この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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幕間

幕間:俺とななの日常 ななの家にて

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「ところでなな」

「ん? なぁに? 南」

 ななは俺を呼ぶとき、俺の旧名で呼ぶ。
 南に佐助の佐と書いてなんざと読み、戸籍上からもそのように改名した。
 だが俺を南と呼ぶのはななしかいない。
 気にはなるが呼ばれたときの区別がつきやすい。

「その外見なんだが」

「うん」

「昔からその姿のままか? 年、聞いていいか?」

 ななは上を見て考え込んでいる。

「南の世界を作る前には、あの世界を作って、あの世界の前はあれとアレを作ってたから……」

 俺の脳のキャパを超えそうな年月を振り返ってる。
 何億年前って話じゃなさそうだ。
 京、垓、秭、ジョウ……。

「いや、年齢はいい。聞いた俺が悪かった」

 レディに年齢を尋ねるものではない。
 そんな話はよく聞くが、こいつの場合は別の意味で聞くべきではないのは分かった。

「まぁこの体と顔はずっと変わらないよ? 年取らないからね。変えるつもりもないけど変えてほしいなら、別の姿に見えるようにはするけど」

 ……ひょっとして若い女の子の姿に見えるだけってことはないよな?

「……うふっ」

 いい。
 答えてもらわなくていい。
 わざとらしい笑顔見せつけられるとな、その陰でどんな顔持ってるかなんてこと考えたらそりゃもうSAN値がヤバくなりそうな予感。
 いや、その前にこの笑顔は、実にあざとい。

「ところでそのテーブルの上の鏡は何だよ?」

「願いの声は何もなくても聞こえてくるんだけど、その現状までは見えないからこの鏡を使ってね」

 いや、別にこっちに見せなくていいから。
 余計なことに関わるとさらに面倒なことになりそうだし。

「私の造った世界の様子を見ることが出来るの。龍退治の時は、あの辺りからの願い事はほぼそれ一色だったから比較的事態は把握しやすかったんだけど、そうじゃない場所もあるからね」

 そりゃまぁ音声からの情報に偏るより、あらゆる感覚から情報を得る方が、より正確に状況を把握しやすいだろうからなぁ。

「で、しばらく何の手伝いもしてないんだが。こんなんで手当てっぽいのを貰えて、逆に恐縮するレベルだな」

 宝くじ二回目を当ててから三週間経った。
 試しに五十枚くらい買ったり、一枚きりしか買わない時もあった。
 毎週手にする額はまばらだが、六桁前半に固まっている。

「でもなんで、そんなにたくさん世界を作ったお前が、俺の世界に自宅を作ったんだ?」

「南んとこの世界にあるんじゃないよ?」

 鏡から俺の方に視線を移すが、きょとんとしている。
 いや、俺の近所の神社からお前んちに来てるじゃねぇか。

「私の家からいろんな世界に繋がってて、南が私んちがある場所に来てるってこと。でもその道が消えちゃったから、あの神社の社と私んちが融合したようなかたちになってるけどね」

 てっきり神社と関連があるかと思ったら、いろんな世界と繋がっている自宅にいて、そこに俺がしょっちゅう出入り出来る立場ってわけか。

「ところでななの手伝いの件なんだが、別にやりたいって訳じゃないが、毎日ここに来るだけで手当てがもらえるって感じがするのもちょっと気が引ける。かといってなにも貰えないのも、それはそれで不都合が起きかねる」

「いろいろ持ち掛けられてはいるんだけどねぇ」

「叶えるほどではない、と?」

 神様がため息をつくっのもなかなかシュールだな。神様ですら考え込む事態ってどんなんだよ。

「例えば水不足だから雨降らせてくれってお願いする人達がいるのよ」

「ほう。それで?」

「雨、降らせたんだけど……」

 俺がいなくても出来る用件ってことか。

「洪水になっちゃってね。水害が起きちゃった」

 降らせすぎだろそれ。
 どんだけ水が欲しいか確認してからにしろよ。
 つーか、隣町で雨乞いの儀式やったら水害が起きたって話、あったぞ?
 お前か? お前がやらかしたのか?

「神様の感覚と俺らの感覚違うんだよ。どれだけ欲しいのかリサーチしてからにしろよ」

「誰に聞いても水が欲しいとしか言わないんだもん。しょーがないでしょっ!」

 女神が逆ギレなんて始末に負えねぇな。俺の仕事はこいつの手伝いかそれともこいつを宥めることか。
 後者には何の手当ても出そうにない気がする。

「まぁ、だからこの鏡作ったんだけどねー……。作ったとしても、私がわざわざ動く用件が増えたわけでもないし」

 神通力の無駄遣いじゃねぇの?
 それにしても、そんな長い年月をたった一人で過ごしてきたのか。

「ななにさ」

「ん?」

「親兄弟とかはいないのか?」

「いるにはいるけど……聞くつもり?」

 そう聞き返すななが俺を見る目が実に意味深で。

「いや、いい」

 聞く覚悟が出来たら改めて聞こうか。
 未知の世界は聞いてみたいものだが、想像を絶する世界なら頭がどうにかなりそうだ。
 宇宙の外には何がある、何てのはその最たるものだろう。
 おそらくななは、その想像を絶する世界を股にかけてるんだろうな。

「だが共通する話題があまりないと、あまり相棒とは言えないよな」

「そんな堅苦しく考えなくていいよ。そばに誰かがいてくれるだけで有り難いってのはあるけど、まぁその気になったら会える相手はいるからね」

 何かもう、考えるだけで思考が停止してしまいそうになる。
 特撮の怪獣の出身地が外宇宙なんて設定があったりするが、それをはるかに超える世界にいるってことだろ?

 ……家族か。

「なぁ」

「ん? なぁに? 南」

「……会える時は、会った方がいいぞ。これが最後の会う機会だと思いながらな」

 ななは俺をきょとんとした目で見ている。
 無量長寿の存在なら、俺の言うことは理解できないだろうな。
 だが、それでも。

「次に会えた時、会えるはずがなかったのに会えた、といううれしい感情が生まれるはずだ。ちょっと得した気分になるぞ」

「……うん。ありがと」

 ……俺のせいではあるんだが。
 だが言わずにいられなかった。

 ちょっとだけ、この場が湿っぽい雰囲気になった。
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