この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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幕間

幕間:仕事の報酬と手伝い以外の仕事

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 あれから二週間経った。
 俺は毎朝、生駒……いや、ここでは敢えて先輩から教わった元々の名前を言うとするか。
 異駒清水神社に足を運んでいる。

 俺はななの手伝いを終えたその日の昼食後、宝くじを試しに買ってみた。
 夏と年末の当選額のでかいものしか知らないんだが、毎週当選発表がある宝くじもあることを初めて知った。

 結果を言うと、俺は七桁後半の金額を手にすることが出来た。
 百万円台なら何度か手にしたことがある。
 五百万円台なら通帳に記された額面を何度か見たことがある。
 だがそれを超える額を実際に手にするとなると、流石に体が震えた。
 宗教法人から給料をもらっているかたちをとっている俺から見ればその額は、俺の年収を超える額。本業を越える副業の収入ってどうなんだ? と誰かに問い質したい気持ちになるが、答えをもらったところで何にもならない。

 寺、と言うより宗教法人の主な収入源と言えば、ぶっちゃけるとお布施だ。
 が、それは店舗の中に展示されてある品物の値札と同類じゃない。
 法事を依頼されたときにしょっちゅう聞かれるお布施の金額。
 その答えもしょっちゅう聞かれるのは「お気持ちで結構です」と言う言葉。
 はっきり言えば、そう言われても困ることは多いだろう。
 だから俺、と言うか、父親であり師匠でもある先代住職は、そう聞かれたときは大体の目安を答えていた。

 目安である。
 価格ではない。
 その目安の金額も出せないと言われる場合がある。
 だが目安である。
 その額でなければいけない理由はどこにもない。
 もっともその額を上回ったためしはないが。

 お布施と言うと、真っ先に不祝儀袋に入ったお金を連想されることが多いが、本来は布施行と呼ばれる修業の一つ。
 我儘を言わせてもらえばだ。
 葬儀のお布施は、他の、例えば年回忌やお盆の棚経とは違うからその中身はその分上乗せしてもらいたい気持ちはある。

 だが葬儀のお布施だって、出す側からすれば出せない場合だってある。
 亡くなられた方がどこかの施設にお世話になったり長期入院などしていたりしたら家族の出費もかさむことだろうし、誰もが皆健康保険や生命保険に加入しているとは限らない。

 雑収入はあるかもしれん。だがお布施という収入を主として、それが宗教法人の職員は生活をしているわけだが、生活が出来なくなるかもしれないのでお布施の中身を増やしてください、ってお願いするわけにもいかん。
 納めていただいたそれが、その時のお布施なのだから。
 そして納める人が納めることが出来る精一杯の額。
 俺はそう受け止めている。

 しかしそれも生活費を圧迫してしまう檀家も、いないとも言い切れない。
 本業の収入をはるかに超える副業の収入があれば、そんな苦しい生活をしているお檀家さんもいくらか楽になるんじゃないか?

 だからこそ、ななからの報酬を相当アテにしていた。
 だが本当に報酬が入るかどうかは、正直疑心暗鬼だった。
 この世界を創造したその仕組みは、造った本人だからななは十分知っているんだろうが、その世界の住民が作り出したものについてはほとんど疎い。
 自分でもそう言っていた。
 だからこそ、お金で報酬を払うより俺の運勢を上げるという選択をしたんだ。

 その結果、まさか葬儀一回分のお布施の目安の十倍を超える額になるなんて考えもしなかった。
 おまけに本業の年収を優に超えている。

 大事なことだから同じことを二度言った。繰り返した。

 確かに俺の生活は楽になる。
 だがそれよりも、納める金額が目安よりも低いからという理由で段かが恐縮することがなくなることが有り難い。

 布施をする気持ちが一番大切なのであって、その中身は問題ではない。
 これは正しい理屈ではあるが、俺達にも生活がかかっている。
 兼業で僧侶の仕事をしている者もいる。専業では生活が成り立たないくらい檀家数が少ないのが主な理由だ。
 専業になるには、檀家の負担が大きくなってしまう。
 しかし兼業になると、本業の僧職が満足に出来ないこともある。
 檀家に不安を与えることにもなるが、俺の場合は本業副業共に手落ちになることはない。

 だからこそ報酬のことが気になった。
 それが俺の望み通りになれば、お布施の目安を口にするとき、檀家の負担になることに気を遣わずに済むからな。
 ところがななは、金額を言わず運勢を上げるとしか言わなかった。

 ななの手伝いを続けるか否かの分かれ道。
 何種類か宝くじは販売されていたが、番号を選ぶタイプの別の物を二種類、適当に番号にマークして一枚ずつ買ってみた。

 そしたらこれだ。八桁目前とはいかなかったが、
 一枚は二等。もう一枚は外れ。
 買えばすべてが高額当選というわけではなく、報酬として適当と思われる金額を手にすることが出来ると考えていい。

