この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

文字の大きさ
30 / 44
第二章 二件目 野盗を討て!

戦の後

しおりを挟む
 夫婦喧嘩は犬も食わない。
 そんな言葉聞いたことあるだろ?
 夫婦ばかりじゃねぇ。
 親子喧嘩、兄弟喧嘩と言い換えることもあるらしい。
 いずれにせよ、内輪のトラブルに外部の者が首突っ込んで、話をややこしくすんなって話。
 あるいは、当事者同士でけりをつけられるなら周りが騒ぐべきじゃないってこと。

 石段から転げ落ちるような勢いで駆け下りて、動けなくなった野盗『白討』目掛けて俺の目の前から走り去っていった。
 そっから先、現場では俺の出番はない。
 無駄に命を云々なんて言う気はねぇよ。
 ここに住む者がここに対してどう思うかってことだ。
 野盗に襲われたから、もっと安全なところに逃げるもよし。虐げられてもなおこの土地にしがみつくもよし。
 そして、この土地を見捨てるもよし。

 健康を維持し命を長らえる生き方はいくらでもあるし、正解不正解は存在しない。
 けど彼らは、ここに固執し、ここで生きることを選んだ。

 ならば選ばせた者として、もう一仕事しなければならない。
 もっとも彼らが自分でそのための知恵を働かせてくれたら、その仕事は単なる出しゃばりになるからしなくて済むのだが。

 そんなことを考えながら、彼らが下りてきた石段を上がる。
 最上段にはななが俺に労わりの言葉をかけてくれた。

「……南、お疲れ」

「……おう。ななも、お疲れ」

 なにも事情を知らない者が今の田んぼでの現状を見れば、無抵抗の者を住民達が一方的に虐殺を行っているようにしか見えないだろう。
 仲間の仇討ちの気持ちが強いと思う。
 だが、丹精込めて作った作物とフィールドを荒らされた、生産者の誇りを傷つけられたことへの怒りもあるのかもしれない。

 本当は本職の僧侶として、彼らに何か声をかけなければならないかもしれない。
 しかし野盗達も自業自得だろう。
 もしそんな俺に出番があるとしたら、住民達の気持ちが収まりその野盗の中に一人でも生き残りがいた場合くらい。
 だが出番があるからと言って、自分に出るつもりがあるかどうかはまた別の話。
 俺はこの時代の人間ではなく、この時代の物の考え方に基づいて生活しているわけじゃない。
 僧侶であることも明かしているわけでもないしな。

「南。デジカメはもういいよね?」

「あ、ああ。そうだな。奴さんと袴は出番なしだったな。まぁ用心のためだったからいいが」

 カラスを呼び戻す。
 秋田犬は……。

「あ、みんな戻って来るみたい」

 そのみんなの中に、折り紙から変化させた秋田犬がいる。
 まるでみんなのアイドル扱いだ。

「……あの人達、今朝と雰囲気がかなり違ってるね」

 俺にはよく分からん。
 こっからじゃどんな顔してるかも分からないくらい遠いしな。

「まぁ石段下りてきた連中、怒りっつーか、やる気っつーか、そんな思いが充満してるような顔だったからなー。ま、いい傾向じゃねぇの? 今後どう生きようとしてるかは分かんねぇけど、人として生きるのならあんなんでさ」

 人生は苦の連続である。

 仏教の基本的な人生の捉え方だ。
 それでも人生を歩んでいく。
 ならばいやいやながら毎日を過ごすより、前向きに毎日を過ごす姿勢の方が傍から見てて好感が持てる。
 苦しみの中から希望を見出そうとする努力がそこにあるからな。

 そしてあいつらは、それぞれの家に戻らずこっちにくる。
 どうやら俺は、余計な一仕事をしなきゃならないようだ。
 ま、アフターケアは必要ってことだな、うん。

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 愛宕神社の社の入り口を背にする俺となな。
 その前に、集落民全員が俺らの前に並んでいる。

「どこの誰かは分からんが、おかげさんで俺らは俺らの場所を取り戻すことが出来ました」

「ありがとうございました」

 しずたちが住む洞窟で、初めて彼らの顔を見た時と今の顔、全然違う。
 恐縮というか、すまなそうな顔をこっちに向けるが、目の輝きがそこにある。
 あの時はそれすらもなかった。

「どこの誰か分からねぇって、言ったじゃねぇか。『なな神様』の遣いだってよ」

 そう言えばそうだった。
 そんな言葉があちこちから聞こえてくる。

「……だども、また同じようなことがあったら……。今はここの建て直しをしなきゃなんねぇ。その間に……」

「白討どもは俺らがぶっ殺した。けんど、あんたらの力がなきゃ何も出来ねぇままだった」

 分かってんじゃねぇか。
 己のことを知るってのは大事なことだと思うぜ?
 これならアフターケアもしやすいってもんだ。

「あぁ、そうだな。俺らがお前らのためにいろいろと手を貸してやったから出来たことだ。今までは他の神様や殿様、誰からも助けがこなかっただろ? なぜか分かるか?」

 俺からの問いには誰も答えられない。
 俺が何を言いたいか分からないからということもあるだろうな。

「その答えはな、お前らが俺らを頼りにする気がなかったから。ただそれだけ。そこにいるしずが神隠しにあって、そこにたまたま俺らが居合わせた。そしてなな神様を見ることが出来ないしずの願いがたまたま俺らの耳に入った。袖がすり合うどころか掠る程度の縁が、ここの今後の在り方を左右するくらいの影響を与えたってことだよな」

