俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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四人目の相棒は許嫁

こうと決めたら

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 俺はカウラのお陰で、この部屋に来る連中全員の世界に行くことができるようになった。
 けどカウラ達はそうじゃないらしい。
 ということは、ミュウワはこれから冒険者業を始めるんだが、その行き先は自分の世界限定ってわけだ。
 命の危険がない限り、ここで過ごす間に退屈な時間があるなら、それよりはその仕事をする方が有意義、ということもあるしな。
 けどなぁ……。

「あの端正な笑顔、時々しか見られねぇのかよ……」
「ここでのオアシス、消えちまうのかよ……」

 と、冒険者の男性陣の嘆きの声がな。
 女性陣が窘めてくれるが、うっとおしいやら女々しいやら。
 みっともないったらありゃしねぇ。

 ※※※※※ ※※※※※

 朝の総握り飯タイムが終わるとすぐにプレハブと屋根裏部屋の掃除。
 天井をはたいて掃除機で吸い取る。
 この掃除機が、初めて見る連中には珍しいんだそうだ。
 まぁ電気が使われてない世界なら、掃除機に限らず電化製品は皆珍しいんだろうな。
 それから夕方の総握り飯タイムまでは、部屋の掃除とかをしてた。
 ミュウワが冒険者業に出るのは、その時間。
 だから昼飯は、ミュウワは自分の世界で食うわけだ。
 冒険者業を生業とする連中には、散歩程度の時間なんだそうだが、そこら辺はよく分からん。
 魔物討伐なら、やたらと手こずる相手じゃない、ということらしい。
 そして倒した魔物とかをそのまま連れてくるんじゃなくて、向こうの世界で換金して自分の装備品を充実させたりしてるようだ。

「でもさ……片手で人を持ち上げたりするだろ? 筋肉質には見えない腕で」
「そうですね」
「それでも冒険者に不向きって……」
「魔力をうまく放出できなくて」

 誤爆することもあるんだそうだ。
 怖ぇな、それ。

「力任せで戦って、山崩れとか、ちょこっとやらかした事もあって」

 いや、それ怖いだろ、十分に!
 不向きって、住民達に被害が及ぶほどってことか……。

「実は打たれ弱かったりもします。ここに来る人達程度なら問題ないですが」

 嘘つけ、と思ったが、世界ごとに強弱のレベルが違うっぽいな。
 世界ごとの違いを色々調べてみても面白そうだが、ここでしかネタにならないというのが残念だ。

「あ、でもそれ、子供の頃の話ですから。今はいくらか丈夫になってますよ?」
「……どれくらい前か聞いてもいいか?」

 あ、無言のまま、いつもの端正な笑顔になった。
 ということは……追及できないやつだこれ。

 ※※※※※ ※※※※※

 そんな生活を、上手く続けることができた。
 そっちの世界の金銭感覚はないが、ミュウワが出納簿めいた物を作って記録していた。
 俺に見せてくるんだが、さっぱり理解できない。
 当たり前だ。
 文字も数字も、そっちの世界の物だからな。
 向こうの世界に行った時に会話ができたのは、カウラのお陰だし。
 そこら辺の問題も何とかしないとだめだよなぁ。

「要するに、どれだけ貯金ができたかを見てもらいたかったんです」

 養育費か。
 そりゃそうだ。
 日本円は使えないからな。
 でも分からん。

「えっと、一応母乳で育てるつもりですけど、ミルク代は必要でしょ? おしめとかは……」
「すまん。寝ていいか?」
「……コウジさん?」

 あの笑顔で青筋立てるの、怖いからやめてくれませんか。
 つか、文字が読めないんだからしょうがないだろ。

「なんて書いてあるんだよ。それに金銭感覚はないっつってるだろ」
「……一応こんなの買ってきてみました」
「何これ」

 なんか、やたら文字が大きい本を取り出した。

「子供用の文字の練習帳です」

 ……こんな環境で、外国語の勉強するとは思わなかった。
 文字が単語になっても、もじの発音が変わらなきゃ楽なんだが……。

「頑張りましょう。それでですね……」

 発音の練習、この部屋でもできるのかな……。

 ※※※※※ ※※※※※

 お互い母国語を喋ってるんだが、お互い、相手がこっちの母国語を喋ってる認識になる仕組みの屋根裏部屋。
 会話がスムーズなはずだ。
 だが、相手の母国語の発音を勉強するというと、相手から正しい発音を聞かせてもらえるかどうかという心配があるんだが……。

