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第二章 二件目 野盗を討て!

生まれ出るその理由 芽生え始めるその手段

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「俺は……しずだったんだ」

「え?」

 俺が何言ってんのか、ななには分かんねぇだろうな。
 だが、そうなんだ。

「なな。お前は、俺だった」

「どうしたの? 急に」

 俺は別に悲しいとか寂しいとか、そんな感情は持ったことがなかった。ただ、いきなりななが俺のそばにやってきて、話しかけてくれた。
 俺は別に悲しいとか寂しいとか、そんな感情を持ったことがなかった。だが、突然見知らぬきれいなお姉ちゃんがいきなり話しかけてきて、それだけでも少しうれしかった。

 しずはどうだっただろうか。
 頼りになる大人がいない。
 何とかしてくれる大人がいない。
 それでも神様を信じてお参りを続けて、突然現れた俺に話しかけられ、募った思いを打ち明けられる相手が現れ、そして解決してほしい事件の現場に一緒に到着出来た。

 非力な自分でも役に立つことがあるかもしれない。
 まだまだ子供な自分でも、大人達を喜ばせることが出来るかもしれない。

 そんな期待もあるだろう。
 俺が感じたうれしさ、喜びとは比べ物にならないだろう。
 だがしかし。

「……南。しずちゃんへ、何とかしてあげたいという気持ちを強める理由にはなるけど、私達がそれに協力しなければならない理由が増えたわけじゃないんだよ?」

 しずが、そして俺の故郷の湯川市の古いこの時代が抱えている事件を解決する存在は、俺達でなければならない理由はない。俺達じゃなくても解決できる術はある。
 ななが持ってきた鏡が、途中の映像を映せなくなったことがそれを証明している。

 俺だってタイムパラドックスに巻き込まれたくはない。
 だが、しずの抱えている思いを引き受けることが出来る理由なら、ある。

「なな」

「何?」

「俺はおそらくここにいる者達の子孫の一人だろうよ」

「そうね」

「だが俺の今の立場はそうじゃねえよ」

 ななが俺の顔を見ている。
 視線を感じた俺は、鏡の方を見ている。
 もちろん、ドヤ顔でだ。

「今の俺はななの……なな神様の助手、だろ?」

 顔の方向はそのままに、俺も視線だけ動かしてななに合わせる。

「女神様だけでは及ばない部分を補える、重要な役割なんじゃねぇの? 俺」

「……南」

「何だよ?」

「自分から苦労を引き寄せるのって、バカなことだと思うの」

 だろうな。抱えなくていいトラブルは避けて通る方が賢いやり方だとは思うがね。

「わたしはこういう立場だから当然だけど、南はそこまで力を淹れなきゃいけない立場じゃないのよね。けど……南がいてくれて、ホントに助かる」

「……確かに俺と縁のある人間がいるかもしれねぇ。けど面識はねぇし紹介されても『あぁ、そうですか』で終わりのような気がする。ご先祖様のために頑張りますよって感じでもねぇし」

 そもそも苦楽を共にした間柄でもないし、同じ釜の飯を食った間柄でもねぇ。
 親近感を持てる対象には程遠い。
 生きてる時代とその環境が違い過ぎる。
 だがその距離感はちょうどいいんじゃねぇか?
 変に肩入れするほどの感情も湧かねぇし、かといって勝手にお前らでやってたらいいっていうような突き放す感情もねぇ。

 この件に対してどうするかっていう対応の方針は決まった。
 じゃあどう対処しようかって話になるな。
 親しい身内や仲間をたくさん殺された集落民達。
 盗賊も命を落としたとはいえ、彼らはその何倍も、何十倍も犠牲を払っている。

 敵討ちをしても、死んだ者は生き返らない。

 そんな綺麗事な説得は石の壁に注ぐ水みたいなもんだ。
 その中に沁みわたることなく、上っ面だけの言葉は聞く人の心の表面だけにしか流れていかない。

 本職である僧侶である俺が、遺された彼らに何をしてやれるか。
 そんな馬鹿馬鹿しいことを考えてる場合じゃない。
 身内の、仲間の、そして己の体からおびただしい血を流されたその苦しみをどうするか。
 そしてこの地域に残る者達は今後どんな気持ちでこの後の日々を過ごすべきか。

 まずは生きる力を持ってもらわなきゃ困る。
 あの洞窟の中の雰囲気は、これからゆっくり産みの中に沈む船に、覚悟を決めて居残るようなものだった。
 何もしなけりゃ、例え野盗がいなくてもこの集落は全滅するだろう。
 つまり何の努力も必要ない。何の覚悟が必要かっての。
 覚悟を決める方向が違う。
 持つ思いの中身が違う。
 頼る相手が違う。

 一度にすべての間違いを正す。
 そして
 踏みにじられた、第一次産業者としての誇りを取り戻し、新たな力を手に入れてもらう。

 そのプランは俺の頭の中に出来上がりつつある。

 何の映画だったかな。久々に思い出した。

『奪われた人権は、戦って奪い返せ』

 なぁに、人権を奪われたあいつらの戦う場所は、命の危険が全くない高い所。
 そんな彼らの戦い方は、そのための戦場での成り行きを最後まで見届けること。

 この時代から相当長い年月が経ったここは、俺の故郷だ。
 どこからかいきなりやってきた奴らの好きにさせてたまるかよ。
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