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一章
Lside
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「スプレンドール会長、準備できました。」
「分かった。」
眩しい程のライトに照らされた、体育館壇上に立つ。
これから入学試験を執り行うに当たり、最終チェックが進められる。
今年度の受験生は九百五十三名。
九百名の魔法科クラスの受験生、そして残りの五十三名は
『Fクラス』と呼ばれる中途入学者用クラスの受験生。
毎年何百何千と受験生が押し寄せるこのバトゥス学園だが、入学できる者は少ない。
その理由は魔法科クラスは一クラス三十人で三クラスのみ、Fクラスは
一クラスのみという入学者数の規定もあるが、何より入学試験の難易度にある。
慌ただしく駆け回る生徒会の役員や教師達の喧騒を壇上から横目に確認しつつ
進行内容の確認をする。
生徒会長だからと言う事もあるが、俺は『入学試験の内容』に携わる事が無い為
この学園の初等部の頃から毎年進行を務めている。
幾度と無くこなした役目故、進行手順も内容も既に記憶しているが
だからと言って手を抜く様な事はしない。
任された仕事を精到にこなす事が俺の役目だからである。
「そろそろ受験生の入場始まるってー。」
「ああ。」
そう声をかけてきたのは、肩に付く程の空色の髪に
海の様な深い色の瞳に笑みを溶かした男。
バトゥス学園高等部生徒会副会長のイシュカ・ヴァーテルだ。
「今年は会長サマの出番はあるかな?」
「……ふざけていないで持ち場につけ。」
「ふふ、分かってるよお。」
楽しそうに笑い、そのまま壇上を降りて行くヴァーテル。
わざわざ俺をからかいにきたのだろうか。
彼とは初等部からの付き合いになるが、今まで彼が言う所の『出番』とやらが
来た事が無い事など承知しているだろうに。
そして、それはきっとこれからも無いだろう事も。
そう考え、少し息を吐いた。
そうだ。俺は誰とも――。
「それでは受験生の入場を開始します。」
体育館入口で、受付係であるヴァーテルがよく通る声でそう告げる。
思考の渦に飲まれている場合ではない。
気持ちを切り替え、前を向く。
重いドアが開き、外のまだ冷んやりとした空気と共に緊張の色が体育館内に広がる。
入場してきた受験生達は、皆不安そうな面持ちで館内に整列していく。
「ルミエラ。
まだFクラスの受験生が一人来てないんだけど、進めちゃって良いって。」
「分かった。」
体育館入口から壇上脇に移動してきていたらしいヴァーテルの報告を聞き
進行を始める。
「――それではこれからバトゥス学園高等部入学試験を開始する。
私は高等部生徒会会長二年、ルミエラ・アステロペ・スプレンドールだ。」
言葉を発した途端、湧き上がる歓声。
俺の名を叫び顔を紅潮させている者も見受けられる。
定常的に起こる事ゆえ良い加減慣れそうなものだが
こればかりはいつ迄経っても辟易する。
頭痛がしそうになり、こめかみを軽く抑えた。
「……静粛に。試験内容の説明に移る。
まず初めに自分の属性と魔力量の検査を受けてもらう。
係の者に従い一列ずつ移動しろ。」
属性検査、魔力量検査は共に国民一人一人が毎年一度は行わなければいけないと
義務付けられている。
なので皆自分がどの属性でどの程度の魔力を持っているのかは認識しているが
Fクラスの受験者は受けた事がない者も多く居る為、
念の為全員検査を受ける事になっている。
列が動き始めたのを確認し、壇上から降り舞台袖へ下がる。
九百人以上の受験生が検査を終えるまで立ち尽くして居るのは流石に時間が勿体無い。
「生徒会室に戻る。検査が終わったら連絡を。」
「分かりました。」
舞台袖に居た照明係の生徒に一声掛け、裏口から体育館を出る。
