この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

文字の大きさ
29 / 44
第二章 二件目 野盗を討て!

集落襲撃騒動、終焉へ

しおりを挟む
 滑りやすい雪道の歩き方は、かかとやつま先など、足の先端から着地すると滑りやすい。
 なるべく地面と足の裏が平行になるようにしたまま着地する。
 その後着地した足に重心をかけ、後ろ足を後方に蹴り飛ばさないようにせず、なるべく垂直に地面から足の裏を離す。

 俺はそんな歩き方をする。
 もちろんそれは、あくまでも、雪道での歩き方だ。
 雪が一つもないこの時期にそんな歩き方をするのは、ただ単に労力を失うばかり。
 ところが普通の歩き方で地面に足をつけた直後、そこだけが滑りやすい場所だったらどうなるか。
 尻もちをつく、腰を痛める、支えた腕がねじれる。
 そんなことで体を痛めること間違いない。

 だがそれは普通に歩いている場合だ。そして普通に歩いている場合なら、その程度の怪我ですむ。
 そう、普通に歩いていれば、だ。

 だが白討の残りの十人は、住処を水浸しにされ、飛び道具は全滅。おまけにカラスにからかわれ、馬と乗っていた仲間とその近くにいた仲間が行動不能。
 どんな心境かは手に取るように分かる。
 怒髪天を衝く、とまではいかなくても、自分らより戦闘能力が劣る者達に馬鹿にされた気分になるだろうよ。
 手にしている物はメインの武器、日本刀。
 腕力がある奴は片手に日本刀、片手に短刀と、両手で武器を持つ者もいる。
 転んで武器を手放す奴らは幸運だろう。手放せなかった者のうちの何人かは、四肢に刃を立てることになる。
 事実、二人ほど腕に刀が突き刺さっている。遠目で分からないが、一人立てないままの奴がいる。
 落とした刃物の上に体の一部が乗っかって、それが体を傷つけたようだ。
 いずれも田んぼの中の仕掛けにかかった者達。

 最短距離でこっちに向かおうとしたんだろうな。
 それじゃ被害が広がると判断したんだろう。広めの田んぼのあぜ道を伝ってこちらに向かってくる。
 望遠鏡がなくても分かる。顔や出で立ちまでは分からないが、向かってくる者は七人。

 あぜ道には罠がないと思ってんだろうな。
 カラスも相変わらずまとわりつき、あぜ道を行くように誘導していることもあるが。

 ところがどっこい。そのあぜ道では最初の折り紙、体高約七十センチ、体重約七十キロ弱の秋田犬の、時速約三十キロの突進が待ち構えている。
 陸上選手が大会に出るような恰好なら、ひょっとしたら逃げ切れることもあるかもしれない。
 が、白討が身につけている着物はボロボロの和物。両足はもちろんシューズじゃない。
 装備だって碌なもんじゃない。
 でなきゃ落ち武者の成れの果てのような真似をしているはずがない。

 しかも突進して終わりじゃない。吹っ飛ばしてさらに駆ける。そして次の標的に向かう。
 噛みつかせはしない。そこで足が止まったら、逆に襲われてしまうかもしれないからだ。窮鼠猫を噛むってやつだな。
 三分の一以下の人数になってしまった残りの連中に、統率の取れた行動も取れるはずもない。
 助けても普通に動けるかどうか分からない仲間を助けようとする者もいない。

 もはや白討は戦意喪失。
 しかし犬は、敵が完全無力化するまでその行動は止まらない。

 そして俺の計画通り、後ろから鬨の声が聞こえてきた。
 そう。

 そうでなくては困るんだ。
 俺の目的は、白討討伐じゃないんだから。

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 私は南から「住民達に俺の行動をよく見せてやってくれ」と言われて、デジカメを渡された。
 それが何を意味するのかは、その時は全く分からなかった。

 しずちゃんの両親が集落民の全員を集め、既に私がいた高台の愛宕神社の境内にやってきた。

「南……『なな神様』の遣いであり、私の主の彼があそこにいるのが見えますか?」

 なな神様って、要は自分のことなんだけど、自分でそんなことを言うのは意外と恥ずかしいものね。

「何をしようとしてらのがも、何してるのがも分がんねぇけんど、あそごさいるのは分がるど」

 誰かの声にみんなが頷く。
 打ち合わせ通り、大きめの石をいくつか拾って南に向かって投げ飛ばす。
 勿論直接届くはずはない。けど、南はそれに気付いてくれた。

 いつの日だっただろう。
 ずいぶん昔の話になるような、でも私がいろんな世界を見るようになってからはついこないだのような気もする。
 折り方を教えてあげた紙鉄砲。それを南が一回、そして二回と振り回し、その度に大量の水の塊が、遠くに飛ばされていく。

「な、なんじゃありゃあ!!」

「あんなに水を飛ばすなんて……やはり神様の遣いか?!」

「ただの神様じゃなくて、『なな神様』です。そこんところ、お間違えの無いようにっ」

 自分のことを宣伝するような感じで、なんか落ち着かない。
 いや、今はそれどころじゃない。
 確認しなければならない。
 いくら南がこの時代にとっては未来の文明人でも、飛び道具は避けられないし、刀で切られればケガもする。

 デジカメの画面表示を拡大する。
 方向は『白討』のねぐら。
 彼らの何人かは、忌々しそうに、そしてくやしそうに鉄の筒を地面に投げつけている。
 そして馬に乗る者とそれ以外は何やら別の武器を持ってこっちに向かってくる。
 彼らの手にしている物の中に、鉄の筒はない。

