俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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シルフ族の療法司ショーア

でも、聖女って呼ばれるのは抵抗ないんだな

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 炊飯器事件に相当インパクトがあったらしい。
 意外にも、ショーアのとんでもないミスはその一回きり。
 その一回きりが、とんでもない噂の大元となって、あいつについた渾名があれこれと好き放題つけられた。

 けど思いついた。
 元々は「聖女」と渾名がついてたんだよな。
 その渾名は職種からきたんじゃないんだと。

 普通……というか、こっちの世界じゃ、宗教に絡んだ人の敬称みたいなもんだよな。
 聖女マリアとか、ジャンヌ・ダルクもそんな呼ばれ方したんじゃなかったか?
 けど、先入観とか既成概念でショーアを見ても、なんかこう、そんな感じには見えないんだよな。
 信仰している宗教を象徴した物とか紋章とかがついた何かを持ってるわけじゃない。
 決まった時間にお祈りとかしてる様子もなさそうだ。

「え? 神様? んー……。回復術の力を授けてくれたのが神様と言うなら、当然神様への感謝は忘れないですよ? でも特定の宗教の枠から出ない神様ってどうかなーって思うんです」

 いわば、自然の中に存在するあらゆる力が、ショーアにとっての神、ということらしい。
 俺らが考える宗教ってのは、未知の世界に向けて、自分達に都合のいい線を引っ張って作られた枠。
 そんな人為的なものにはあまり関心はないらしい。

「んじゃお前の渾名の『聖女』と宗教は関係ないのか」
「まぁ、そう……でしょうね。神殿とか教会とか、必要がなければ行きませんから」

 ということは、役職名でもない、か。
 本当にただの渾名というか、二つ名ってやつなんだな。

「いつの間にかそう呼ばれてましたね」

 言われたくないってこともあるんだろうが破壊神とか言われるのは嫌がってたが、聖女と呼ばれることには照れも焦りもないんだな。

「先入観でしか物を言えないんだが、そのイメージってば、自分よりも自分に縋ってくる弱者に必要なものを与える自己犠牲みたいな精神の持ち主ってのがあるが」
「……自己犠牲になってるつもりはありませんけど、頼ってくる人達と私とで、同じ物を欲しがることがあったら迷うことなくお譲りしますね」

 満員電車に乗って老人に席を譲る、みたいなもんだよな。
 けどそれだけで……あぁ、そうか。
 療法師っつってたっけ。
 けがや病気を治す力を持ってて、他者にそんな思いで接していれば、自ずとそんな渾名はつけられるか。

「だがなんだって俺のとこで手伝いしたいってことになるんだ? お前の仕事の方がよほど誰かのための活動になってるだろうによ」
「それを言うならコウジさんもそうではありませんか? 聞くところによると、ほぼ無報酬で食料を配給してるそうじゃありませんか」

 無報酬って訳じゃないけどな。
 アイテムと交換……と言っても、連中の方からそれを率先してやってる感じがするから……まぁ、無報酬ってば無報酬か。
 そっちの世界と行き来できるんであれば、「こんな綺麗な人とお近づきになれることもあるし」なんて言えたかもな。
 けどその後の嫉妬の嵐が怖いし、そんな口が浮きそうな言葉を言える性格でもないし、そんな気の利いた言い回しは、俺にはかなり高いハードルだ。
 そんな話し方も覚えた方が、店の客の受けもいいだろうとは思うが。

「俺の場合は惰性だし、握り飯食わせときゃそれでいいだろうし……あ……」
「どうしました?」
「ごめん。俺らの晩飯の分の握り飯まで配っちまった」
「気にしませんよ? またご飯炊けばいいでしょうから」

 二人分だけの飯を炊く?
 それはそれでちと面倒なんだよな。
 ……そう言えばまだこいつにはうどん食わせてないよな。

「下でうどん作ってくるわ。好き嫌いはないんだろ?」
「え? あ、はい……。特に……ないと思いますけど」

 炊飯器を一台オシャカにしたこと以外は特に問題行動はない。
 むしろ、今までの二人よりも役に立ってくれてる。
 歓迎の意味で、カレーうどん作ってやるか。
 刺激物には弱いかもしれん。
 甘口でいいよな、うん。
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