検査が全て終了するまで一時間はあるはずだ。
その間、溜まっている書類を片付けてしまおう。
胸ポケットから魔法具を取り出し、転移の呪文を唱え生徒会室へ飛んだ。
ーーーーーーーー『会長、検査終了しそうです。お戻り下さい。』
先刻声を掛けた照明係の生徒の声に、意識を引き摺られる。
声の出所は胸ポケットの白い石。
生徒会役員にのみ支給される、通信も転移も行える希少な魔法具だ。
もうそんなに経ったかと時計を見やればあれから一時間半経過していた事に気付く。
大分集中していたようだ。
一時間半前はデスクに山積みになっていた書類も今は残り数枚になった。
「分かった、すぐ行こう。」
そう返事をし、通信を切る。
此処へ来た時と同じく転移魔法を使い体育館へ。
「お、お仕事ごくろーさま。」
少しの浮遊感ののちに聞こえた暢気な声。
「……お前が書類を溜め込まなければ、わざわざ試験を抜けてまで
仕事をする必要は無いんだがな。」
「えへへ、俺デスクワークは苦手でね。いつもありがとね、ルミエラ。」
全く悪びれもせずニコニコと微笑むヴァーテルに怒る気も失せる。
言いたい事は溜め息一つに全て込め、静かに吐き出すに留まった。
「……で、検査は終わったのか。」
「と思って呼んでもらったんだけど、遅刻してるFクラスの受験生が
まだ来てないみたいなんだよねえ。」
「この学園に入学したくても出来ない者も、それこそ星の数程居ると言うのに
全く……。」
「ねー、のんきな子だねえ。」
お前にだけは言われたくないだろうが。
そう思いつつも口には出さない。
「あと十分待って来なかったら、その子は試験不合格ってことで
次に進んでくれって。」
「ああ。」
退屈な検査が終わり、その『次』が楽しみなのだろう、
今にも走り出さんばかりの様子のヴァーテル。
「そういえばFクラ担当のビエント先生、何日か前に受験生迎えに行ったきり
帰ってきてないね。……もしかして逃げられたのかな?」
この学園に入りたい者は確かに星の数程居るが、中には
学校というもの自体を拒む者も居る。
そういう手合いは入学試験通知が来ると姿を晦ませたり
他国に逃亡したりする事が多い。
それを防ぐ為にこの学園の教師自らが対象の者の元へ行き
ほぼ強制的に連れて来るという、他校には無い『サービス』を
行なっている。
「あの方は『風』だ。然う然うそんな事にはならないだろう。」
「ま、なんでもいいけどねー。あー早く始まらないかなあ。
今年は強い子いるといいんだけど。」
そわそわと落ち着きなく首を動かし、瞳を輝かせているヴァーテルを
内心羨ましく思う。
ーー高揚。興奮。歓喜。
様々な感情が読み取れる馴染みの姿を見ながら、また一つ溜め息を吐いた。
俺にはその全てが味わう事の出来ないものだ。
もう何度となく『それ』が俺の元へ訪れてくれる事を願いながらも
何処かで諦めている願い。
「……もう十分経つだろう。始めよう。」
「そうだね。じゃあ俺も行こっと。」
壇上へと踏み出す。
ヴァーテルは転移魔法を使って瞬く間に飛んだらしい。
壇上からは体育館中央に立つ奴の空色の頭が見えた。
幾度もぶり返す熱のように疼く思いは見ない振りをし、第二試験を開始すべく、
声を発しようと小さく息を吸い込んだ瞬間だった。
「……あれ、もう始まってるぞ。」
その声が聞こえた刹那、今まで感じた事の無い熱が身体の奥を蕩かす様に
ねっとりと這い回るのを感じ、あまりの恍惚に声が漏れるのを我慢するのがやっとだった。
「……は、っ……。」
未知の熱を遣り過ごそうと掌をきつく握る。
その間に声の主がドアの奥から姿を現したと同時に
館内に居る者全てが息を飲んだのが分かる。
現れた彼は、とても美しかった。
新月の夜の闇を思わせる艶やかな少し長めの漆黒の髪。
それが、しんとした夜の静寂の中、降り積もる雪の様に