「これも知らせるんだったわね」

 さっきと同じように石を投げ飛ばす。
 南への報せの役目はこれでお終い。
 あとはここにいる皆に、この映像を見せるだけ。

「馬がやってくる」

「まぁ当然だな。ワシらの貯えがまた減ってしまうのぉ……」

 そんなことを言いながらも残念そうな顔もしない。
 取られるのが当然という諦めの顔。
 こんな彼らにこれを見せて、南は何かを変えるというのだろうか。

「ん?」

「お? 馬たちが……」

 私には、肉眼でも見える。
 馬はもう動けない。苦痛でもがいてるのがここからでも分かる。
 そしてその周りにいる野盗達も動けないことも。

「何か、穴にはまったみてぇだな」

「出ようとしても出らんねぇみてぇだ」

「穴の中に刀落としたみてぇだな」

 野盗の前方にいる者達は全員行動不能なのは分かった。
 デジカメの機能には流石にみんなは驚いたが、そこから見える現実には静かに成り行きを見守っていた。
 静か、と言うのは正しい表現かな。
 南が言う通り、無気力のままただ見ているだけ。時折感想が出てくる程度。

 けど、次々と荒れ地の上で転んで立てない野盗を見たせいか、何となく熱気が高まる感じがした。

「なんでここまで、ワシらの味方をしてくれるんだ?」

「『なな神様』なんて、その名前を知ってるモンも少なくなってきたというのに……」

 しずちゃんの願いはかすかにしか聞こえなかった。
 他の所のいろんな願いの声の方が大きかった。
 雑多な願いの中の一つだった。
 本当は、聞き逃すのが当たり前の声だった。

 それが、何の縁か、しずちゃんが私の家の前に迷い込んだ。
 なのに私の姿を見ることは出来なかった。

 人との縁は、たくさんの世界を創った私ですらままならないのに。
 申し訳ないと思う。
 いくら過去の世界の人達の願いとは言え、歴史を干渉するわけにはいかない事情があるとは言え、大人達の力になりたいという健気な思いも潰えてしまいそうなときに。

 人との縁は、本当にままならない。
 南との出会いがしずちゃんよりあとだったら、どうなっていたか分からない。
 勿論歴史が変わることはない。変わらないように、自然に改ざんされていっただろう。

 はくとうをやっつけてください。
 おとなをかなしませる、やとうをやっつけてください。

 私利私欲の願いは聞き届けるつもりはない。
 しかししずちゃんの願いは、同じような声が多ければそれを叶える労力は惜しまない、多くの者が多くの者のために思う願い。
 けれども私のことを知る者がほとんどいないこの世界のこの時代。

 けれども、しずちゃんの願いは叶えられた。
 しかしそれは私の力によってではなかった。
 南の行動によってでもなかった。
 私がしたことは、南の言う通りのことをしただけ。

「俺の行動をみんなに見せてほしい」

「奴らが動かなくなるまで、集落のみんなをそこから動かすな」

 そして今眼下では、大型の犬が野盗の何人かを次々と突進で弾き飛ばしている。

 私の力は使うことが出来なかった。
 それでもしずちゃんの願いは叶えられた。

 だって、今まで無気力の大人達が……。

「こことは関係ねぇあの若モンが、あぁまでして俺達のことを守ってくれたんだ」

「このあともずっとここに住む俺らが……このまんまでいいはずがねェ!」

「死んでしまった若い衆らに、残った俺らはこの後のこと、任せられたんだ。怖がってばかりでいられねェ!」

 南は、折り紙からいろんなものを作り出し、彼の力で地形を変えた。
 けど途方もない魔術を使ったわけじゃない。

 野盗達は大量の水に驚いてこっちにきた。
 けどその力を使ったのは、タイミングを合わせるため。
 野盗の襲撃のタイミングに合わせれば、ここの人達だけでもできること。
 田んぼに沼地を作るのも、力作業をみんなでやればできること。
 荒れ地で野盗の足をとられたことも、落とし穴とか作れば同じ効果を出せること。

 カラスだって、賢い動物の一つ。けどこちらもさらに知恵を回せば、野盗がそれに気を取られるようなこともできるだろう。
 これがドラゴンだののモンスターだったら、彼らは無気力のまま、南の様子を見続けていたに違いない。
 そして大型犬をけしかけることも、懐かせた飼い犬に言うことを聞かせられれば出来なくはない。

 そう。
 その気になったらこの時代の人間であっても、南のようなことが出来るのだ。
 技術が未発達の時代。
 日々生きるために、そして毎日を普通に暮らすにも、みんなが何かと戦い続けなければならなかった時代。
 南の時代では取るに足らない困難であっても、みんなが力を合わせて全力でそれを乗り越えなければならない時代。

 しかし力を合わせても乗り越えられそうにない障害が、彼らの前に現れた。
 それをこうして、南一人で何とかしようとし、何とかなりそうな状況にまで収束しつつある。

 私は彼らを現金とは思わない。
 私が願う世界の在り方、そしてその世界に住む者としての在り方に、彼らは再び沿おうとしている。
 勿論彼らにとっての神の立場の私の気持ちは、誰一人として知ろうとはしていないけれど。

 子供の成長を見守る親の気持ち。
 そう言うと分かってもらえるだろうか。

「俺らの田んぼは、俺らが守るんだ!」

 誰かの声の中の感情がみんなに伝播する。

 おそらく南はこのことも、そしてこの後も見通していたんだ。
 南に指示されて、愛宕神社に避難する際に農具や刃物を持ち寄っていた。
 それらを手に取り、気勢を上げながら神社から駆け出す男衆。彼らを頼もしげに見送る女性達。

 私の姿を見ることが出来なかった少女の願いは、彼女を取り巻く大人達によって叶えられていった。

 私は一人、遠くに見える南に届かない声で労った。

「お疲れ、南」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...