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第二章 二件目 野盗を討て!

過去の事件とパラドックス

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 生か死か。
 人の命が対象の戦なら、スケールを小さくすれば喧嘩両成敗なんてことも言えると思う。
 だがこの有様は。

 実は今、愛宕神社の社の中で、ななが持ち込んだ鏡を一緒に見てるところだ。
 ななが今まで見ていたのは、時間の早送りによって俺が住んでいる時代までの成り行きを見ていたらしい。だから野盗の行為を飛ばしていたが、さすがのななも顔を曇らせながら見ている。

 野盗がこの集落にやってきた当初は、確かに洞窟の中での証言通り、大勢だった。
 そして彼らの野蛮な行為は食料強奪だけだった。

「四十人はいるな。銃は二十くらいか?」

「馬もそれくらいいるみたいね……」

 作物の実りを見越していたんだろう。田畑に足を踏み入れることはなかった。
 集落民は実りの季節には奴らに渡す分はキープしていたようだった。
 だがそれが野盗達の居心地を良くしたようだ。
 その行動が年月が経つごとに、横暴さが目立ち始めていった。

「民たちは自分らの収穫の一部を分け与える感覚だった。だが野盗達は、民達が自分らに献上していると感じたんだろうな」

「奪い尽くしたら、ここから離れて他の所に行けばいい、か」

 数多くのいろんなものを生産する社会。
 その体を成す集落民。
 何も生み出さず、数多くの物を何のためらいもなく破壊するようになっていく集団。
 己の思うがままに暴れる野盗。

「ん? 急に映りが悪くなったぞ?」

「うん、しょっちゅうこうなることはあるよ。いろんな可能性が出てきたからね」

「いろんな可能性?」

「そ。あの盗賊をやっつける役目は私達とは限らないってこととか、私達がこの件から手を引くこととか。そんな未来も有り得るからはっきりとは見えなくなるの」

 鏡に映る画像は、テレビの砂嵐に変わる。
 俺がこうして生きている以上、ここにいる住民は次の世代に代替わりを成功させたってことだよな?
 となるとどう変えたかが問題になるってことか。

「私達が一旦出直す。その後私があの人たちの声が聞こえるようになって、私だけがここに来るとか、あるいはここの人達だけの力で乗り越えるとか……。この後の時代の人が出張って解決する義務はないわよ。もちろん見て見ぬ振りとも訳が違うしね」

 この後の時代の人ってのは、暗に俺のことを指しているのか?
 たしかにななの言う通り。
 ひょっとしたら、あいつらにとって未来の人間の俺が出る幕はないかもしれん。
 むしろ出たらいろんな意味で不味いことが起きるかもしれん。
 困ってる人を見捨てるような非情な人間ではありたくないが、これはまた別のケース。
 人間の歴史によって得た知恵や道具を持ち込めばあっさりと解決できるだろう。
 だがこの時代の人間にとってはオーバーパーツってやつだろうし、追い払ったり懲らしめたりして解決したとして、遺された集落民はそれで満足かどうかってことだ。
 もちろんそれは俺が考えることじゃない。彼らが受け止め、乗り越えていくべき案件で赤の他人が身代わりになっていい問題じゃない。

 鏡の中の画像を巻き戻しては観察する。
 ななはそれを繰り返し、俺はその様子を見ながら考える。

「……ひでぇな。何のためらいもなく腕とか足切り落として……。しかも笑いながらときた」

「誰も彼もどこかの世界に生まれ変わるとは言えないけど、生まれ変わった先が、互いに命を奪い合う世界ってのは創った覚えはないんだけどね……」

 創った者の思う通りに、その世界の時間が進むわけじゃない。
 来世はどんな人生にしたい? と聞かれ、死ぬ以上に苦しい思いをしたいと思う奴はいないだろう。
 楽しい、喜びが続く、楽が出来るのはおまけ程度で、そんな来世を望む者がほとんどではないだろうか?
 もしも転生した先がこんな世界なら、思ってたんと違うどころではない。

 青々とした稲穂に赤い血がかかる。
 豊作になりそうな田畑がどんどん荒らされていく。
 命あるあらゆる存在が、その命を荒らされていく。

 そして俺は未来の人間。
 本来ならば、こんな様子は文献でのみしか知ることが許されない存在だ。

 ひょっとして、しずと言葉を交わすことすら禁忌なことだったんじゃねぇのか?
 そしてしずはななの姿を見ることが出来なかった。声を聞くことが出来なかった。
 なながしずの願いを聞き届けるほど、二人の縁は強くなかった。
 ただそれだけのこと。
 そして俺が存在する以上、何らかの形で解決できた事実が歴史の中に存在している。
 俺が余計な口挟んだりする必要はないってことだ。
 たまたましずの話からその惨状を聞き、その繋がりでこの時代に転移し、被害者の様子を目にした。

 それだけのことだ。

 ただ、それだけのこと。

 未来の人間が手を出していいはずはない。

「なな……」

「ん?」

「やっぱり、この件は……」

「うん」

 ななの返事からは、短いせいか何の気持ちも伝わらない。

「俺は……」

 鏡には延々と、おびただしい集落民たちの血まみれの死体を映し出している。
 その映像は月日が経つにつれその様相も変わってくる。
 確かに野盗は数えきれないほど大勢いた。
 彼らもやられっぱなしではない。
 ななの家で目にした映像では、二十人より少し多い人数だった。
 死を覚悟しながら野盗を道連れに死んでいく集落民の若者達。
 その犠牲はあまりにも多すぎた。
 しかし野盗達の生き残りも、はっきり言えばだいぶ減っていた。

 武家、侍の力を借りずとも、刀狩りの目を盗んで貯えた武器や農機具を使ってこれだけ反撃に出ることが出来、成果を上げていたのだ。

 集落民達の力だけでも何とかできたんじゃねぇか。

 その映像を目にした俺はそんなことも感じた。
 そしてそう口にした後の俺は、少しの間、口を噤んだ。
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