触れたら溶けてしまう程の儚さを持った肌を際立たせている。
そして夜更けの蒼い月に照らされた湖面を思わせるような、
静かで、それでいて何処か妖しく吸い込まれそうな程の蒼の瞳を
長く繊細な睫毛が縁取る。
「……す、すいません。遅れました。」
皆が硬直した様に見惚れているのを非難の視線だと解釈したのだろう。
彼は、朝露に濡れたまだ誰にも触れられた事の無い白百合の蕾の純潔さと
甘美な蜜を滴らせ咲き誇る、薔薇の妖艶さを併せ持つ唇を焦った様に動かした。
「え?あれ?まだ試験受けられるよな?」
「き、君は……?」
「あのー、ヴァンって先生に連れてこられたんだけど
Fクラスの入学試験ってまだ受けられるのか?」
「あ……ああ……。遅刻していたFクラスの受験者か。」
いち早く正気を取り戻した教師の声に誘われ、体育館入口から館内へと彼が歩を進める。
「まずは属性と魔力量の検査からだ。
着いてきなさい。」
教師の後を追う様に館内中央の通路を歩く度、彼の美貌に良く似合う漆黒のコートがヒラヒラと蝶の様に舞っている。
張り付く様に彼の身体を包み込む服の下には、鍛え上げられたのであろう
蠱惑的な身体、そして胸元を少し寛げたシャツの隙間から覗く滑らかそうな肌が
見る者を誘惑する。
壇上の前方に設置されている検査器具前まで来た彼に検査の説明を始めた教師。
彼との距離が近付いた分だけ、高鳴った胸の鼓動を自覚せずにはいられない。
先程から香ってくるこの香りは彼のものだろうか。
甘く切なく魅惑的で、それでいて野生的で。獣の本能を奥底に感じさせる
彼に良く似合う香りだ。その色香が匂い立つような首筋に顔を埋め、更に近くで
堪能したくなる程、劣情を抱かせる危険な香り。
説明を聞いている彼の横顔を、一歩も動く事も出来ずにただ恍惚と眺めながら
まだ互いの名も知らぬと言うのにその瞳をこちらに向けてくれないかと
渇望している自分に気付く。
すると、ふと、彼が気怠げに壇上へと視線を投げた。
「あ、すいません遅刻しちゃって。」
「分かった。」
眩しい程のライトに照らされた、体育館壇上に立つ。
これから入学試験を執り行うに当たり、最終チェックが進められる。
今年度の受験生は九百五十三名。
九百名の魔法科クラスの受験生、そして残りの五十三名は
『Fクラス』と呼ばれる中途入学者用クラスの受験生。
毎年何百何千と受験生が押し寄せるこのバトゥス学園だが、入学できる者は少ない。
その理由は魔法科クラスは一クラス三十人で三クラスのみ、Fクラスは
一クラスのみという入学者数の規定もあるが、何より入学試験の難易度にある。
慌ただしく駆け回る生徒会の役員や教師達の喧騒を壇上から横目に確認しつつ
進行内容の確認をする。
生徒会長だからと言う事もあるが、俺は『入学試験の内容』に携わる事が無い為
この学園の初等部の頃から毎年進行を務めている。
幾度と無くこなした役目故、進行手順も内容も既に記憶しているが
だからと言って手を抜く様な事はしない。
任された仕事を精到にこなす事が俺の役目だからである。
「そろそろ受験生の入場始まるってー。」
「ああ。」
そう声をかけてきたのは、肩に付く程の空色の髪に
海の様な深い色の瞳に笑みを溶かした男。
バトゥス学園高等部生徒会副会長のイシュカ・ヴァーテルだ。
「今年は会長サマの出番はあるかな?」
「……ふざけていないで持ち場につけ。」
「ふふ、分かってるよお。」
楽しそうに笑い、そのまま壇上を降りて行くヴァーテル。
わざわざ俺をからかいにきたのだろうか。
彼とは初等部からの付き合いになるが、今まで彼が言う所の『出番』とやらが
来た事が無い事など承知しているだろうに。
そして、それはきっとこれからも無いだろう事も。
そう考え、少し息を吐いた。
そうだ。俺は誰とも――。
「それでは受験生の入場を開始します。」
