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第二章 二件目 野盗を討て!
いざ、しずの時代へ
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世の中上手く回らないことは多々ある。
それは俺の感情にも当てはまるんだな。
親父が遷化……っつーか、まぁ分かりやすく言うと極楽浄土に逝ってしばらくは落ち着かなくて、落ち着いてからはななとの関わりだけしか語ってないわけだが、日常の仕事もちゃんとしているわけで。
で、しずって女の子のことだの野盗のことだのを調べ始めてから三日目だ。
お檀家さんの年回忌の法要で、本堂でお勤めの最中だった。
バキィッ!
っていうドでかい落雷の音が本堂のすぐ外で鳴り響いた。
読経の声が止まりかけたが、そこはプロ。何とか途切れることなく、雰囲気も壊すことなくその仕事はやり遂げたわけだが。
「いやー、和尚さん。こんな天気のいい日に雷鳴るんですねぇ」
「あんな現象、私も初めてですよ。いい冥土の土産が出来ました」
「和尚さん、私らより若いでしょうに。あははは」
社交辞令的な冗談も口にする。それくらいのユーモアは持ち合わせてリップサービスもせんと、寺に関心を持ってもらえない。
もっともそんな努力も空回りすることもあるが。
それはさておき、法衣を大急ぎで脱いで畳む。
白衣も衣紋かけという和服用のハンガーにかけて着替えも急ぐ。
雷光なしの雷鳴が、俺にとってこんなに急かすもんだとは思わなかった。
急いでても、仕事に使う衣は丁寧に扱わんといかん。
高価な物だし、大切に扱えば四代くらいは使用に耐えることが出来る。
ななには待たせて悪いが、俺にとっちゃやっぱり本業は大事なんだよ。
もっとも誰だって本業の方が大事に決まっているんだろうがな。
だがその丁寧な扱い方で時間を食っちまった。
「遅れて悪ぃっ! 何かあっ……」
た。うん。
異駒清水神社に駆け込み、横の鳥居の柱を一周して駆け込んだその社はななの住まい。
そこに飛び込んだ俺の目に入ったのは、ななとその膝元で眠っているしずだった。
「遅れて悪かったけど……、これ……どういう状況?」
いや、そんな恨みがましいような目で見られても困るんだけど。
「……またこの子、迷い込んできたみたいなの」
「ほう」
しずがいる世界を鏡で見ていたななが言うには、しずは毎日二回以上は神社にお参りに来ているらしい。
それだけ頻繁にお参りに来ていれば、ここに迷い込むペースが増えるのも当然だろう。
「で、ななの姿を見ることが出来ないこの子は、勝手にここに上がり込んで泣き疲れて寝てしまったと」
だがそれで対処に困ったから俺を呼び出したわけじゃないだろう。
おそらくななが俺を呼び出した理由は……。
「この子を起こして、この子の世界……時代に向かうつもり。だけど私だけじゃ何ともできないから……」
駆け付けるのが遅くなった甲斐があった。
こんなこともあろうかと、前回よりかなり多い枚数の折り紙を用意してきた。
ななの姿は、迷いこんだしずには見られたことはないが、まぁ転移……この場合は時間移動とでも言うのか? 移動した先で実体化することは出来るだろうから問題はないと思うが、神様にお願いしたら叶えてくれたという実感をしずは持ってくれるだろうか?
しずの時代の人間たちに、ななという女神の恩恵が来るということを認識してもらわなければ、神様を奴隷扱いしてしまう恐れも生まれる。
俺がその顔つなぎの役目を持たなければならない。
ただ野盗を追い払ったり懲らしめたりやっつけたりしても、再度悪事を働くことがあっては困る上、そんなことも考えなければならない。
「もうちょっと、工夫を考える時間は欲しかったな」
「でもこの子がここにいる以上、この子がいる時代ならこっちの希望する先を決めるわけにはいかない。早く取り掛からないと住民達の被害が大きくなるよ」
覚悟、決めるか。
しずを驚かせないように静かに起こす。
流石に俺の顔は覚えていたようで少し安心した顔をするしず。
ななと話し合って出た結論は、一刻も早くしずの住む所に向かうこと。
俺はしずにそのことを伝えるとたどたどしい発音と訛りで俺に向かって礼を言ってきた。
幼子は幼いなりに、困り果てた大人達の力になりたいと感じてたんだろうな。
そんな自分が、そんな大人達の力になれそうだと分かったんだろうな。俺の腕を引っ張って早く行こうと言い張って来る。
健気なもんじゃねぇか。
ななはななで、力強く頷いている。
大丈夫なのか? 自分の立場、分かってるよな?
