この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

文字の大きさ
28 / 44
第二章 二件目 野盗を討て!

襲撃と逆襲

しおりを挟む
 一方的に蹂躙されていた集落が、俺と言う対抗手段を得てその現場は戦場に昇格した。

 戦場。
 真っ先に連想されるのはおそらく、戦死者、だろう。
 つまり敵に死を与えるという奴だ。
 だが俺はそこまでするつもりはない。
 かと言って許す気もない。
 ただ、面白おかしく暴れ放題の連中に一矢を報いる。それだけのつもりだ。
 彼らの顛末は……。
 まぁそれについては、今はいい。放置だ。

 まずは初手。紙鉄砲。
 白討(はくとう)と呼ばれている野盗のねぐらからは、愛宕神社の境内に集まっている集落民達は見えない。その逆も当てはまる。
 だが、集落民達は俺が何をするかは見えているはずだ。
 その報せは、ななが高台から落とした数々の石で分かった。

 それを十分に理解した上でそれを振り上げる。
 そして力いっぱい振り下ろす。

 スパアアアアアン!
 と大きな音が鳴る。
 しかし俺が望んだ効果は音じゃない。
 その一瞬のタイミングで、紙鉄砲から大量の水の塊が吐き出された。
 水鉄砲なんて可愛いもんじゃない。言うなれば水大砲か。
 学校のプールの半分くらいの水量。それが吐き出される反動はなかった。
 振り下ろす際の重量も感じられなかった。
 そんな大量の水の行き先は、何と五キロ以上俺の正面、西方向に真っすぐに飛んでいく。
 折り紙に対する俺の異能の効果だ。

 その先にあるのは白討のねぐら。
 その洞窟にそんな水量が一気に流れ込む。ただで済むはずはない。
 溺れ死ぬということはないだろう。俺もそんなことを期待していない。

 またも後ろから石がいくつか落ちてくる。
 これもななからの報せだ。

 ※※※※※ ※※※※※

「ねぐらから白討全員が出てきてから投石で俺に報せろ」

「全員?」

「あぁ。全員だ。おそらくは……」

 ※※※※※ ※※※※※

 そう。
 おそらくは全員武装するだろう。
 その中で、いくら文明人の俺でも恐れる物はある。
 それは飛び道具。
 スーパーマンじゃあるまいし、火縄銃だろうが何だろうが、弾丸を受けて平気なわけがない。
 ならば。

「もういっぱあああつ!」

 スパアアアアアアン!

 洞窟から全員が外に出ているはず。
 ならば水量は学校のプールくらいがいい。
 放水でダメージを与えるなら、水流の勢いが強いホースがいいだろう。
 だがその場合、どこから出し続けるかってことが問題になる。
 何もない所から水を出す能力を持っている折り紙だ。
 延々と放水が続くとなると、いかに理不尽な現象が許される力であっても、のちにどんな影響があるか分からない。
 それに、吐き出されるのが水の塊ってところがミソだ。
 到着するころにはいくらか分散されるだろうが、その水圧でダメージを与えるその矛先は……。

 ※※※※※ ※※※※※

「銃は五丁。間違いないんだな? これ、カウント間違えると致命傷になるぞ?」

「何度も確認した。五つだった。でもそれがどうしたの?」

「うん、そいつをな……」

 ※※※※※ ※※※※※

 使い物にならない得物は捨て置くに決まってる。
 日本刀はそう簡単にはダメージは負わないはずだ。
 鉄を叩いて鍛えながら鋭利な刃を入れていくんだからな。

 じゃあ銃身はどうなんだ? いちいち鉄の部分を叩いて鍛えるか否か。
 そして筒になっている。空洞がある。そこに弱点がある。
 とてつもない水圧が一瞬でかかり、無事で済むはずがない。
 無事だったとしても水がかかる。果たして使い物になるかどうか。

 つまり、使い物になるかどうか分からないものを手にするより、日本刀などの刃物を手にした方が効率はいいはず。
 そしてその五丁の鉄砲を連中が手放したら報せるようにななに伝えていた。
 その報せの投石が、俺の後ろで音を立てた。

 そんな遠くでの出来事がなぜ分かる?
 分かるさ。
 そのための、折り紙のカメラを変化させて画面が大きめのデジカメにしてななに渡したんだからな。

 さて、二手目だ。
 テリアの折り紙を地面に放り投げる。
 何に変化させたかというと、秋田犬だ。体高は七十センチを超えている。

「こないだみたいにスライムなんか出したら、それこそ元も子もないからな」

 元も子もない。
 この場で解決できるだろうが、事後処理がヤバい。
 いや、紙から大量の水が出るのを見られること自体ヤバいかもしれないが、被害は住民達に及ばない分何とかなるはずだ。