体育館入口で、受付係であるヴァーテルがよく通る声でそう告げる。
思考の渦に飲まれている場合ではない。
気持ちを切り替え、前を向く。
重いドアが開き、外のまだ冷んやりとした空気と共に緊張の色が体育館内に広がる。
入場してきた受験生達は、皆不安そうな面持ちで館内に整列していく。
「ルミエラ。
まだFクラスの受験生が一人来てないんだけど、進めちゃって良いって。」
「分かった。」
体育館入口から壇上脇に移動してきていたらしいヴァーテルの報告を聞き
進行を始める。
「――それではこれからバトゥス学園高等部入学試験を開始する。
私は高等部生徒会会長二年、ルミエラ・アステロペ・スプレンドールだ。」
言葉を発した途端、湧き上がる歓声。
俺の名を叫び顔を紅潮させている者も見受けられる。
定常的に起こる事ゆえ良い加減慣れそうなものだが
こればかりはいつ迄経っても辟易する。
頭痛がしそうになり、こめかみを軽く抑えた。
「……静粛に。試験内容の説明に移る。
まず初めに自分の属性と魔力量の検査を受けてもらう。
係の者に従い一列ずつ移動しろ。」
属性検査、魔力量検査は共に国民一人一人が毎年一度は行わなければいけないと
義務付けられている。
なので皆自分がどの属性でどの程度の魔力を持っているのかは認識しているが
Fクラスの受験者は受けた事がない者も多く居る為、
念の為全員検査を受ける事になっている。
列が動き始めたのを確認し、壇上から降り舞台袖へ下がる。
九百人以上の受験生が検査を終えるまで立ち尽くして居るのは流石に時間が勿体無い。
「生徒会室に戻る。検査が終わったら連絡を。」
「分かりました。」
舞台袖に居た照明係の生徒に一声掛け、裏口から体育館を出る。
検査が全て終了するまで一時間はあるはずだ。
その間、溜まっている書類を片付けてしまおう。
胸ポケットから魔法具を取り出し、転移の呪文を唱え生徒会室へ飛んだ。
ーーーーーーーー『会長、検査終了しそうです。お戻り下さい。』
先刻声を掛けた照明係の生徒の声に、意識を引き摺られる。
声の出所は胸ポケットの白い石。
生徒会役員にのみ支給される、通信も転移も行える希少な魔法具だ。
もうそんなに経ったかと時計を見やればあれから一時間半経過していた事に気付く。
大分集中していたようだ。
一時間半前はデスクに山積みになっていた書類も今は残り数枚になった。
「分かった、すぐ行こう。」
そう返事をし、通信を切る。
此処へ来た時と同じく転移魔法を使い体育館へ。
「お、お仕事ごくろーさま。」
少しの浮遊感ののちに聞こえた暢気な声。
「……お前が書類を溜め込まなければ、わざわざ試験を抜けてまで
仕事をする必要は無いんだがな。」
「えへへ、俺デスクワークは苦手でね。いつもありがとね、ルミエラ。」
全く悪びれもせずニコニコと微笑むヴァーテルに怒る気も失せる。
言いたい事は溜め息一つに全て込め、静かに吐き出すに留まった。
「……で、検査は終わったのか。」
「と思って呼んでもらったんだけど、遅刻してるFクラスの受験生が
まだ来てないみたいなんだよねえ。」
「この学園に入学したくても出来ない者も、それこそ星の数程居ると言うのに
全く……。」
「ねー、のんきな子だねえ。」
お前にだけは言われたくないだろうが。
そう思いつつも口には出さない。
「あと十分待って来なかったら、その子は試験不合格ってことで
次に進んでくれって。」
「ああ。」
退屈な検査が終わり、その『次』が楽しみなのだろう、
今にも走り出さんばかりの様子のヴァーテル。
「そういえばFクラ担当のビエント先生、何日か前に受験生迎えに行ったきり
帰ってきてないね。……もしかして逃げられたのかな?」
この学園に入りたい者は確かに星の数程居るが、中には
学校というもの自体を拒む者も居る。
そういう手合いは入学試験通知が来ると姿を晦ませたり