ともあれ、ここでこのまま駄弁ってたって何も始まらん。
忘れ物はない。
よし。
行くか。
しずと手をつなぎ、しずには見えないななが俺の後ろをついてくる。
鳥居の柱を一周し、しずの時代に俺達は移動した。
※※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
移動した先では軽いパニックを起こす。
誰がって……。
まず俺だ。
着いた先は、異駒清水神社ではない別の神社だった。
「ここ……どこだ? ここでもななを祀って……いや、違う。多分ここ……」
高台にある神社であることは理解できた。
思い当たる神社なら一つだけ。
だが、俺達の移転する前の神社は駅前商店街の並びにあった神社だ。
俺の予想している神社は、そこから遥かに南東の方面。
歩いて行けなくはない距離だが、自転車があれば楽かもしれん。
だがその神社は、幾段もの石段を登らなければいけない神社。しかも……。
「ここ……愛宕神社じゃねぇか! ななを祀ってる神社じゃねぇぞ?! 大丈夫なのか?!」
「細かいことは気にしない! 早速しずちゃんちに行ってみるわよ」
そしてもう一人、パニックを起こしている、というか、平常心を失っている人物がいる。
しずだ。
ななの姿を見てぽかんとしている。
いや、どちらかと言うと見惚れていると言った方がいいか。
「……お姉ちゃん、だあれ?」
着ている服装がしずと似ている分、そんなに警戒心を持っていないようだ。
だが突然姿を見せたななに驚いているのは分かる。
「しず。このお姉ちゃんが、しずがお祈りしてたなながみさまだよー」
俺の説明を聞いて、静がななにはしゃぎながらまとわり始める。
まぁそんなに長い時間は使わんだろう。
しずが大人しくするまで好きにさせるか。
それは俺の感情にも当てはまるんだな。
親父が遷化……っつーか、まぁ分かりやすく言うと極楽浄土に逝ってしばらくは落ち着かなくて、落ち着いてからはななとの関わりだけしか語ってないわけだが、日常の仕事もちゃんとしているわけで。
で、しずって女の子のことだの野盗のことだのを調べ始めてから三日目だ。
お檀家さんの年回忌の法要で、本堂でお勤めの最中だった。
バキィッ!
っていうドでかい落雷の音が本堂のすぐ外で鳴り響いた。
読経の声が止まりかけたが、そこはプロ。何とか途切れることなく、雰囲気も壊すことなくその仕事はやり遂げたわけだが。
「いやー、和尚さん。こんな天気のいい日に雷鳴るんですねぇ」
「あんな現象、私も初めてですよ。いい冥土の土産が出来ました」
「和尚さん、私らより若いでしょうに。あははは」
社交辞令的な冗談も口にする。それくらいのユーモアは持ち合わせてリップサービスもせんと、寺に関心を持ってもらえない。
もっともそんな努力も空回りすることもあるが。
それはさておき、法衣を大急ぎで脱いで畳む。
白衣も衣紋かけという和服用のハンガーにかけて着替えも急ぐ。
雷光なしの雷鳴が、俺にとってこんなに急かすもんだとは思わなかった。
急いでても、仕事に使う衣は丁寧に扱わんといかん。
高価な物だし、大切に扱えば四代くらいは使用に耐えることが出来る。
ななには待たせて悪いが、俺にとっちゃやっぱり本業は大事なんだよ。
もっとも誰だって本業の方が大事に決まっているんだろうがな。
だがその丁寧な扱い方で時間を食っちまった。
「遅れて悪ぃっ! 何かあっ……」
た。うん。
異駒清水神社に駆け込み、横の鳥居の柱を一周して駆け込んだその社はななの住まい。
そこに飛び込んだ俺の目に入ったのは、ななとその膝元で眠っているしずだった。
「遅れて悪かったけど……、これ……どういう状況?」
いや、そんな恨みがましいような目で見られても困るんだけど。
「……またこの子、迷い込んできたみたいなの」
「ほう」
しずがいる世界を鏡で見ていたななが言うには、しずは毎日二回以上は神社にお参りに来ているらしい。
それだけ頻繁にお参りに来ていれば、ここに迷い込むペースが増えるのも当然だろう。
「で、ななの姿を見ることが出来ないこの子は、勝手にここに上がり込んで泣き疲れて寝てしまったと」
だがそれで対処に困ったから俺を呼び出したわけじゃないだろう。
おそらくななが俺を呼び出した理由は……。
「この子を起こして、この子の世界……時代に向かうつもり。だけど私だけじゃ何ともできないから……」
駆け付けるのが遅くなった甲斐があった。
こんなこともあろうかと、前回よりかなり多い枚数の折り紙を用意してきた。
ななの姿は、迷いこんだしずには見られたことはないが、まぁ転移……この場合は時間移動とでも言うのか? 移動した先で実体化することは出来るだろうから問題はないと思うが、神様にお願いしたら叶えてくれたという実感をしずは持ってくれるだろうか?
