俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
189 / 196
後日談:屋根裏部屋は異空間! おにぎりが結ぶ、俺を知らない父さんとの縁

父さんかもしれないし違うかもしれない、そんな人との共同作業

しおりを挟む
 ※

 目覚まし時計がなくても早起きできるもんだな。
 まだ部屋が薄暗い中目が覚めた。
 フォールスはまだ寝てる。
 別に彼女に付き添ってもらう必要はない。
 俺に、今の俺に必要なのは、父さんと同じ名前を持つあの人だ。
 あの人がいつもおにぎりを作っているキッチン。
 そのそばでひたすら待つことにした。

「うわっ……おはようございます……」

 壁しかない所から突然現れた。
 魔物の中にはそんな現れ方をする奴はいる。
 けどなかなか慣れない。
 この人もそんな風に現れて、思わず叫びそうになったけど何とか堪えた。

「……おう」

 ぶっきらぼうな挨拶。
 そして昨日とあまり変わらない不機嫌な顔。
 でも、あいつらみたいな嫌味とかは言わない。
 自分のことをいくらかは認めてもらえてるんだろうか。

「あの、見学させてもらいます」
「勝手にしな」

 誰かから許可をもらわなければならないほど危険な作業じゃない。
 そう考えると、邪魔しなければ自由にして構わないってことなんだな。
 それにこの人からすれば、視界に入るだけでも見学になるなら一々断りを入れられるのも面倒なんだろうな。

「あの」
「なんだ。作業の邪魔すんな」
「俺もおにぎり作ったことあります」
「だから何だ」
「……米研ぎも、父さんから習いました。手伝……わせてください」

 結構力いるんだよな。
 研ぎ汁も捨てるなら、米粒を流さないように気をつけなきゃならないし。

「……ふん。じゃあ頼む。俺には他の仕事もあるからな」

 そう言うと、隣の屋根裏部屋に手押し車を押していって、重そうな袋をそれに乗せて戻ってきた。

「米袋、ですか」
「ふん」

 その袋から米を適量ボウルに移して隣で研ぎ始めた。
 俺が知ってる父さんと比べて、比べるべくもないけど、無愛想、つっけんどん、無関心。
 そもそももう死んじゃってるから同一人物じゃないのは分かってる。
 けど……なぜか分からないけど、同じ人って感じがする。

「……研ぎ終わりました。確認お願いします」
「おう」

 自分ちで研ぐなら自分で判断して炊飯すればいい。
 でも、ここの責任者はこの人だからな。

「ふん。やれるじゃねぇか。そこの炊飯器の釜だ。早炊きでやれ」
「……師匠」
「うるせぇ。名前で呼べ」

 ……父さんのことを名前で呼ぶって、何か抵抗がある。
 呼びづらい……。

「コ……コウジさん。コウジさんの国の言葉、分かりません」
「チッ」

 小さい画面表示の文字がおそらくコウジさんの世界の言葉なんだろう。
 俺には分からなかった。

「電源あるだろ? 入れたらそのまま炊飯のスイッチ入れろ。電源スイッチのすぐ下だ」
「は、はい」

 中でゴトゴト音が鳴りだした。

「……よし。炊飯器もう一つ分米研ぎしろ」
「はい」
「あ、おはよー……あ、あれ?」

 エルフの女の子が部屋から出てきた。
 この人、コウジさんの助手、だよね……。

「……見学者の方が心がけがいいってどういうことだよ?」
「あ……あぅ……。ごめんなさい……」
「こいつを助手にしてもいいな。米研ぎ、上手いしよ」
「そ、そんなああぁぁ!」

 この子のその声が目覚ましになった。
 俺がせっかく気を遣って、他の人の睡眠を邪魔しないようにしたけど……無駄だった。
 まぁ……いいけど。

 って、俺、ここの助手になるって……無理なんですけど?!

「ほら、お前も手を休めるな。野郎どもが起き始めてきたぞ!」
「は、はいっ!」

 それにしてもコウジさん、ずっと表情が変わらない不機嫌そうな顔。
 でも、仕事が嫌って訳でもなさそうだし……。

「炊飯器は三つある。がこれ一回ずつじゃ当然足りない。空いてるボウルでさらに米研ぎ。炊飯終わって握り飯作って空になるまで水に漬けとくように」
「は、はいっ」
「あと……お前は握り飯は作るな」
「は……、え? えぇ?」
「作るな。邪魔だ」
「は、はい……」

 なんでだろ?
 まぁ、言われたことはしっかりやっとかないと。

「あ……おはよう……お、おはようございますっ」

 フォールスも起きてきた。
 先に俺が起きてるなんて思ってなかったらしい。
 けどコウジさんは無反応。

「ちょっとエッジ! 私を起こしなさいよっ! 何で一人で動いてるのよ!」

 文句はいいけど、なんで小声だよ。

「フォールス」
「何よ!」
「仕事の邪魔」

 フォールスも朝から機嫌が悪くなった。
 こいつのせいでコウジさんから「どっか行け!」なんて邪険にされたら、何かを学び取ろうとする努力が水の泡になっちまう。
 不機嫌になっとけ、お前はっ。

「……何だよ」
「い、いえ……何でもないです……」

 横目でコウジさんを見てたけど、目が合った。
 睨まれてるかもしれないと思ってたんだけど、何か……笑ってたような気がした。
 そしたらまたすぐにいつもの顔になってた。

 でもずっとそんな顔してるってことは、この仕事、嫌いなのかな。
 でもみんな喜んでる。
 みんなに喜んでもらってるのに、なんで不機嫌なんだろ。

 ※
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...