俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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握り飯の役目は終わらない

鬼の少女が家庭を持つ

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「女の子からすれば、お泊りで遊びに来た、と言う感覚じゃな。母親も、帰りを予告するなら、と容認しておった」

 少女ってどんだけの年齢か分からんが、一つ屋根の下で男女の二人が、しかも何かするにも歯止めの役目がいないんじゃねぇの?

「そんな生活が十年以上続いた。鬼の少女も大人になった」
「おいおい。まさか結婚とかしたんじゃねぇだろうな?」
「そのまさかよ」

 うわぁ……。
 でも法律とかは関係ないよな。

「母親はあまりいい顔はしなかったが、それでも男の素行を見てしぶしぶ容認したらしい」

 異世界間結婚、とでも言うのか?

「子供……出生届とかどうすんだ?」
「男の子を一人授かった。外見は人間そのものだったから何の問題もない。もし周りから聞かれたら、捨て子を拾った、で問題なかろうとな」

 でも親子関係とか、それってどうなんだ?

「子供が生まれ、健やかに育っていった。近所と言ってもかなり離れてはいたが、それでも他の子供達と普通に遊んでいた。幸い頭の緩さは遺伝しなかった」

 お前も随分ひどいこと言うな。

「そしてさらに年月が過ぎていく。子供は成長し、こんなことを言い始めた。このままじゃ生活はままならない。下の部屋で店をやろうと思う、とな」

 ……ほぼ確定だろ、この話。どんな話なのかがな。

「男も年を取っていく。だが母親になったその女の姿はほとんど変わらない。子供からも、人間ではないのではないかといらぬ目で見られる日も来るだろう、と予見した」

 親子であっても、気になる所は気になるもんだしな。

「母親はその男に相談を持ち掛けた。自分は突然死んだことにして、自分の世界に戻るのはどうかと。子供の友達が母親を見た時に、その異様さを感じて我が子から離れて行かないだろうかと心配したのだな」

 鬼の寿命は人より桁違いに長かった。
 子供には人並みな生活を送ってもらいたいなら、いつか離れる必要がある、か。

「男はいつまでも傍にいてほしいと願ったが、女の言う正しさも理解できた」

 ……家族から追い出されるほどの頭であっても、聡いところは人並み以上かもしんないな。

「そういうことで、一度この世界を離れたら、我が子の命が尽きるまでこの世界に戻ることは許されん、というわけだ」

 まさに生き別れ。
 互いに生きていても再会することは許されないってことか。

「彼女は自分の世界に戻り、男と我が子を案じながらも母親から諭された。いつまでも独り身と言うのも問題だ、とな」

 その母親が死んだことにするなら、自分の世界で新たな生を受けたという見方はできる。
 人道的にどうかとは思うが、郷に入っては郷に従えっていうし、異世界の事情を自分の世界に持ち込んでも、それはそれで他人に理解できない思想だろう。

「己の世界でも家庭を持ち、子供が生まれ、そして孫もできた……。そして聞こえてくる噂話に、いてもたってもいられない、そんな落ち着かない心境だった」
「噂話……。まさか救世主とか言うんじゃねぇだろうな?」

 仕事をしながら話を聞いていた。
 ここで初めてその鬼女に目を向けた。
 ……こっちをガン見してる。
 怖ぇよ。

「噂話に理不尽さを感じるのもどうかと思うのだが」

 俺は、俺のことを救世主と呼ぶことに理不尽を感じるんだが?

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