 そして三手目は折り鶴。
 それをカラスに変化させる。
 カラスってのは、神話の時代にも出てくる。
 日本では八咫烏なんて存在もある。
 そして次に活動させるのは二手目ではなく三手目。

「奴らをしっかりからかって、誘導してこい」

 羽のある存在は、その羽を利用して飛行することは出来る。
 羽があるすべての存在は飛行できるとは限らないが。
 だが、羽のない存在が飛行できない。飛行できる特殊能力を持っている前提以外は。

 同様に、いくら希望しても出来ない能力もある。
 折り紙から出来た秋田犬やカラスは、俺と会話が出来ない。
 だが俺の意思を理解することは、この世界の範疇だ。

 そしてこのカラスへの命令は、連中を攻撃させることではない。そもそも一羽だけで攻撃させて何の効果があるか。
 いきなり住処を水浸しにされ、攻撃の切り札である飛び道具を使用不可能にされる。
 さらにカラスにからかわれ、手が届きそうで届かない周りを飛び回られたら、そりゃ八つ当たりもしたくなるだろう。
 しかも大量の水が飛んできた方角と、カラスが逃げる方向が同じ。その先にあるのは荒らされてない田畑に囲まれた数ある民家。近いうちに襲撃先となる地点でもあるなら、彼らの行動は目に見えている。
 それは、その集団が固まったまま動くことをせず我先に、と感情に任せてこっちに来ることになる。

 その集団の先頭を進むのは五頭の馬に乗った野盗。
 馬だけが先に来るかと思いきや、いくらかは冷静のようで、走ってくる野盗に合わせて移動するが、その先頭グループにだけ付き添うかたち。
 それは俺にとって、そして集落民達にとってラッキーなことだ。
 馬は集落民達の食料になるんじゃねぇか?
 まずは彼らの行動不能になってもらおう。

 馬に乗る五人。その周りには八人の野盗。
 俺の仕掛けの範囲に馬すべてが足を踏み入れる。
 日照りが続いて田んぼの地面が固くなり、馬とて走りやすくなっている。

 ところがどっこい。
 いくら狭い範囲っつっても、サラブレッドよりも太い脚だったとしても、その足が嵌るくらいの範囲はあるんだぜ?
 俺は予め所々に深く、とても深く氷を張らせていた。

 大事なことだから二回言おう。
 日照りが続いてて地面が固い田んぼだ。稲穂の背は高い。地面の異変に気付くはずがない。
 作った氷なんて溶けるに決まっている。
 その結果出来上がるのは、小さな底なし沼ってわけだ。
 馬すべてがバランスを崩す。
 サラブレッドだって五百キロくらいはある。
 そばにいる野盗全員、その巻き沿いを食らい下敷きになる。
 死んではいないが動けない。
 馬すべてが足一本、あるいは二本、底なし沼にどっぷり漬かってるんだから、自ら、あるいは人の手を借りようとしても立てるわけがない。
 ひょっとしたら骨折しているかもな。
 たって沼の縁は日照りの土で角になっている。
 乗っている野盗も打ちどころが悪けりゃ立てないままだ。
 まぁ落下した先にある沼にハマって抜け出せない野盗もいるが。
 格好がY字バランスになってて身動きとれづらそうだ。
 武器も刀みたいな細いものだとその沼に落としたら拾い上げることも無理。
 動けそうな奴もいないこともないが、周りの様子を見たらそりゃ警戒するわな。少しでも足の位置をずらしたら、見えない沼にハマるかもしれない地面は恐怖以外の何物でも無かろうよ。

 だが、俺の仕掛けたエリアはそこからじゃないんだな。
 そこが一番、俺らから見たら手前のエリアなんだよ。
 そして白討全員、すでにトラップのエリアに突入してんだよな。
 そのエリアにカラスが誘導したというわけだ。

 その後方にいる、自分の足で走ってきている連中には、だ。

「雪国ならではの、滑りやすい道じゃ滑りづらい歩き方があるんだよ。だがいくら雪国っつっても、今の季節じゃそんな歩き方、走り方をする奴はいない。そんな中で突然滑りやすい地面が出たらどうなるかなっと」

 踏み荒らされてでこぼこの田んぼの中を進む残りの『白討』の足元を、やはり狭い範囲でアイスバーンに変えてやった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...