皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ

文字の大きさ
103 / 122
ギュールス=ボールドの流浪 ロワーナの変革期

ギュールス、四面楚歌での立ち回り

しおりを挟む
「さてさて。方々から疑惑の視線が注がれてます。何をどう言っても人の話を聞かない方から説得するしかないのですが……」

「ふざけるのもいい加減にしなさい! 上の部屋は私達オワサワール皇国の軍が制圧してます! 全員、我々に投降しなさい!」

「だそうですよ。ニューロス王。このお嬢さん方が怖いので私は降伏しますが」

 ロワーナ達もニューロス達も、ギュールスの反応に呆気にとられる。
 あまりにも軽々しすぎる無責任な言動。
 これまでの彼の態度は一体何だったのか。
 今度はロワーナが激昂する。

「ギュールス! お前の行動に振り回されるのもこれ以上勘弁ならん! 貴様から」

「その前に、この部屋から宮廷内に響き渡る緊急信号などを止めるのが先ではないでしょうか? 少しは落ち着いたらいかがです?」

 ギュールスの言葉に我に返ったニューロスは、非常ベルのボタンを押す。
 しかし何の反応もない。

「ニューロス王。その発信はついさっき私が止めてます。それ、ただのお飾りですよ?」

「なっ……。お前……ギュールス! 一体どういうつもりだ! いや、そもそもそのロワーナ王女とは、前々から面識があったな?!」

 ギュールスの名を呼ぶロワーナの様子を見れば、誰でもニューロスと同じ思いを持つだろう。
 せっかくならもう少し初対面のふりをする方が良かったのだろうが、たまりにたまった感情のこともある。そして事態はそれを大きな問題としないところまで行きついている。

「その通りだ! ミラノス王女にはそのような話は既にしていたがな。だがお前に話が通っていないことと、この部屋の中を彼女は知らないことを合わせて考えれば、やはりお前達だけを抑えればすべての世界的危機は未然に抑えられるということだ!」

「ま、その情報をニューロス王に届かないようにした俺の小細工も殊勲賞並みだよな」

「なっ!」

「なぜ、そんな?!」

 ロワーナはニューロスと同時に驚く。
 ギュールスはレンドレスのために動いているとばかり思っていたが、これではまるでこの研究室を孤立させようとする意志を持っているのは明白。
 ギュールスの意図が理解できない。

「……この国に来て、いろんな見方があることを実感しました。『混族』が侮蔑の対象である世界の中で、尊敬、敬愛の対象であることを知ってから、有り得ない見方や可能性も馬鹿に出来ないことを知りました」

 何のことかとニューロスは問い詰める。
 ロワーナも、ギュールスが何を言いたいのかその真意はまだ掴めない。
 研究員や親衛隊達もなおさらである。
 ギュールスはその研究員達に視線を向けた。

「数々の自分への人体実験には本当に感謝しています。こんな未知の魔族の体を吸収する実験をさせてもらえたのですからねぇ。地、水、火、風、雷、そして光と影の魔法属性の研究対象として俺自身を提供したから当然でしょうか。しかしあまりにもあなた方は間抜け過ぎました」

 完全に研究員達を、そして遠巻きにニューロスを馬鹿にした言い方である。
 研究員達は戦闘態勢をとる。
 ニューロスの顔は赤くなり、怒りに震えている。

「だってそうでしょう? 自分達の知っている魔法や魔力は俺の体の中でどうなっているか、それを調べてたのに、俺の体の中全てをそれだけで知ったつもりでいるんですから。……ロワーナ王女。この背中の傷、覚えてます?」

 ギュールスの三度目の討伐のときに、救助を求めてきた傭兵の攻撃を受けた傷である。
 現場は見ていないが、報告は受けている。

「……それがどうした。今更昔話か? 懐柔させようとしてもそうはいかんぞ!」

「……あなたを最初にここに連れてきた時、あんなクラスの魔族を吸収する実験をお見せしましたよね? 今日まであの実験を、全部で三回したんですよ。そしたらこんな魔法を使えるようになりましてね……。皆さんのお腹立ちはごもっともですが、こちらをご覧ください」

 ギュールスはそう言うと、ガラス窓の方を見る。
 ギュールスの目から光が発せられ、ガラス窓がスクリーンの役目を果たし、何かの映像が映る。

「その傷を受けた時の様子です。自分が体験したんですから、自分の視界に入った物を映すとばかり思ってたんですが、自分が体験した様子を第三者に分かりやすく見せる力を得たようなんですね」

