この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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第二章 二件目 野盗を討て!

作戦立案、そして作戦開始

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 底なし沼って知ってるか?
 まぁ一度ハマったら抜け出せない世界のことを指す言葉なんだが、俺の質問は本物の沼のことなんだ。
 そこに入ると抜け出せないってのは同じなんだが、なぜ沈むのか?
 答えは簡単。
 高い壁に囲まれている谷間があるとする。
 そこに飛び降りるようなもんだからだ。
 人間は飛べないから谷底に落ちるだけ。
 その谷間に水があれば、そこは池だったり湖だったりするわけだ。
 大抵の人間は水に浮く。
 人間の体と水の密度の関係によるらしいんだな。
 だが普通の水じゃなく不純物がたくさん混じっている液体が、水よりも密度が低い場合、どんな人間もその中に沈む。
 液体がもし空気だったらどうなる?
 谷底に飛び込むってことだよな。でも空気じゃなく液体だから沈んでいくってわけだ。

 けどその液体は飛び込んだ物の落下速度を抑える効果を持っている。
 一度入った物の一部をその水面から出そうとするにも、引っ張り上げる力がかなり必要になる。
 上に行こうとする力も抑え込む効果も持つからな。

 底なし沼という地形を、俺なりに分析してみた。
 分析し終わったらあとは簡単だった。

 しずの両親との話し合いが終わった後、俺はまずそれを作る作業を始めた。
 と言っても、でかい沼を作るのは無理。
 せいぜい直径三十センチ。一つにつき、でかい靴のサイズ位の範囲だ。
 だがどこまでも深く作れるらしい。
 作るっていう言い方は正しくはないな。その範囲内で地形を変えるというのが正しい言い方だ。

 沼というには極端に狭い範囲。しかし深い。
 そこに白討共を嵌めようってこと。
 沼だと一網打尽だろうが、おそらくそんなにうまくはいかない。
 集団の後方にいる奴らには、先頭の異変に気付けばそこを回避されるだろうし、そんな狭い範囲だからこそいいんだよ。ベストなんだよ。

 奴らのねぐらは、高台にある神社から西の方向。二キロメートルくらい先に川がある。
 県内で二番目くらいの長い川。だが上流のほうだからそんなに広くもないし深くもない。
 その川を越えた丘だそうだ。
 しずの両親達が隠れ住んでいる洞穴と似たような場所がある。
 そこからこっちに、いろんな物を略奪に来ているということらしい。

 日照りが続いているこの辺り。その田んぼも土が固まりつつある。
 荒らされた田んぼを突っ切ってこっちの方にやってくる。
 荒らされた田畑の地面は見えやすい。
 目立つ細工は、まだ荒らされていない田畑に仕掛ける。
 もちろん米の収穫は見込まれないが、持ち主たちからは許可を得ることが出来た。
 今は収穫よりも野盗『白討』を何とかしてほしいという切なる願いを、絶望しながらもまだ持ってた。

 俺にとってはそれが救いだった。

 奴らがどこを目掛けて進むのか。
 ピンポイントでは予想不可だが、まだ荒らされていない田畑を目指している。
 厳密に言うと、目安だな。
 その田畑の中に点在する農家に収穫物が大量にあるんだから。
 一度の襲撃ですべてを持ち去るほどの運搬能力はないし彼らにはそれらを保存する知恵もない。
 だから保存期間中に消費できる分だけ強奪するというわけだ。
 そんな悪知恵は働くんだな。

 まぁそういうことで、連中が連日襲撃に出ることは有り得ない。
 その猶予の期間のうちに、その目安がつく区域に十分な仕掛けを施すことが出来たというわけだ。

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

「いくら見通しがいいっつっても、五キロ以上離れている距離で人一人、乱れてない田んぼの中で細工している俺の姿なんか見えるはずもないしな」

「南がどんなことしてたのか私にも教えてくれないし、荒れ地でも何やらやってたじゃない。こっちは相当心配してたんだよ? 南の身に危険が及びそうだったら、多少強引でも南の世界に戻すつもりだったから目離せなかったわよ」

 それでもななは『白討』の人数だの何だのの情報をより正確につかむため、鏡と俺の周囲の両方を観察し続けてくれたんだから、まぁ感謝だよな。

「別にお前にこの件には関わってほしくないわけじゃねぇよ。お前の姿を見ることが出来ない人間がお前んちの前に迷い込んだってのを知ってから、今回のお前の力は不確定要素高そうだなって思ってたしな」

「まぁそれは私も実感してるけどね。ついでに言うと術もちょっと扱いづらい。発動出来たりできなかったり不安定だったりするし」

 何となく予想はついてた。
 龍退治の時は、ななの姿の像があったし教会もあった。
 ここじゃ神社はあるがななをご神体にしたものではない。
 そしてななを祀る神社は、しずの両親の反応を見れば、おそらくはないと思う。
 そうなると、直接『白討』と相対する現場にいてもほぼ無力。
 ならば面識があるしずと共にいた方が、いくらかは何かの役には立つ。
 というか、いてもらった方が助かる。
 なぜなら。

「術は使えなくても俺の力は使える。地形変化は問題なく完了させたし、折り紙のカメラで大きめのデジカメ再現できたし。デジカメはやっとく」

 双眼鏡の代わりだ。俺との意思疎通は無理だろうが、住民達に状況を見せることが出来る。
 と言うか、見せる必要がある。

 そして予め折り紙を作っておく。
 当日その時間に作り始めて間に合うかどうか不安だからな。
 鶴と奴さん、袴、紙鉄砲。
 そして犬……と言うか、テリアか。

「二十三人いたよ? それで何とかなるの?」

「あぁ。何度もシミュレーション繰り返したからな。実際はどうなるか分からねぇ。けどこれで十分だろっていう楽観はしてねぇよ」

 当たり前だ。
 失敗は許されないんだからな。

「それに集落の人達のそばにいてもらった方が、ある意味やりやすい。総括的にな」

「総括的?」

 そう。
 これはただの討伐作戦だけの話じゃないんだからな。

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 作戦当日を迎える。
 俺があちらこちらに細工をしている姿を集落民の何人かが見ていたらしい。
 そしてななからの説明としずの懇願で、生き残り全員が愛宕神社の境内に集合した。
 俺が指示した通り、農機具やら金属製の刃物やらも持ち寄っているはずだ。

 俺はというと、その愛宕神社の石段を下り切ったところから三メートルくらい西に進んだところに陣取った。
 住民達がみんな俺の方を見ることが出来るなら、合図として石を上からいくつか放り投げてもらうことにしている。
 それくらい離れていても、上から落ちてくる石には気付く。

 そして、その報せの石が上から落ちてきた。
 小さなななの姿も上の方にいるのが見えた。

 まずは初手。
 紙鉄砲を辺りに放り投げる。

 飛び道具に変化すると思うだろ?
 変化しないんだなこれが。
 変化しないから、いろんな可能性を持たせる便利な道具になるってわけだ。

 さぁ、ここから、住民達の代理として反撃開始だぜ?
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