俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

もう一人の癒し手、名を馳せる

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死にそうな顔でやって来る冒険者達。
それはずっと前から変わらない。
だが、すっかり変わったこともある。
完全に回復して部屋を出て行くまでの期間。
そして、出て行くときの彼らの表情だ。

コルトに歌を歌わせることを課してからだった。
最初は赤面しながら弱々しいハミングやスキャットだった。
それでも効果は、俺の握り飯に次ぐ癒しの効果があった。
けどそれも今のうちだ。
こいつが自信満々で歌えるようになったら、間違いなく俺の握り飯はこいつの歌の補助になるだろう。

一日三回、時々四回。
一ヶ月も続けてれば、自信も少しずつついてくる。
けどコルトの場合、その癒しの能力に対する自信じゃなく、歌唱力の自信のようだ。
ほぼ同じようなもんだろうが、目に見える自分の成長が楽しいんだろうな。

部屋を後にする連中の、礼を言う言葉も力がこもってきたのを感じる。
俺にしてみりゃ、一々うるさい。

「ご恩は一生忘れません」

とか言う奴がいるが、覚えてようが忘れてようが、俺の生活に変化はないからだ。
ただ、死にそうな顔してた奴が元気になっていく様子を見るだけで、割とうれしく感じる。
部屋の掃除をするときれいになっていく。
それを見て気持ちが清々しくなるのと似てる。

まぁこっちが勝手にそう思ってるだけなんだけどな。

けどコルトは、そう言われることに一々感激してる。
今までのコルトの仕事は、はっきり言えば誰にでもできる仕事だったからな。
それが自分にしかできないことが見つかった上、そのことで礼を言われてる。

「いえ! こちらこそありがとうございます!」

などと礼を返している。
言われた冒険者は、感激のあまりに力がこめられたコルトからの握手をされ、逆に戸惑ってたりもする。
何か面白いな、この現象。

しかしコルトは、礼を言う一人一人に一ヶ月間もよくそれを続けていられるもんだ。
その人数は、当然数え切れない。

「彼女は一体何者だ?」

俺にそう聞く奴も多い。
俺はここぞとばかり、ドヤ顔で答える。

「見ての通り、エルフだが、仕事はキュウセイシュだよ」

俺は間違ったことは言ってない。
質問する奴らは聞き返す。

「救世主……って、コウジさんのことじゃないのか?」
「あいつもキュウセイシュだよ」
「へえぇ……」

してやったり。

仏頂面で握り飯を作る、魔法もできない男より、いつも笑顔で歌って癒しを与える女エルフ。
どっちが「キュウセイシュ」と思われやすいかな?

「けどコウジさん」
「何だよ、コルト」
「あの二人の乱入者、あの後全く音沙汰ないですね」

あれだけの騒ぎを起こして、その後は何の追撃などもないってのも確かにおかしな話だ。
まあ備えは怠ってはいないし、何の手段があるのかは分からんが、最近のコルトは何かにつけて自信満々のように見える。

だが、乱入者ではないが、珍客が増え始めた。

珍しい種族や職業の冒険者、という意味じゃない。

「キュウセイシュ様っ!」

回復した冒険者がそう感激して、コルトにハグを求めたり、感涙しながらコルトに負けないぐらいの力を込めた握手を求める者が増え始めた。
そして、俺にそんなあだ名で呼ぶ者はいなくなった。
コルトは、そう呼ばれ始めた頃は照れながらも相手の反応に身を任せていたが、ここのところは逆に気味悪そうな顔をしたり、以前の気弱な顔をたまに見せるようになった。

自分の成したことへの実感を、周囲の感動が上回ったとでも言おうか。

だがそれこそが俺の作戦通り。

「救世主」という呼称がなかなか消えないのならこいつに押しつけてやれ、という俺の企みだったのだ。

器が小さい?
笑って済ませられる範囲だろ?
コルトの能力はいわば、場を和ませる効果があると言えるのだから。

……しかしこの企みは、やはり軽率だったと反省することになる。

コルト。

ほんと、ごめん。
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