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第二章 二件目 野盗を討て!
仇討ちの種まき
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野盗を完璧に叩き潰す。
だがそれだけじゃだめだ。
この地域が賑やかにならなきゃ、人は生きていても土地が死んでしまう。
土地が死んでしまったら、人もいなくなる。
賑やかにするには、そこで生活する人達が生きようとする意志を持たなきゃならない。
ただ生きているだけじゃだめなんだ。
そのために必要なのは感情。
感情の有無を判別しやすい表現は笑いと怒り。
職業上怒りの感情を呼び起こすのは避ける方がいいんだろうが、人間として生きるために必要なのは、本能よりも感情だ。
腹が減る。トイレに行きたい。
これらは限界まで我慢をすれば感情は生まれるだろうが、その前に本能が本人に行動を起こさせてしまうからだ。
そしてそれだけで終わりにしてはならない。
集落という地域社会を、藩の中でどんな立ち位置に立たせるかによっても変わる。
「考えてみりゃ、俺の先祖はあの洞窟の中にいる誰かとは限らないんだよな」
例えば藩に謀反を起こして粛清されて、全く別の人間が住み着く可能性もある。
むしろそっちが正史かもしれん。
だからと言って野盗をそのままに出来るかって話だ!
ひょっとしたら俺はあの野盗の子孫の可能性もあるかもしれない。
もしそうだったら一族の恥を生涯背負って生きていく覚悟が必要になるだろうな。
先祖だからすべて敬えってのは無理な話。足蹴にしたって構うもんかよ!
それに、俺の時代の湯川市の三大祭りはすべてここの殿さん由来だ。
助っ人をよこさない理由はあるだろう。
だが行事はいつしか祭りとなり、その行事が始まった理由は殿さんにある。
ここに住む者に無関心ってわけじゃなかったろうよ。
殿さんに会いに行くとややこしくなる。
一方的にこの親切を押し売りするか。
なぁに、全部まとめて片付けることは出来る。
ななに収束させりゃあいいんだよ。
「なな」
「何? 南」
「明朝、またあの洞窟に行くぜ。こっちで勝手にやってもいいんだが、それじゃあの人達ゃ常に何かに怯えっぱなしだ。多少俺らが使い走りの立場に思われたって仕方はねぇが、自分らで立ち上がるきっかけさえあればいいんだ。それですべては解決する」
「解決? どんな風に?」
「それは明日のお楽しみってこと。とりあえず休むか。もう日が暮れる」
夜になると地上からは何の明かりのない世界。
確かにこれは恐怖かもしれない。
だが襲撃のために来る不審な音や雰囲気は外からは感じられない。
そう言えば、ななは俺の運を上げるって言ってたな。
その効果はずっと実感している。ひょっとしてこれもその一つかもしれないな。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
翌朝、何時か分からんが日の出と共に洞窟に向かった。
野盗退治よりも、これから対面する時間が俺にとっての正念場かもしれん。
今のななには彼らへの説得力はあまり高くはないはずだ。
やや気が重い感じはするが、だからと言って野盗をのさばらしてはおけない。
「また来たのかい。お宅がどこの誰かは分からんが、ワシらはもう何にも出来ん。こっから田んぼまでの往復ぐれぇだよ」
「うちのしずが面倒かけたね。けんど、ワシらに構わんでもえぇよ」
俺が何とか会話が出来るのは、しずの両親ぐらいしかいない。他の者達は皆相変わらず無気力な目をしている。
もっと熱くなれよ!
などと言っても通用する相手じゃない。
「手伝ってほしいことがあるんだ。生き残っている者全員、愛宕神社に移動して、見てもらいたいものがあってな」
「ほぉん? 見るだけかい?」
「あぁ。荒らされた田んぼや畑で俺がやることを見ててほしいんだ。田んぼや畑で使う仕事道具持ってってくれると有り難い。あぁ、仕事するかどうかは分からんけどな」
そしてその仕事場は、もちろん愛宕神社じゃない。
さらにもう一つ。
「ほかにも……隠し持ってる刃物も持ってって欲しいかな。あるんじゃねぇの? お役人の目から逃れた物が」
「あんたら……何考えてんだ?」
俺を睨む眼光が鋭すぎねぇか?
今までの、何のやる気もなさそな目がどっかに行っちまってんぞ?
