皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ

文字の大きさ
105 / 122
ギュールス=ボールドの流浪 ロワーナの変革期

過去の映像 成功の先、失敗の先

しおりを挟む
「でも、我ながら便利な能力を手に入れたもんです。言葉だけでなく映像もつけて、それに解説までつけられるんですから……。近衛兵師団が解体されて、俺は特にその後何の任命もなく……簡単に言えばクビですね。この国の飛び地がガーランド国内にあるって言うんで、一人で潜入したんですよ」

 それから何日か経ってからのガーランド国内でのギュールスの様子が壁に映し出される。
 その映像を見ても、どこと説明がつかないガーランド国内の森の中。
 その映像の中に突然現れる巨大な魔族が二体。

「ロワーナ王女! これっ!」

 エノーラが大声を出す。
 親衛隊全員がざわめきだす。

「これは……まさか……」

「え? ロワーナ王女、ご存じなんですか?」

 言葉を失うロワーナ。
 その彼女の反応は、流石のギュールスも予想外。
 ロワーナ達にとっては忘れもしない、ガーランド王国の皇太子と共に間近で目にした珍しい現象。
 魔族が何の被害を与えることなく消滅したその体は黒い球体。両側にはカマキリの腕のようなものが生えている。

「……出現場所は、我々が目撃した場所と一致している。そして同型の魔族の出現報告は受けていない」

「ホワール……あの新聞記者の報告通りってことか」

 エノーラの呟きに、親衛隊全員がハッとする。
 ガーランド王国内に、元近衛兵の唯一の男性がいる。
 ニヨール宿場新報社の一匹狼の女性記者、ホワール=ワイターからの情報だった。

「そう言えば、彼女が挙げた候補地の一箇所の付近ですよ、ここ!」

 エリンもあの時のことを詳しく思い出す。
 彼女の顔パスは、一か月以上も遅れて確定されることになった。
 後に親衛隊に対し、あまりの遅さに怒るやら呆れるやら、とにかく荒れる彼女が王宮内で目撃されたが、それは別の話になる。

「あの魔族がなぜ消えたのか不思議でならなかったが、お前が傍にいたのか」

「そばにいたのは俺だけじゃないです。ほら」

 ギュールスが指を差す先の映像に、魔術師二人が映像に現れる。
 しかし魔族との関係性はまだ見られない。
 魔族と深くかかわっていることを信じたくないヘミナリアとミラノスは、その映像に見入っている。

 映像の中のギュールスが、おい、とその二人に呼びかけている。

「そうだった。あの魔族が自然発生した可能性があるって思ってたんだよな。だがこいつらが操っている可能性もあった。とりあえず声をかけてから判断した方がいいと思ってな……」

 その魔導士二人は呼びかけたギュールスに、振り向きざま魔法攻撃の体勢をとる。

「体が……青い?」

「お、おい……、まさか……」

 彼らの構えは解かないままだが、明らかに殺気が消えていたことをギュールスは証言する。
 ヘミナリアとミラノスは、その証言を聞く前から青ざめている。
 そしてこの後の彼らの言葉が、その立場を決定づけるものとなった。