「それで、ワシらは今後もなな神様の助けを……」

 それだよ。
 それがなきゃ、ここはどうなるか分かんねぇもんな。

「その前にまず、俺の主はいろんな人の声を聞くことが出来る。期待に応えられるかどうかは別だがな。なんせいろんな願いが耳に入る。ここにいる人数よりもはるかに多い同じ願いを聞くこともある」

 皆が同じ思いを持ってななに願ったとしても、ここに集まった人数以上の同じ声ってのは、ここにいる奴らには想像は出来ないだろうな。
 切なる同じ思いを大勢の人が持つ。
 間違いなく天は聞き届けてくれると信じてやまない。
 国や県の議員選挙なんかいい例だ。
 選挙事務所で、当選を目指し気勢を上げる。
 それはいいだろうよ。だがそこで、落選するかもしれないと警告しようものなら爪はじきにされる。
 ところが世間は広いもんで、応援する人達以上に応援しない人や無関心の人の数の方が多い区は数多くある。
 選挙権所有者の半数以上の票を獲得する候補者がいる話なんて滅多に聞かない。

 おんなじことだ。
 異口同音で集落民全員が、この地域を守ってくれと頼んできても、それ以上に多い人数で他の地域から同じ声が聞こえてきたら、そっちの方に気が向きやすくなるのは当然だろう?
 そこでななに不満を持つのは筋違いってもんだ。
 それにななの居場所がないならなおさらだしな。

 となるとだ。

「だからやっぱり、まずは殿様にお願いするべきだ。俺らはしずからの願いを聞いてここに来たわけだが、殿さんやその家臣達からの願いは聞こえてきたらしい。それと反省の声もな」

 民衆がざわついている。
 自分らの懇願を聞き届けてくれず、苦しい思いをしても何の感情も湧かない主君と思っていたんだろうな。

 ま、嘘だけど。

「その殿さんは神様への祈祷か何かをきちんとしてたが、お前らはしず以外名前だけは知ってるってやつがせいぜい。名前も知らないってやつが多すぎ。それで殿さんは何もしてくれないと嘆き怒り、おまけに無気力ときたもんだ。そんな殿さんは我が主に手を合わせ続けてきたというのにな」

 彼らからは、俺達への称賛や殿さんへの批判の声も消え、ただしょげるのみしかできない。

 嘘も方便。いい感じだ。

「だが気にすんな。おまえらが主に手を合わせ、常に感謝すること。それで今回のことがあっても、すぐにみんなの期待に応えてくれるはずだ。聞こうとしなきゃ聞こえない声が、聞こうとしなくても聞こえる声になるだろうからな」

「じゃ、じゃあどのようにすりゃ……」

「そうだなぁ……」

 と、俺は考えるフリ。
 神社を建てりゃいいだけの話。
 だが場所は……。

 まぁいいか。後は野となれ山となれだ。

「あの現場のもう少し西、そしてそこから北の方に進んだところに、おそらく山から流れる水が湧き出る場所があるはずだ。その水はきれいで飲める水だと思う。それを捧げられるように、その湧き水を見つけてそこに神社を建てるといい。ご神体は……」

 ななを見る。
 ななは出番がないかと思っていたようで、「え? 私?」と驚く顔をこっちに向けてる。

「実は我が主は俺の助手、こいつに似てるんだ。細かいとこまで覚えてなくていい。こいつの姿の像でも造りゃいいさ。それと……」

 折り紙を変化させた秋田犬を呼び寄せた。
 こうしろああしろってことだけじゃ、これまで薄かった縁のなな神様が相手だ。すぐに忘れられるだろう。

「こいつをお前らに預ける。犬の寿命はお前らより短命だろうが、俺らがここにきてお前らの手助けをした。その証としてこいつを残していく。名前はお前らが付けろ」

 数少ない子供達は、喜んで犬の周りに集まってくる。
 敵には容赦しないが、可愛がってくれる相手には懐く、可愛くも頼もしい
「ななかみさまのつかいの犬だから、ななのつぎのはちがいい」

 はち、ねぇ。
 忠犬ハチ公じゃあるまいし。なんつー偶然かますんだよ、しず。ま、いいけどよ。

「……いいんじゃねぇか? もし殿さんと会うことがあったらはちに番(つがい)くれるようにお願いしてもバチ当たらねぇんじゃねぇか?」

 こいつらのなな、そしてこいつらと殿さん。
 相互関係を強くしてやりゃ、毎日得体のしれない不安に悩まされることはないだろうよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...