 ギュールスが背中に傷を負った時の映像が流れている。
 スケルトンの集団を抑えに行くギュールス。
 一人の男が、無警戒のギュールスの背中に向けて斜めに一閃。
 地面に倒れたあとその男に踏みつけられている。

「……!?」

 いくら裏切り行為をしている者とは言え、かつて味方だった者が救助を要する者から足蹴にされて黙って見られるほどロワーナは非情ではなかった。
 ニューロスも研究員達も、そして親衛隊の全員も、まさかそのような仕打ちをされていたなどと思っても見なかった。

「あぁ、自分がどんなひどい目に遭ったかを見せたかったんじゃないんですよ。あの武器、前にも申し上げましたが、痛みを与える能力を持ってるんですね」

「傷を受けたら痛みを感じるに決まっているだろう。それがどうした!」

「傷跡は残ってますが、痛みも入院してからは少しは和らいだんですがね……」

 ギュールスの目から光が消え、映像も消える。
 そしてニューロスを真っすぐに見る。

「でも痛みはあまり変わってないんですよ。ロワーナ王女にも伝えましたがね、痛みを与える武器だったんですよ。いつまでもいつまでも残る痛みです」

「何が言いたい? それが今この現状でのことにどうつながるのだ」

「痛みは、痛いという感情に繋がります。体を動かしちゃまずい、体を休ませないとまずい、という本能にも繋がるんですよ。そして気付きました」

 なかなか話の結論に結びつかないギュールスの話し方に全員がイライラしてくる。
 それでも平然と話を続ける。

「魔族ばかりではなく、物が持つ能力もひょっとして吸収しているのではないか、そしてそんな魔法が存在するなどと夢にも思わないその三人が自分を鑑定しても、その力があること自体分からないのではないか、とね」

 ロワーナには相変わらずギュールスが何を言いたいのかは分からない。
 しかし風向きが自分に有利に吹き始めているのを感じている。

「そこで考えましたよ。ニューロス王と後ろの……シェイガーさん、ジェイムさん、ヴィールさんでしたか。この研究の果てに望むものは一体何だろう、とね」

 ロワーナはギュールスの話に聞き入り始めた。
 そのせいか、研究室の中、空間のあちこちでキラキラと輝く何かが現れ始めているような気がした。

「この研究により、魔族の持つすべての力を手に入れること」

「そして自由自在に扱えるようになること。そして希望する者に伝授できるようになることだ」

「そしてこの世にあらわれる魔族を支配すること!」

「ニューロス王。あなたはどうですか? せっかくの機会です。その願いを宣言されてみたらいかがです?」

 気のせいではない。
 ロワーナが感じた輝きの粒が次第に大きくなる。
 しかし誰もそのことを指摘しない。
 何かが変だ。
 何かがおかしい。
 そう感じ声を出そうとしたが、背中越しにギュールスが手のひらをロワーナに見せる。
 何も言うなという指示らしい。

「この魔族の力を誰よりも多く大きく我が物とし、この世界を征服することだ!」

 ニューロスは声高々と宣言する。
 やはり彼の本音はそこにあった。
 この男をここで止めなければならない。
 腰に携えた剣に手をかける。
 それよりも先に、ギュールスが、ニューロスよりも大きく響く声を揚げた。

「そなたらの願い! 今、既に叶ったり!!」

 ギュールスの声と共に、研究室の中でとてつもない白い閃光が炸裂した。
 その光に耐え兼ねたロワーナは両腕で目を覆う。
 ロワーナの後ろではうめく声が聞こえた。
 親衛隊達もおそらく同じ感覚に襲われたのだろう。

 しばらくして視力が回復したのを見計らい、目を覆っている腕の隙間から研究室の様子を見る。
 真っ先に目に入った異変。
 それは、この上ない幸せに浸っているような顔のニューロスと研究員三人。
 ロワーナ達とギュールスに対して向けられた、怒りの感情は完全に消え失せていた。

「……一体……これは……」

「……ロワーナ王女、親衛隊の皆さん。彼らと共に一旦王の部屋に戻りましょう。すべて、お話ししますよ。……いろいろとご心配かけました」

 ギュールスからの言葉に、まだ信頼できないとばかりに睨みつけるロワーナ。
 親衛隊からも、同じような視線を浴びている。

「自業自得。因果応報。痛いくらい身に染みてますよ。ただ話は王妃とミラノスにも聞いてもらう必要がありますから。さ、参りますか。……ニューロス王、それからその三人も。一緒に行きますよ」

 先頭を歩くギュールスに続いてロワーナ達、そして言われるがままにニューロス達がその後に続いて、長い螺旋階段を上り王の部屋に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...