されて終わるかだ。
冷たいとか、重いとか、怖いとか、人の心が無いとか、私のことなんか
どうでもいいんでしょとか。散々な捨て台詞ばかりだった。
俺は自分なりに精一杯今までの彼女たちを大事にしてきたつもりだったし
本気で好きだった。もともと感情表現が得意では無いが
なるべく言葉でも態度でも好きだと伝わるように努力してきた。

それなのに自分ばかりが傷ついているような口ぶりに、それを言われた俺だって
傷ついているんだと何度も飲み込んだ。

「…はは、馬鹿らしい。」

もう全てが馬鹿らしい。浮かれてこんな指輪なんか買った自分も
この日のために会社に三ヶ月も前から休みを申請していた自分も
結婚を見据えて借りたマンションを他の男とのラブホ代わりにされた事も
影では俺を騙していた彼女の事も。
もう全てどうでもいい。

手すりから乗り上げて、ベランダに干される布団みたいな態勢になった。
なんて間抜けな格好だ。自分の間抜けさに笑えてきた。
下にはコンクリートの道路に放置された自転車、それから路肩に止まった配達の車。
俺が最期に見る景色は、こんなにも味気ないものなのか。
まるで俺の人生そのものだ。なんにも無い人生。なんだ、ぴったりじゃないか。


俺は薄笑いを浮かべ、そのまま手すりを滑り落ちた。



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