「なぁ、なな」

「ん? なぁに?」

「先週報告したように、まぁ大金を手にしたわけだが」

「うん」

 ななは何やら卓上で使う鏡のような物を見つめたままの生返事。
 まぁ別にその態度は俺が気にすることじゃないが。

「毎日こうして来てるんだが、願い事は毎日耳にするんだろ? どれでもいいって訳でもないのも分かるが、俺がこうして通えてる間は手伝えることがない可能性もあるんじゃないか?」

「うん、それはあるかもねー……」

 手伝いをしなきゃ報酬を貰えない。
 その手伝いがいつあるか分からない。
 報酬がもらえなければ、それをアテにした寺の運営も出来ない。

「毎日来る必要ないんじゃないのか? 来て欲しい時に雷鳴轟かせるとかすればいいんじゃねぇの?」

「そしたらせっかく上げた運勢発揮できる理由がなくなっちゃうでしょー?」

 ほう。
 つまり、ななの家が俺の職場と言えなくはない。
 そして今、俺はななの家に出勤していると言うわけだ。

「てことは、ここに来ることも俺の仕事の一つで、それに対して報酬ももらえると?」

「まぁそれくらいはできるくらいの運勢は上げてるつもりだけどねー。それに雑用はたまにあるし」

 まさかお茶汲みとかじゃあるまいな?

「たまーにね、紛れ込む人たちもいるのよね。あなたもそうだったでしょ?」

「俺? 紛れ込んだ? いつよ」

「子供の頃一緒に遊んだ記憶はあるでしょ?」

 社の中でお絵描きとか折り紙とかしてた頃だったよな?

「その前に一回、うちの前に迷い込んだことがあったのは……覚えてないか」

 ななは楽しそうな顔して昔話をしている。
 が、俺にはその楽しさは分からん。覚えてないんだがな。

「せめて神社が昔のまんまだったら思い出せたかもしれんけどな。で、それがどうしたんだ?」

「そういう人達を、その人達がいた世界に連れて戻してあげるっていうのも仕事の一つ。滅多にない……んだけど、言ってるそばから誰か紛れちゃったみたい」

 俺は何のことか分からず、ゆっくり立ち上がって社の外に出るななを見るだけしか出来なかった。
 だがその仕事も頼むとなると、どんなことをするか見る必要もあるだろう。

「んじゃお手本見せてもらいましょうかね?」

 よっこらしょ、なんて声が思わす出る。
 ななに続いて戸の口に立つと、ななと似たような着物を着た少女がぽかんとした顔で、しゃがんだななの顔を見つめている。

「やっぱり迷い込んじゃったか。うん、お姉さんが連れてったげるね」

 ななはそう言うと、その女の子の手を引いて横の鳥居の前に立つ。

「さ、この鳥居くぐるとおうちに帰れるよ」

 あぁ、何か、こんな風に優しく背中を押されたことがあったような気がする。
 けど、はっきりとは分からん。

「……南、見てた? これくらいのことなら南にも出来るかもって思ったからさ。こういうのもお仕事」

「にしても、今のは何者だよ。日本の昔話の挿絵に出てきそうな子だったよな」

「しずって名前だって。一回でもここに紛れてきた人は、頻繁じゃないけど何回かまた迷ってここに来ちゃうから、南ももし見かけたらあんな風にしてあげてね」

 了解だ。それも収入になるならやりますよっと。

「今日のところはここまででいいや。火急の用事があったら雷鳴らすから来てね」

「じゃあまた明日ってことでいいな? じゃお先に」

 自分の家にいるななに向かって、お先にって言う挨拶も我ながらどうかと思ったが。
 それにしても雷使って呼び出すだなんて豪快にもほどがある。
 そうそう。
 毎日ここに来るのも仕事のうちなら、また試しに帰りの途中で宝くじ買ってみますか。

 現実世界とななの家との行ったり来たりの毎日。
 時間のロスがないってのは、これは相当有意義だ。
 体の老化などの変化もないんだから。
 別に年下が好みって訳でもないが、一般的にななも可愛いと言えなくはないレベルだしな。うん。

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 そんな生活サイクルが俺の意識の中ですっかり定着した。
 体に無理を言わせることもない。そして毎週決まった曜日に宝くじを買う。
 異世界での仕事がない普段は、毎回六桁後半の当選額を手にしている。
 流石に毎回同じところで買うのもまずい。
 一番県南にあるこの湯川市から、中央にある県庁所在地までわざわざ足を延ばして買いに行ったりもする。
 でも手にした金額のほとんどは宗教法人に寄付という形にしてたりするから、意外と俺の生活自体はあまり変化がない。
 まぁそれもいいさ。
 変に生活が派手になったりしたら、それこそ周りから怪しまれるもんな、うん。
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