この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

文字の大きさ
23 / 44
第二章 二件目 野盗を討て!

しず達の居場所

しおりを挟む
 しずの興奮が粗方収まり、落ち着いたところで詳しい話を聞いてみた。
 しずが住んでいる集落の人達は、農作業の時間以外はみなこの付近に集まって共同生活をしているという。
 自宅にいると白討の連中にやられてしまうから、いつも集まっていれば襲われにくいという知恵なんだろうな。

「それにしても、大分地形が違うな」

 関ヶ原の戦が終わり、江戸時代が始まる。
 西軍についた武将たちの処遇も決まり、常陸から当時は確か久保田藩と呼ばれていたここに左遷された戦国大名。
 町づくりのため寺院を移転させた記録がある。
 これはここだけに限った話じゃない。
 全国各地、あちらこちらで寺町という町内名や住所、あるいは通称をつけられている地区がある。
 兵である足軽達を大勢逗留させる工夫らしい。
 が、しょっちゅうできることではない。
 ということは、俺達の転移先の神社はおそらく、今と同じ位置にあるはず。
 そう考えると俺の時代になるまでにもいろんな工事が行われてきたのが分かる。
 って、鉄筋コンクリートの建物がまったくなく、遠いところまで見渡すことが出来るんだから当たり前ってば当たり前か。

 今も使われている、湯川市を南北に貫通する道路の一つである旧国道は五街道の羽州街道。それがここでは一番目立つ道路だ。
 俺達がいる西向きの神社を鳥居から出ると、目の前の地面はすぐに下りの長い石段。
 その羽州街道にはそのまま真っすぐに進めば三分もかからない。
 民家はそれなりに建ってはいる。それ以外は田んぼと畑。
 見晴らしはいいんだがそのほとんどが茶色い土や泥で、おそらく踏み荒らされた跡なんだろう。

「納める年貢分どころか、自分らの食生活もままならねぇんじゃねぇか? 野盗だって馬鹿じゃない。山で獲れる動物とか山菜果物、採り尽くしたかも分からんな」

 だがこれから実る田んぼを踏み荒らすってのは理解出来ねぇな。
 ななはしずにすっかり懐かれてやがる。
 まぁあんな子供からすれば、きれいで優しいお姉ちゃんが神様とあっちゃ、べったりもしたくもなるんだろうよ。

「ななよ。今回は人間相手とはいっても、飛び道具がある。前回同様術を使って……」

「うん。それが、今回は何も使えないかもしれない」

 はい?
 いや、それをアテにしてるんだが?
 と言うか、それが主戦力になるんだが?

「ここの住民達はあの神社にお参りしてるんでしょ?」

 愛宕神社だよな。異駒清水だったらお前を拝みに来てたんだろうが。

「だから、私への信仰心はないわけ。それが正しい、間違ってるって話じゃなくて、その心がなければ私も力を発揮できないこともあるのよ」

「……それ、今俺に言うか?!」

 なんで地獄に突き落とすようなことを言う?
 つーか、事前に教えてくれよ!

「するってーと何か? 戦力になるのは俺の折り紙だけか?」

「んー……そればかりじゃないだろうけどね」

 あ、俺の手のひら位の範囲での、地形を変えるとか何とかって力があったか。
 って、手のひら程度の範囲で何の戦力になるっつんだよ!
 ……いや、これは我がままだな。
 なな一人で何でもできるじゃねぇかと思ってた。
 だが今回は、ここに来る前から俺のことをアテにしてくれてた。
 神様から頼りにされるなんて、ちょっとプレッシャーはかかるが悪い気はしねぇな。
 だがこういうときは、何冥利に尽きるっつーんだろ?

 まぁ、細けぇことはいっか。

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 高台の上にあった愛宕神社。
 そこから降りてすぐに右に曲がる。
 方向としては、駅前通りの異駒清水神社がある方へ横方向に近づいているってことだが、進んで間もなく、また右に曲がる。
 愛宕神社の右の位置になるってことだ。
 だがその曲がった先が厄介。
 普通の山道じゃない。
 大木の根っこ、でこぼこの石の道、時々日が差す隙間のないほど密集している枝葉。
 けもの道というにはいくらかは通りやすくはあるが、それでも転ばないように歩くには神経も疲れる。

「こんな道、よく子供一人歩けるもんだ」

「えー? こんなとこ、ふつうにあるけるよー?」

 身軽なんだろうな。
 だが距離は意外と近いかもしれない。
 その道から横に逸れて少し進むと、崖沿いの道になる。
 少し進むと洞穴があり、しずはその中へずんずん進む。

