俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

コウジの小休止からの男戦士の手記:俺もそれなりに気を遣っている

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 今までの俺は、とにかく慌てふためいていたんだな。
 俺にはそんな自覚はなかったが。

 けど、収納した物が二倍に増える指輪の部屋が使えるようになってからは、本当に余裕ができた。
 時間、金銭、そして精神的に。

 楽になったと思うだろう?
 労働面においては、確かに楽になったさ。
 だが気持ち的に余裕が出ると、あいつらの方に向ける気持ちの余裕も出てきた。
 それは、あいつらの世界に行くことは絶対にない俺にとっては、いくらかのデメリットが生まれるんだよな。

 そんな余裕がなかった時には、絶対に起きなかったデメリットだ。
 
 ※※※※※ ※※※※※

 部屋の片隅にノートと筆記具が置いてある。
 何を書くためかとページをめくってみたら、見たことのない文字が書き連ねてある。
 字体が違う。筆圧が違う。

 ページをめくっていくと、見慣れた文字があった。
 読んでみた。
 どうやらコルトちゃんの書いた文章みたいだ。
 書いた者の名前はないが、俺の記憶も一部被っているし、書かれた内容に心当たりもある。

 ま、人の過去に触れる趣味はない。
 いずれ、このノートの目的は分かった。
 俺も書いてみようと思う。

 とは言っても、俺の過去の話じゃない。
 最近まで、この部屋で起きた……トラブルというか何というか。
 今後ここに訪れる者のための、辛い思いを乗り越える手伝いができたら、とな。

※※※※※ 

「確かに、熾烈極まるダンジョンの奥にこんな安全地帯があって、そこに行く方法も分かればつい当てにしちゃうかもね」
「だろ? キュウセイシュ様もいることだし」

「わ、私、流石にそこまで自惚れてはいないですけど……」

 恩を着せているつもりはない。
 だが、俺も何とか危機をかいくぐり、そしてここの手前の部屋で倒れていたコルトちゃんを助けた俺としては、その後のことも気にならなくはなかった。
 だがまさか、そんな力を持っているとは思ってもみなかった。

 恩を着せるのではなく、とにかく何かしらの複数の縁を結びたかった、という……やや卑屈めいた思いを持ってたのは認めよう。
 我ながら浅ましく、醜い心を持ったものだ。

 いや、この話は俺の懺悔の話じゃない。
 俺は冒険者としては、基本的にソロで活動している。
 コルトちゃんを見つけた時もそうだった。

 だが誰かと一緒に活動している時もある。
 この時も、気の合ったパーティに混ぜてもらって、道中この部屋の噂が話題に上がった。

 すでに何度も訪れていた俺は、その噂は事実であることを伝えた。
 コルトちゃんの歌の力も噂に流れていた時だった。
 その時点では、その力を目の当たりにしていなかったが、口から出まかせでな。まぁ出来心だ。許せ。

 で、ダンジョンでの戦闘で難敵に絡まれ、メンバーの一人である弓使いの女とともにパーティから離れてしまった。

 俺は分かってたから気持ちに余裕はあったが、弓使いの女は危険なほどの錯乱ぶりだった。
 何とか励まして、ようやくここに連れてくることができたわけだが、つまり、俺の話は半信半疑で聞いていたってことだよな。
 まあ百聞は一見に如かず、だ。
 あんな風になるのも仕方なし、だよな。俺もそんな感じだったし。

 しかし握り飯を食ってから大分落ち着いたようだ。
 さらにコルトちゃんの歌で癒されながら眠り、目覚めた気分もかなり上々。
 サニー……女弓使いの名前だが、初めて来たが居心地はかなりいい、と言っていた。

 コウジからは「これで何度目だ?」と冷たく呆れられてしまった。
 我ながらそう思う。
 苦笑いするしかない。

 心身共に回復しつつある。
 だが完全に復活するには、あと二日くらい必要だろう。
 別れたパーティメンバーにも、このようなことが起きたら安全地帯にまで撤退すること、という決め事を作り、叩き込んだから、彼らも大丈夫だろうと思うし。

 そんなわけで養生させてもらってるわけだが、その間にパーティごと、異世界の冒険者達が一組やってきた。

「もうすぐだからなっ」
「もうここでいいっ! ほら、横になれっ……」
「は、早くっ……。き、気休めだけど薬草あるから」

 五人組だ。
 一人は両脇から抱えられてるが完全に脱力している。
 意識不明だろう。
 夜の握り飯の時間にぎりぎり間に合うかどうか。
 俺とサニーの二人で、その五人に配る握り飯を受け取りに行った。

「食えるか? 一人一個で足りるかどうか分からんがとりあえず食え」

 一人はすぐに完食。
 一人は半分くらい食べて力尽きた。
 力尽きたと言っても死んだわけじゃない。
 十分くらいしてから起き上がり、残りを食べきった。
 重傷と思われる三人のうち一人は一口齧ってすぐに目を閉じた。
 が、この部屋にいるみんなが握り飯を食い終わる頃に、再び残りを食べ始めた。
 他の二人は時間をかけて一口齧って終わり。

 コルトの歌の時間になり、それが耳に届いたのかもしれない。
 そしてその日は……俺もサニーも握り飯を食い損ねたまま、朝まで眠ってしまった。
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