俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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王女シェイラ=ミラージュ

どんなことが起こっても、巻き込まれない方法はあるのだが

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 この部屋に、互いに支え合いながらよたよたと入ってきた二人の男。
 装備品の色合いや形が似ていた。

 またどこかの兵士か。
 俺はそれしか思わなかった。
 体中傷だらけ。
 出血も、おびただしいわけじゃないが、肌の色は血の色でほとんど隠れている。

 またシェイラが騒ぎ出すんだろうな。

「コウジの世界にも薬くらいはあるでしょう?!」

 とかさ。

 けど今回はそれに加えて、さらに変化してきた。

「お願いっ! この二人の傷の手当てしてあげてっ!」

 と、切羽詰まったような口調と泣きそうな顔で縋ってきた。
 何があったか分からんが、例外も認めん。
 って言うか、こんな風に言われたのは初めてだ。

「治療は、俺から見た異世界人同士での助け合いでやれ。お前だって魔力あるんだろ?」
「私の魔法は、なぜか治療はうまくいかないのっ! お願いだから」
「シェイラお姉ちゃん。ダメだよ。相手を困らせちゃ」

 シェイラはその声の方向を見て固まった。
 俺への援護射撃は、まさかのあのガキだった。

 箱入りお嬢の指導は無事に実を結んだってことだ。
 その成果は皮肉にも、指導者の行為を咎めるということで現れたわけだが。

 それでもこのガキの素性を知りたいとも思わないし、シェイラの切実な願いに応える気もない。
 大体俺が今まで何人、そんな患者をほったらかしにしたと思う?
 そしてここでの死亡者は何人いたと思う?

 誰からも処置を受けることができなかった奴もいた。
 それでも、死者数はゼロだ。
 全員回復してこの部屋を出て行った。
 もっとも出て行った全員の消息は知らんがな。

 まぁこんな風に切実になる理由はおおよそ予想はつく。
 自分の国の軍人、兵士か何かなんだろうな。
 だがシェイラが王女であることを大っぴらにすることはできない。

「態度があからさまに違うんだよ。それで俺が動いたら贔屓に見えるだろ。お前がお願いって言ってきた時点で、俺はもう動く気はない」
「お願いって言わなくても動くつもりはないんですよね?」

 鋭いじゃねーか、ガキ。
 で、シェイラはまだ何か言いたそうなんだが、何もアクションを起こさない。
 俺はそれに付き合う義務もなし。
 とっとと握り飯の準備に取り掛かった。

 ※※※※※ ※※※※※

 救援活動なら自由にしてもらって構わんさ。
 俺が関わってない限りな。
 つまり、シェイラの判断と責任の下で怪我人の手当てをするってことだ。
 けどせいぜい氷を使って患部を冷やすとか、タオルを熱湯に入れて絞って、冷えた体を温めるとか、せいぜいその程度。
 握り飯の力と比べればほぼ無力。

 しかも意識朦朧の兵士に握り飯を何とか齧らせて飲み込ませたのは、シェイラじゃなくて近くにいた冒険者達。
 シェイラは握り飯を配ったり、余計なことをしようとするあのガキを抑え込んだりと、兵士に構うどころではなかったっぽい。

 握り飯の時間が終わって連中が落ち着いた頃、おれのそばにいるも心ここにあらずといったシェイラのそばに、その兵士二人が近づいてきた。
 意識もすっかりはっきりして、まだ痛みは残っているようだが、それでも自力で歩いてきた。
 つくづくこいつの術付きの握り飯の効果は抜群になったもんだ。

「王女様、ご心配かけて申し訳ありません」
「その上、気を遣っていただいて……」

 体を小さくするような姿勢で、小声でそんなことを言ってくる。
 もちろん俺に声をかけてきたわけじゃない。
 耳に入って来るんだよ。
 で、シェイラと何やら話をしているが、一瞬にしてシェイラの顔が青ざめた。

「せん……そう?」
「「はい」」

 握り飯転売の時に、ちらっと頭によぎった事柄があった。
 楽観してたんだよ。
 そんなことはないだろうって。
 だが、ここに来るにはどんな状況に陥る必要があるかってことを考えた時、何によってそんな状況が作られるかってことも考えるべきだった。

 考えても俺にはどうしようもない。
 だからそれ以上煮詰めて考えることはしなかった。

 だが改めて考える。

 命を危険な状況に追い込む相手は、魔物とは限らないんだよな。
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