俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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王女シェイラ=ミラージュ

冒険者には見えづらいその少年は

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 普通はな、ここに来る奴は元気になったらこの部屋を出ていくもんだ。
 少しでも早く、知ってる奴らに顔を見せて安心させたいって思うのが普通だろ?

 明らかに健康状態が普通だってのに、それでもまだここに居座る理由ってなんなんだよ?
 わっけ分かんねぇっ。

 しかもまたあの少年冒険者が、今度はシェイラに絡んでる。

「ひょっとしておにぎりの効果の秘密は……ズバリ、あれですね!」
「え? え、えーと……。コ、コウジ、あれ、なぁに?」
「あぁ? ……あれと握り飯は関係ねぇぞ」

 指差した方向は加湿器。
 乾燥した空気は喉に悪いからな。
 プレハブができた時に空調を考えて設置した。そんなに大きくはない物だが。

 と言うか、握り飯を一回分全部作った後でシェイラが術をかけているのをこいつも見てるだろうが。
 何でそっちを考えない?

「加湿器ですか……。じゃあ関係ないですよねぇ。回復の効果の理由は、この人の術だけじゃないと思うんですけど……」

 ……流石に考えてたか。

 それにしてもだ。
 まるで子供の夏休みか何かの自由研究に付き合わされてる気分だ。
 壁の方を指さして、あれが秘密ですか? なんて聞いてくる。
 エアコン一つで何とかなる世界なら、二台か三台くらいなら買ってやるからもってけと言いたい。
 誰もがここに来ることがなければ、俺もこの役目にとりかかる時間を別のことに回せるかもしれないと思うと、そっちの方が有意義かもしれんからな。

 って言うか、自分から窮地に追い込むマネとかすんじゃねえよ。

 で、夜の握り飯タイムの時だった。

「……数に差がありましたね」
「何のことだ?」
「いえ、ご飯粒のことですよ。大体の数は分かりましたけど」

 まだ懲りずにご飯粒を数えてたのか?
 って言ってもそんなことをしてる様子はなかったし、誰かが代わりにやってるのも見ていない。

「あ、一粒ずつ飲み込んでました。ご飯粒一つ一つには微妙な形の違いがあって」

 いや、ちょっと待て。

「小さな力も束になれば大きな力になりますから。粒に込められた力もそんなに差はありませんでしたが、今朝と今と比べてみても、どっちが弱いの強いのという偏りもありませんでした」

 待て待て待て。

「外を覆っている黒いのも特におかしなところもなく。となれば、具ですかねぇ」

 なんなんだよ、この握り飯ストーカーは。
 シェイラは何やってんだ。
 こんな時の、俺の手伝いだろうに!

 ……あんのヤロウ、ソッポ向きやがった!

「……随分熱心なことだな。握り飯作りの技術でも盗みに来たか? 残念ながら秘密なんかどこにもねぇよ。作り方を知りたきゃ直接聞きな。ありのまま教えてやるよ。けどなんでみんな元気になるのかは俺にも分からん」

 こんなに露骨に、握り飯のことを調べに来ましたって言う奴も珍しい。
 そのためだけに命の危険を承知で来たわけじゃないだろうに。
 帰りはどうすんだ?
 明らかに戦闘のプロじゃないってことくらいは分かる。
 今まで何人、いや、何百人ものこいつの同業の連中を見てきたんだからな。

「となると、そのご飯を取り出したその器くらいですかねぇ。あるいはその管から出る水……ではないですね。水だけ飲んでこの部屋を後にしたって人もいたようですが、水の噂よりもおにぎりとやらの噂の方が多いので」

 その器……って、炊飯器かよ。
 やめてくれ。
 これだってただの電気炊飯ジャーだ。
 量販店で売っていた、某動物が絡んだ一般的なメーカーだぞ?
 ここには三台あるが、それぞれ別だし。

「あ、僕、冒険者は兼業でやってまして、本業はアルケミストなんですよ。錬金術ってやつですね」

 うわぁ。
 また自分語りする奴が来ちゃったよ。
 いらねぇよ、聞きたくねぇよ。

「シェイラー、俺、相手してる暇ないからこっち来てこいつの……」

 呼びかけたらこっち向いたけど、またソッポ向きやがったよあのお嬢様はよォ!

「シェイラっ! こっち来いっ! こいつの相手……」
「……やっ」
「……追い返すぞこのヤロウ!」

「それでですね」

 いや、俺今シェイラと言い争ってる最中ってこと、見て分からんか?
 何このマイペースな少年は。

 誰か何とかしてくれよ……。
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