「殿さんから何の力も借りられねぇんだろ? だったら逆に、持ってたらヤバそうなモンだって見つけられるはずねぇだろ? 人の命だけじゃねぇ。道具だって失ってるはずだ。そんなもんも使わなきゃ間に合わねぇだろうしな」
「……何が、間に合わねぇってんだ?」
「住民達がたくさん死んで、事が済んだら弔う必要があるだろ? 穴掘りには向かねぇ道具だろうけど、ないよりゃましだ」
ほんとは違うんだけどな。使う目的がよ。
「でも荒らされた田んぼを見るのはねぇ……。知り合いが殺されたところを見るのは酷ってもんさね」
「あぁ……。弔いたくても、その最中に襲われるかもしれねぇっつんで、野辺送りもできゃしねぇ。あのままほったらかしで申し訳ねぇんだけど、けどあんたらが何かしてくれるのかよ?」
時代問わず宗派問わず弔うことならそれこそ俺の専門分野だ。
だが今はそれどころじゃねぇな。
「あとはタイミングだな。細工に時間がかかるから二日は欲しいか。それと今よりも被害に遭う田畑が増えるかもしれねぇが」
「たいみんぐ? なんだいそりゃ? ていうか、あんたら、何をしようってんだい?」
あぁ、まだそれを言ってなかったか。
「そりゃもちろん、この人達の仇討ちさ」
「「え?!」」
そりゃ驚くよなぁ。
「わ、ワシらのか?」
「バカ言うでねぇ! 殺されちまうよ!」
「死なねぇよ。なな神様からの遣いだからな。それに仇討するところを見てもらわなきゃ困るし、あんたらの姿は野盗から見られる心配はないだろ? 下から見上げても見つけられない所から見ることは出来るだろうし」
いきなり仇討をしてあげるって言われて、お願いしますなんて反応が出来る方が稀だろうよ。
ましてやそっちからすればただの赤の他人だ。
「それにしても『なな神様』って……」
「俺のお父とお母なば、確かに『なな神様』みでぇなこと言ってだことあったっけな。けどどぃんた神様かは全然知らねぇ」
「しずは名前は知ってだのが……。でも外さ出るのは危ねぇぞ? どごで野盗に襲われるがわがんねぇがらな」
なな神様についてのフォローの必要はある。だが今は放置しておこうか。
「……ま、なな神様については今はいいや。ただ、しずの願いを聞き届けてくれた唯一の神様ってことさえ覚えておいてくれりゃいい。それと殿さんからの声も聞こえてきたことだしな」
伏線仕組むことくらいなら問題ないか。
俺の先祖たちは昔からここらの集落の住民の可能性がとても高い。
殿さんに楯突かせることだけは避けたいしな。
「ちょ、ちょっと南、大丈夫なの?」
「しっ。今は俺に合わせとけ」
ここでななが声を出したの、初めてじゃねぇのか?
今の時点でしゃしゃり出られても、場が混乱するだけだからしょうがない。
今回は少し大人しくしてもらった方がやりやすい。
「んだ。お父とお母、ほがの人だぢもいってた『はくとう』、だれがなんとかしてけれって」
しずは、俺達が洞窟にきてからずっと俺にまとわりついているが、俺らの会話は難しすぎてるようで全く関心がなさそうだったが、俺がしずのことを触れてそれに反応したんだな。
少しは役に立ってるアピールってところか。
「しず……。誰も何とも出来ねぇんだよ。やっつけようどしたみんなも死んじまって……」
「でもかみさま、こうしてきてけだんだよ? なんとかしてもらえるんだよ?」
子供一人がそんな風に言い張ったって、そんな感情ひっくり返すのは難しいんだがな。
けど、ただ見るだけならみんながやれることだ。
見てどう思うかは勝手だがな。
そう。
勝手なのだ。
勝手に動いて困ることもあるが、動いてもらわなきゃ困ることもある。
「さっきも言ったが、あの神社から見下ろすことは出来るが、下の方から神社見たって、みんながいるってことまでは分からねぇだろ? 殿様だってあんたたちのことは気にかけてた。だが泣いて謝ってたぜ? ま、そんな殿さんを勘弁してやるかどうかは、俺が奴らをどうにかしてやってから決めりゃいい。まぁ殿さんよりも今は野盗が問題だよな?」
「何日かおきに襲ってくるんだが、あと三日くらいしたら来るんじゃねぇかな……」
念を押したら、あと二日は襲ってくることはないようだ。
強奪した食料が尽きてから襲いに来るらしい。
しばらくは大人しくしているだろうから、その間は俺達は自由に動けるはず。
あとは、この集落の生き残り全員が俺らのすることを見てくれるかどうかだ。
「不眠不休で頑張ってみるか。目にものを見せてやんぜ? 『白討』ども」
だがそれだけじゃだめだ。
この地域が賑やかにならなきゃ、人は生きていても土地が死んでしまう。
土地が死んでしまったら、人もいなくなる。
賑やかにするには、そこで生活する人達が生きようとする意志を持たなきゃならない。
ただ生きているだけじゃだめなんだ。
そのために必要なのは感情。
感情の有無を判別しやすい表現は笑いと怒り。
職業上怒りの感情を呼び起こすのは避ける方がいいんだろうが、人間として生きるために必要なのは、本能よりも感情だ。
腹が減る。トイレに行きたい。
これらは限界まで我慢をすれば感情は生まれるだろうが、その前に本能が本人に行動を起こさせてしまうからだ。
そしてそれだけで終わりにしてはならない。
集落という地域社会を、藩の中でどんな立ち位置に立たせるかによっても変わる。
「考えてみりゃ、俺の先祖はあの洞窟の中にいる誰かとは限らないんだよな」
例えば藩に謀反を起こして粛清されて、全く別の人間が住み着く可能性もある。
むしろそっちが正史かもしれん。
だからと言って野盗をそのままに出来るかって話だ!