「こ……『混族』様でございますか?!」

「あ、あの……で、伝説のっ……!」

 映像の中のギュールスは、驚いて大声を上げそうになっている。
 かろうじて堪え、その二人に聞き返す。

「さ、様って何だよ? た、確かに俺は『混族』だが」

 言葉を区切った直後、二人はその低い姿勢からギュールスに縋るようにしがみつく。

「ま、まさか本当にこの世にいらっしゃるとはっ!」

「わ、私共は魔族の力を敬い慕うものでございます! ど、どうか私達の住まいに、い、いや、我らの王の所へ」

「待て! あの魔族が傍にいてはここも危険だ。て言うか、魔族の力を慕う?」

 ギュールスが慌てて声をかけていた。
 すると二人は互いに見合わす。

「……ご安心ください、魔族から遣われし尊い方よ。まずはあの魔族を下がらせましょう」

 ギュールスは何かを言おうとしているが、言葉が出てこない。
 ここで映像を一時停止させる。

「あの時、俺に敬語を使ってきたこと、『混族』に様なんてつけられたこと、こいつらが何者か、混乱してたんだよな。この時まだしばらくは分からなかった」

 そう言うと、映像の続きが流れる。
 魔術師二人はギュールスをどこかに招こうとしている様子。

「さあ、こちらでございます。ささ、どうぞっ……」

「待てっ。王って……ガーランド国王のこと……なのか?」

 魔術師二人は顔を合わせる。
 そして、自己紹介がまだだったことにようやく気付く。
 ギュールスの混乱ぶりも仕方のないこと。
 自分達の非礼を詫び、改めて自己紹介をする魔術師達。


「……我々は、魔族と共存を目指しているレンドレス共和国の魔術師でございます。その青い体を持つ者は、まさしくその理想を具現化された証!」

「『混族』はほかの国々では蔑まれる対象になっておるようですが、とんでもないことでございます。どうか我が国に足をお運びくださり、どうか我が国を安住の地と定めていただきますよう……」

 ミラノスは、映像を一旦止めるようにギュールスに願った。
 ヘミナリアも彼女も憔悴している。

「あんな魔族を操っていただなんて……初めて知りました……」

「まさか、よその国で魔族を呼び出すなんて……」

 ギュールスは二人に優しく話しかける。

「王妃、そしてミラノス。今俺がしていることは、二人への糾弾なんかじゃない。俺がここに来るまでどんな道のりだったかを教えるため。それに俺も二人にはひどいことをしてしまったのかもしれない。でも互いに責め合えば、話は先に進まない」

 ヘミナリアとミラノスは気丈に頷き、映像のその先を見ることを望む。
 先を見せる前にギュールスは自分の当時の思いを語った。

「国交断絶している国の内情をどう調べるか。そしてレンドレスが魔族にどれほど関わっているのかを知る必要があった。この国の王だけしか知らない場合、国民も拘束するなんてやりすぎだと思ったしな。だが俺にそんな企みがあるなんてあの二人には思いもしなかったろう」

 最初の博打だった。
 獅子身中の虫。
 誰からも依頼されていない役目。
 現在何の後ろ盾もない自分。
 この博打に負けたら、誰にも知られずこの世から葬り去られることとなる。
 ギュールスはそのことを口にすると、大声で諫められた。

「何を馬鹿な! 我らがいるではないか!」

 ロワーナ王女である。

「近衛兵解任された者のほとんどが親衛隊に移ったでしょう? 自分の任命はなかったんじゃないですか? 下手すれば、解任してすぐに本部から出なければ、どんな処罰があったか知れたもんじゃありませんでしたよ。だからその前に自ら辞表を出したんです。そのおかげで誰からも咎められることはなかったでしょ?」

 だがギュールスに冷静に言い返されて、さらに返す言葉を失う。
 自分に処罰を与えるのは簡単である。
 その理由が『混族』ということだけで十分事足りるのである。

「そんな……そんな理不尽なことが……」

「あるんだよ、世の中には。この国の対応が珍しいんだよ、ミラノス」

 ギュールスの完全な独り相撲である。
 しかも、その博打に勝てばオワサワールをはじめとする反レンドレス同盟から裏切り者呼ばわりされるかもしれない。
 負けはスパイ行為発覚。期待を裏切った罪は重いだろう。
 どのみちギュールスのその先の未来はいばらの道である。

「そして俺が選んだ道は……」

 そう言うと、映像の続きが流れ出す。

「……お言葉に甘えようか。案内してくれ。道すがら、いろんな話を聞かせてくれるともっと有難いな」

「おぉ! 私達でよければ出来ることなら……いや、出来ないことも可となりましょう!」

 ギュールスはレンドレス共和国の魔術師二人の歓迎を受け、現時点でのこの世界の誰もが立ち入ることが出来ない高い壁の向こうの国へ足を踏み入れることを選んだ。
 その国の野望を、ただ一人で打ち砕くために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...