「うん、いい感じ。さっきの私の発音通りにできてるね」

 可能でした。
 勉強したり意思疎通が問題なければ、俺の心配も無用らしい。
 ちなみに、語学の勉強のときは久々にラノウが来てくれた。

「そーなんだぁ。じゃあ早速お姉ちゃんと会話するからついてきてねー」
「無理ですまだ一日目です勘弁しろよ」
「……一週間は過ぎたでしょ? どうして誤魔化そうとするのかしら? コウジさん?」

 あ……。

「……コウジさん。お姉ちゃんの声がこの低さで、しかもこんなに綺麗な笑顔の時はね……」

 うん、知ってる……。

 ※※※※※ ※※※※※

 語学力もミュウワの貯金も程よく高まったところで、カウラに来てもらうことにした。
 説明は、そっちの言葉を使って俺がする。
 語弊があっても、使い方がまだしっかりしていないという言い訳も立つからな。

「そうか……。余計な気を使わせてしまったの……」

 カウラが俺に気遣って縁談を持ち出した件については、カウラの気持ちを無下にするような内容だと思ってた。
 けど当人同士での話し合いは必要だし。
 だがそれも杞憂だった。
 逆に恐縮された。
 ただ、子育ての話で、ミュウワだけが実家で世話をする話には難色を示した。

「会話はそこそこできそうだの。そのまま鍛錬して行けば、普通に生活できるやもしれん。怖気つくこともあるまいて。こっちで仲良う暮らせばよい。それに、一族の中には、他種族と一緒になるのを好ましく思わない者もおる。女を守るのも男の甲斐性ぞ?」

 へいへい。
 何とか勉強頑張りますよ。
 結局山積みだと思ってた問題は、意外にも俺の言語力と異種族の混入ということだけだった。
 が、後者は多分厄介な問題になるかもなぁ。
 できれば、子供が大きくなったら屋根裏部屋での仕事をしてほしいから、俺もずっとそこに関わる必要があるんだが。
 なるようにしかならんだろうけど、それだけは俺の意志を押し通したい。
 もっともこれも杞憂であってほしいがな。

「で、式はどうする?」
「式? ……あ」

 考えてなかった。
 ミュウワも考えてなかったっぽい。

「でも……衣装は着てみたいな」
「えーと……俺が婿入りする形の方が、何かと都合がいいと思うんだ」

 その場合でも花嫁衣裳って言うのか?

「式は衣装が中心にはならんがな」
「う……はい……」

 ミュウワが窘められた。
 後継者が欲しい、という要望だけでは済まされないらしいな。
 結婚に拘るつもりはないけど、郷に入っては郷に従え、だ。
 けど、結局そうなるんだな。
 外堀を埋められた気分だが、そんな気分になるってことは、俺はまだ後ろ向きな姿勢なんだろうな。
 腹、括らなきゃな。

 ※※※※※ ※※※※※

 その後のことだが、カウラが俺達の話を聞かせたらしい。
 式も子作りも勝手にすればいい、一族へのお披露目なども不要、と言われたんだそうだ。
 家長はカウラだが、その次の家長候補の意見も蔑ろにはできないらしく、カウラの鶴の一声というわけにはいかないらしい。
 子育てはこっちでしても構わないが、実家からの援助は期待するな。
 俺のことはどうでもいい。
 そんな感じだったんだと。
 やはり異世界の、そして異種族の者と一族の物が一緒になることに強い抵抗があるようだ。

「申し訳ない」

 頭を下げるカウラが、なんだか弱々しく見えた。

「私は何があっても、コウジさんの味方だから、ね?」

 最初にミュウワと会った時には、想像もできない可愛らしい笑顔を俺に見せてくれた。

「あたしもお姉ちゃんの味方だよー」
「ラノウはカレーの味方なんじゃないのー?」
「そんなことない……いや、あるかもー」

 姉妹の会話は和むなぁ。
 ちなみにこれくらいの会話は、ミュウワ達の母国語でも理解できるようになっている。

 しかし、先のことなんか誰にも分からない。
 あの部屋を頼りにする連中には、場合によっちゃ申し訳ない結果になるかも分からん。
 だから今の俺には、今の俺にできる事をし続けることしか考えられない。

「コウジさん。すごく気が早いんだけど」
「ん?」
「子供ができたら、どんな名前がいい?」

 うん。
 確かに気が早すぎる。
 できるかどうか分からないしな。
 でももし子供ができるなら……。

「男なら、確か『前進』を意味するエッジがいいな。女の子なら……」
「女の子なら?」

 しばらくミュウワの顔を見つめる。
 名前負けしなきゃいいな、とポツリと思ったが。

「エリュース、がいいな」
「エリュース……。『慈しみ』のエリンと『毅然』のシュースをくっつけたのね。……私、そんな感じだった?」
「そんな感じ、引き継いでもらいたいな」

 まぁ生まれてくるなら性別はどっちでも大歓迎だよ。
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