「はぁ……はぁ……、ななは、平気か?」

「平気? 何が?」

 実体化しても、神様は神様なんだな。

 洞穴の中は広く、長い。
 壁のあちこちに穴があり、穴一か所につき一家が住んでいる様子。
 生活の知恵ってとこか。
 あんな道、野盗が登って来るには厳しすぎる。

「……ったく、お参りしたって天から助けが来るわけじゃあるまいし!」

「でもほんとにきたんだよ。いっしょにきたもん」

 しずの声と大人の声の会話が聞こえる。
 あちこちに火をつけてそれを照明代わりにしているようだが、それでも薄暗がりであまりはっきりとは見えない。

「なな神様の遣い? どこにいるんだそんなやつ」

 えらい言われよう。
 だがここで引っ込んでたら、この町……いや、集落か。それがどうなるか分からない。
 存亡の危機だからこそ、しずがそんなにもお参りに来ていたんだろう。
 ほのかな明るさと声の反射を頼りに、静が入ったと思われる洞窟の中の洞穴に入ってみた。

「……オメェが神様の遣いってやつだが? おがしげなモン着て、ナニモンだオメェ」

 長い目で見れば子孫の一人かもしれん。
 が、そんな話が通じる相手じゃなさそうだ。

「その女の子から、白討を何とかしてくれと願われてな。主のなな神様から遣わされた」

 ななを神様と紹介したらば、その証明をしなきゃならん。
 術が使えないかもしれないとなれば、野盗退治どころか俺らが退治されかねん。
 俺のアドリブにななは合わせてくれるかどうか。

「こちらの女性はそんな俺の手伝い。なな神様は天界からその少女の願いを聞き届けて俺達を遣わされた。それゆえに……」

「どうでもいいし誰でもいいからあいつらぶっ殺してくれ!」

 いきなり物騒な言葉がその男の口から飛び出てきましたよ。
 どっちが乱暴者か分かりゃしねぇ。

「あいつらは突然やって来て、俺達から作った作物を勝手に持っていきはじめやがった。文句ひとつ言おうとするとすぐに刀で切り殺したり撃ち殺したりしてよぉ……」

「男衆がどんどん殺されちゃってね。血気盛んな若者達も立ち上がったんだけどみんな殺されちまった……」

 しずの母親と思しき女性からも集落の現状の話が出る。
 死がすぐそばまでやって来ている。
 そんな感じだ。
 人の、ではない。
 集落が死んでしまう。
 洞窟の中の空気がどんよりしてるように感じてるのは、くうきのながれがわるいばかりじゃない。
 そんな予感が洞窟内全体に広がってるんだろう。

「男ばかりじゃねぇ。女子供も殺された。年よりはほとんど残ってる。抵抗しねぇからな。けど畑仕事なんかできるわきゃねぇ。外の仕事出来るモンがどんどん減っていく……」

 野盗を捕まえて懲らしめる。
 そんなことを考えてたが、そんな生ぬるい話ではなさそうだ。
 全滅するのはどっちだ?
 そんなキャッチコピーが頭に浮かんでしまう。

「やめとけ。あんな大勢やっつけるなんてことできねぇよ。殿さんだって手を焼いてんだ。他のいい場所見つけてそっちに行くまで我慢するしかねぇんだよ」

「どこの誰かは知らねえけんど、娘連れてきてくれてありがとね。こんな年の子供も、もう数えるほどしかいねくてなぁ。ほんとは外さ出るのは危ねぇんだ」

「だどもずっとこんな暗いどこさいさせるのも不憫でなぁ……」

 されるがままではなかった。
 抵抗、対抗もした。
 しかしなす術がなかった。

「……一旦そこの神社に戻ります。俺らもいろいろ考えてみます」

 そんなことしか言えなかった。
 何を言っても慰めにもならん。
 薄明りを頼りに二人の目を見ると、死んだ魚のような眼をしている。
 おそらくはこの洞窟にいる大人達はみんなそうなんだろう。

 天は自ら助くる者を助く。
 しかしななにはその声は届かなかった。
 助けを呼ぶ声なら誰の声でも届くに違いないと信じていた者もいただろう。
 しかしどこからも救いの手が伸びてくることはなかった。
 だからこんな停滞した空気になるのも仕方がないことだろう。

 だが、それでもあの少女だけは縋った。
 何の縁かは知らないが、それでも届いた願い。
 そんな大人達に改めて問い質すのも酷だろう。
 この中にいる人達が求めているのは、野盗がもう来ることがない日々のはず。

「……俺ら二人だけで何とかするしかないんだろうな」

「無気力になってしまうほどの大事件なんだろうね」

 ななが俺の意見に同意する。
 方針は決まった。
 あとは手段。そして実行のタイミングを決めるのみである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...