ひょっとしたら俺はあの野盗の子孫の可能性もあるかもしれない。
もしそうだったら一族の恥を生涯背負って生きていく覚悟が必要になるだろうな。
先祖だからすべて敬えってのは無理な話。足蹴にしたって構うもんかよ!
それに、俺の時代の湯川市の三大祭りはすべてここの殿さん由来だ。
助っ人をよこさない理由はあるだろう。
だが行事はいつしか祭りとなり、その行事が始まった理由は殿さんにある。
ここに住む者に無関心ってわけじゃなかったろうよ。
殿さんに会いに行くとややこしくなる。
一方的にこの親切を押し売りするか。
なぁに、全部まとめて片付けることは出来る。
ななに収束させりゃあいいんだよ。
「なな」
「何? 南」
「明朝、またあの洞窟に行くぜ。こっちで勝手にやってもいいんだが、それじゃあの人達ゃ常に何かに怯えっぱなしだ。多少俺らが使い走りの立場に思われたって仕方はねぇが、自分らで立ち上がるきっかけさえあればいいんだ。それですべては解決する」
「解決? どんな風に?」
「それは明日のお楽しみってこと。とりあえず休むか。もう日が暮れる」
夜になると地上からは何の明かりのない世界。
確かにこれは恐怖かもしれない。
だが襲撃のために来る不審な音や雰囲気は外からは感じられない。
そう言えば、ななは俺の運を上げるって言ってたな。
その効果はずっと実感している。ひょっとしてこれもその一つかもしれないな。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
翌朝、何時か分からんが日の出と共に洞窟に向かった。
野盗退治よりも、これから対面する時間が俺にとっての正念場かもしれん。
今のななには彼らへの説得力はあまり高くはないはずだ。
やや気が重い感じはするが、だからと言って野盗をのさばらしてはおけない。
「また来たのかい。お宅がどこの誰かは分からんが、ワシらはもう何にも出来ん。こっから田んぼまでの往復ぐれぇだよ」
「うちのしずが面倒かけたね。けんど、ワシらに構わんでもえぇよ」
俺が何とか会話が出来るのは、しずの両親ぐらいしかいない。他の者達は皆相変わらず無気力な目をしている。
もっと熱くなれよ!
などと言っても通用する相手じゃない。
「手伝ってほしいことがあるんだ。生き残っている者全員、愛宕神社に移動して、見てもらいたいものがあってな」
「ほぉん? 見るだけかい?」
「あぁ。荒らされた田んぼや畑で俺がやることを見ててほしいんだ。田んぼや畑で使う仕事道具持ってってくれると有り難い。あぁ、仕事するかどうかは分からんけどな」
そしてその仕事場は、もちろん愛宕神社じゃない。
さらにもう一つ。
「ほかにも……隠し持ってる刃物も持ってって欲しいかな。あるんじゃねぇの? お役人の目から逃れた物が」
「あんたら……何考えてんだ?」
俺を睨む眼光が鋭すぎねぇか?
今までの、何のやる気もなさそな目がどっかに行っちまってんぞ?