他国に逃亡したりする事が多い。
それを防ぐ為にこの学園の教師自らが対象の者の元へ行き
ほぼ強制的に連れて来るという、他校には無い『サービス』を
行なっている。
「あの方は『風』だ。然う然うそんな事にはならないだろう。」
「ま、なんでもいいけどねー。あー早く始まらないかなあ。
今年は強い子いるといいんだけど。」
そわそわと落ち着きなく首を動かし、瞳を輝かせているヴァーテルを
内心羨ましく思う。
ーー高揚。興奮。歓喜。
様々な感情が読み取れる馴染みの姿を見ながら、また一つ溜め息を吐いた。
俺にはその全てが味わう事の出来ないものだ。
もう何度となく『それ』が俺の元へ訪れてくれる事を願いながらも
何処かで諦めている願い。
「……もう十分経つだろう。始めよう。」
「そうだね。じゃあ俺も行こっと。」
壇上へと踏み出す。
ヴァーテルは転移魔法を使って瞬く間に飛んだらしい。
壇上からは体育館中央に立つ奴の空色の頭が見えた。
幾度もぶり返す熱のように疼く思いは見ない振りをし、第二試験を開始すべく、
声を発しようと小さく息を吸い込んだ瞬間だった。
「……あれ、もう始まってるぞ。」
その声が聞こえた刹那、今まで感じた事の無い熱が身体の奥を蕩かす様に
ねっとりと這い回るのを感じ、あまりの恍惚に声が漏れるのを我慢するのがやっとだった。
「……は、っ……。」
未知の熱を遣り過ごそうと掌をきつく握る。
その間に声の主がドアの奥から姿を現したと同時に
館内に居る者全てが息を飲んだのが分かる。
現れた彼は、とても美しかった。
新月の夜の闇を思わせる艶やかな少し長めの漆黒の髪。
それが、しんとした夜の静寂の中、降り積もる雪の様に
触れたら溶けてしまう程の儚さを持った肌を際立たせている。
そして夜更けの蒼い月に照らされた湖面を思わせるような、
静かで、それでいて何処か妖しく吸い込まれそうな程の蒼の瞳を
長く繊細な睫毛が縁取る。
「……す、すいません。遅れました。」
皆が硬直した様に見惚れているのを非難の視線だと解釈したのだろう。
彼は、朝露に濡れたまだ誰にも触れられた事の無い白百合の蕾の純潔さと
甘美な蜜を滴らせ咲き誇る、薔薇の妖艶さを併せ持つ唇を焦った様に動かした。
「え?あれ?まだ試験受けられるよな?」
「き、君は……?」
「あのー、ヴァンって先生に連れてこられたんだけど
Fクラスの入学試験ってまだ受けられるのか?」
「あ……ああ……。遅刻していたFクラスの受験者か。」
いち早く正気を取り戻した教師の声に誘われ、体育館入口から館内へと彼が歩を進める。
「まずは属性と魔力量の検査からだ。
着いてきなさい。」
教師の後を追う様に館内中央の通路を歩く度、彼の美貌に良く似合う漆黒のコートがヒラヒラと蝶の様に舞っている。
張り付く様に彼の身体を包み込む服の下には、鍛え上げられたのであろう
蠱惑的な身体、そして胸元を少し寛げたシャツの隙間から覗く滑らかそうな肌が
見る者を誘惑する。
壇上の前方に設置されている検査器具前まで来た彼に検査の説明を始めた教師。
彼との距離が近付いた分だけ、高鳴った胸の鼓動を自覚せずにはいられない。
先程から香ってくるこの香りは彼のものだろうか。
甘く切なく魅惑的で、それでいて野生的で。獣の本能を奥底に感じさせる
彼に良く似合う香りだ。その色香が匂い立つような首筋に顔を埋め、更に近くで
堪能したくなる程、劣情を抱かせる危険な香り。
説明を聞いている彼の横顔を、一歩も動く事も出来ずにただ恍惚と眺めながら
まだ互いの名も知らぬと言うのにその瞳をこちらに向けてくれないかと
渇望している自分に気付く。
すると、ふと、彼が気怠げに壇上へと視線を投げた。
「あ、すいません遅刻しちゃって。」
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