しずの時代の人間たちに、ななという女神の恩恵が来るということを認識してもらわなければ、神様を奴隷扱いしてしまう恐れも生まれる。
俺がその顔つなぎの役目を持たなければならない。
ただ野盗を追い払ったり懲らしめたりやっつけたりしても、再度悪事を働くことがあっては困る上、そんなことも考えなければならない。
「もうちょっと、工夫を考える時間は欲しかったな」
「でもこの子がここにいる以上、この子がいる時代ならこっちの希望する先を決めるわけにはいかない。早く取り掛からないと住民達の被害が大きくなるよ」
覚悟、決めるか。
しずを驚かせないように静かに起こす。
流石に俺の顔は覚えていたようで少し安心した顔をするしず。
ななと話し合って出た結論は、一刻も早くしずの住む所に向かうこと。
俺はしずにそのことを伝えるとたどたどしい発音と訛りで俺に向かって礼を言ってきた。
幼子は幼いなりに、困り果てた大人達の力になりたいと感じてたんだろうな。
そんな自分が、そんな大人達の力になれそうだと分かったんだろうな。俺の腕を引っ張って早く行こうと言い張って来る。
健気なもんじゃねぇか。
ななはななで、力強く頷いている。
大丈夫なのか? 自分の立場、分かってるよな?
ともあれ、ここでこのまま駄弁ってたって何も始まらん。
忘れ物はない。
よし。
行くか。
しずと手をつなぎ、しずには見えないななが俺の後ろをついてくる。
鳥居の柱を一周し、しずの時代に俺達は移動した。
※※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
移動した先では軽いパニックを起こす。
誰がって……。
まず俺だ。
着いた先は、異駒清水神社ではない別の神社だった。
「ここ……どこだ? ここでもななを祀って……いや、違う。多分ここ……」
高台にある神社であることは理解できた。
思い当たる神社なら一つだけ。
だが、俺達の移転する前の神社は駅前商店街の並びにあった神社だ。
俺の予想している神社は、そこから遥かに南東の方面。
歩いて行けなくはない距離だが、自転車があれば楽かもしれん。
だがその神社は、幾段もの石段を登らなければいけない神社。しかも……。
「ここ……愛宕神社じゃねぇか! ななを祀ってる神社じゃねぇぞ?! 大丈夫なのか?!」
「細かいことは気にしない! 早速しずちゃんちに行ってみるわよ」
そしてもう一人、パニックを起こしている、というか、平常心を失っている人物がいる。
しずだ。
ななの姿を見てぽかんとしている。
いや、どちらかと言うと見惚れていると言った方がいいか。
「……お姉ちゃん、だあれ?」
着ている服装がしずと似ている分、そんなに警戒心を持っていないようだ。
だが突然姿を見せたななに驚いているのは分かる。
「しず。このお姉ちゃんが、しずがお祈りしてたなながみさまだよー」
俺の説明を聞いて、静がななにはしゃぎながらまとわり始める。
まぁそんなに長い時間は使わんだろう。
しずが大人しくするまで好きにさせるか。
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