「殿さんから何の力も借りられねぇんだろ? だったら逆に、持ってたらヤバそうなモンだって見つけられるはずねぇだろ? 人の命だけじゃねぇ。道具だって失ってるはずだ。そんなもんも使わなきゃ間に合わねぇだろうしな」
「……何が、間に合わねぇってんだ?」
「住民達がたくさん死んで、事が済んだら弔う必要があるだろ? 穴掘りには向かねぇ道具だろうけど、ないよりゃましだ」
ほんとは違うんだけどな。使う目的がよ。
「でも荒らされた田んぼを見るのはねぇ……。知り合いが殺されたところを見るのは酷ってもんさね」
「あぁ……。弔いたくても、その最中に襲われるかもしれねぇっつんで、野辺送りもできゃしねぇ。あのままほったらかしで申し訳ねぇんだけど、けどあんたらが何かしてくれるのかよ?」
時代問わず宗派問わず弔うことならそれこそ俺の専門分野だ。
だが今はそれどころじゃねぇな。
「あとはタイミングだな。細工に時間がかかるから二日は欲しいか。それと今よりも被害に遭う田畑が増えるかもしれねぇが」
「たいみんぐ? なんだいそりゃ? ていうか、あんたら、何をしようってんだい?」
あぁ、まだそれを言ってなかったか。
「そりゃもちろん、この人達の仇討ちさ」
「「え?!」」
そりゃ驚くよなぁ。
「わ、ワシらのか?」
「バカ言うでねぇ! 殺されちまうよ!」
「死なねぇよ。なな神様からの遣いだからな。それに仇討するところを見てもらわなきゃ困るし、あんたらの姿は野盗から見られる心配はないだろ? 下から見上げても見つけられない所から見ることは出来るだろうし」
いきなり仇討をしてあげるって言われて、お願いしますなんて反応が出来る方が稀だろうよ。
ましてやそっちからすればただの赤の他人だ。
「それにしても『なな神様』って……」
「俺のお父とお母なば、確かに『なな神様』みでぇなこと言ってだことあったっけな。けどどぃんた神様かは全然知らねぇ」
「しずは名前は知ってだのが……。でも外さ出るのは危ねぇぞ? どごで野盗に襲われるがわがんねぇがらな」
なな神様についてのフォローの必要はある。だが今は放置しておこうか。
「……ま、なな神様については今はいいや。ただ、しずの願いを聞き届けてくれた唯一の神様ってことさえ覚えておいてくれりゃいい。それと殿さんからの声も聞こえてきたことだしな」
伏線仕組むことくらいなら問題ないか。
俺の先祖たちは昔からここらの集落の住民の可能性がとても高い。
殿さんに楯突かせることだけは避けたいしな。
「ちょ、ちょっと南、大丈夫なの?」
「しっ。今は俺に合わせとけ」
ここでななが声を出したの、初めてじゃねぇのか?
今の時点でしゃしゃり出られても、場が混乱するだけだからしょうがない。
今回は少し大人しくしてもらった方がやりやすい。
「んだ。お父とお母、ほがの人だぢもいってた『はくとう』、だれがなんとかしてけれって」
しずは、俺達が洞窟にきてからずっと俺にまとわりついているが、俺らの会話は難しすぎてるようで全く関心がなさそうだったが、俺がしずのことを触れてそれに反応したんだな。
少しは役に立ってるアピールってところか。
「しず……。誰も何とも出来ねぇんだよ。やっつけようどしたみんなも死んじまって……」
「でもかみさま、こうしてきてけだんだよ? なんとかしてもらえるんだよ?」
子供一人がそんな風に言い張ったって、そんな感情ひっくり返すのは難しいんだがな。
けど、ただ見るだけならみんながやれることだ。
見てどう思うかは勝手だがな。
そう。
勝手なのだ。
勝手に動いて困ることもあるが、動いてもらわなきゃ困ることもある。
「さっきも言ったが、あの神社から見下ろすことは出来るが、下の方から神社見たって、みんながいるってことまでは分からねぇだろ? 殿様だってあんたたちのことは気にかけてた。だが泣いて謝ってたぜ? ま、そんな殿さんを勘弁してやるかどうかは、俺が奴らをどうにかしてやってから決めりゃいい。まぁ殿さんよりも今は野盗が問題だよな?」
「何日かおきに襲ってくるんだが、あと三日くらいしたら来るんじゃねぇかな……」
念を押したら、あと二日は襲ってくることはないようだ。
強奪した食料が尽きてから襲いに来るらしい。
しばらくは大人しくしているだろうから、その間は俺達は自由に動けるはず。
あとは、この集落の生き残り全員が俺らのすることを見てくれるかどうかだ。
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