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第二章 二件目 野盗を討て!
プロローグ:奴らの名は
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「悪い奴ではくとう? っつったら白に討伐の討って書く白討のことか?」
「白討?」
って何だ?
聞いたことがあったようななかったような。
「お前、ほんと地元ネタに弱いな。ホントに元クイズ研かよ?」
相変わらず先輩はきついことを言ってくる。
話題性の高い一般知識に関心が強いだけだっつーの。
ラーメンのメニューはどれでも旨いけど、後輩の、特に俺にだけはキツいんだよなー。
「犬っこ祭りの由来も知らねぇんじゃねぇだろうな?」
犬っこ祭り。
ここに住む人でそれを知らない奴ぁいねぇだろ。
湯川市の三大祭り、っていう設定なんだが、その一つであり、小正月の日に行われる雪祭りだ。
確か、江戸時代の話だったか。
「ここに来た殿さんが、盗賊に荒らされて困ってた住民のために、その盗賊を追い払ったとか何とか」
その時に活躍したのが秋田犬。
その犬の姿を雪で作り、感謝の気持ちを表した。
それが雪祭りの始まりだったはず。
「その盗賊……野盗の名前が白討って呼ばれてたんだな。まぁそれはいいんだが、ほんとのところはどうなのかって話もある」
「ほんとのところ? 詳しく知ろうとしなくたって、そんくらいは俺でも知ってますよ? なのに事実は違うと?」
先輩が経営しているラーメン屋「鰹武士」。
俺が昼飯時の最後の客として入店したのはもちろん、しずって女の子自身から得た情報と、しずから聞いた話から何か手掛かりを得られるかもしれないと思ったから。
異世界のことかもしれないが、訛りが分かるってのが妙に現実感を強く感じられた。
しかもしずの服装が、古い時代を感じさせられる物だったせいもあった。
「ここの三大祭りってなんだっけ?」
「それくらいは分かりますよ。絵どうろう七夕まつり、犬っ子祭り、大名行列でしょ?」
「その通り。だが大名行列だけは見劣りするんだよな。別に悪口を言ってるわけじゃねぇ。ここだけで行われる祭りじゃないし、祭りっていうより、行事と言った方がしっくりくる感じがするからな。」
たしかに大名行列は他の地域でも見られる行事だ。
決して珍しいものじゃない。
勿論それに使われる道具などは当時の物もあったりするから、それ自体は珍しい物ではあるが。
「じゃあ何で大名行列はあちこちで見られると思う?」
「参勤交代、でしょ? 確か天下統一した徳川家が……」
「うん。江戸に身内の誰かを常にいさせて、面会を義務付けたとかって話もあるな。いわば人質だ。幕府に逆らわせないためってことだな。その目論見は当たる。だから黒船が来日したときには国内は大混乱。争乱はすぐに収められなかったりした」
確か、参勤交代で、大名達に余計な金を持たせないようにしたって話も聞いたことがあったな。
「地方を弱体化させる目的があったなんて話も聞いたことがありますがねぇ……」
「うん。ましてや藩を置いたところからかなり離れた田舎だ。野盗だってただの泥棒じゃない。戦場から逃げてきた落ち武者なら、実戦慣れした連中だろう。そんな集団に抵抗できる戦力があったかどうか」
殿様に縋ったって、ない袖は振れないって訳だ。
その言い回しはお金に限ったことではない。
ない戦力を民のために回すことは出来ないってことだ。
「にしても何でまた、昼の営業時間の終わる間際に来てまで聞きたがったんだ? 郷土愛に目覚めたか?」
「いや、そんなに強く意識したこたぁないんですけどね」
誰かに喋っちゃだめって言われたこたぁないが、言わずに済めばそれに越したことはないよな。
ということは、これ以上掘り下げて聞くのは良くはないかもしれん。収穫ゼロってわけでもないしな。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
「……ってことがあってな」
「南も重要な情報持ってきてくれたね。こっちも分かったことがあったよ」
異駒清水神社に行くのはいつも早朝。寺の本堂の扉を開けてから。
昼飯を「鰹武士」で食べてからすぐにその報告がてら来てみたら、ななもななで分かったことがあったらしい。
「時間を早送りして周辺を見回してみたら、ここが映った」
「ここ?! 湯川市?! ってこたぁ……」
異世界を行ったり来たりするだけじゃなくて、ひょっとして。
「ここの過去の世界から来たってことよね。完全に頭から抜けてた」
おい、女神。
人間臭いこと言ってんじゃねーよ。
「ってことは何か? 時間旅行もできるってことか?」
「旅行って言うか……転生の面談、面接の話したことあったでしょ?」
したことあったでしょ? って、んなこと聞かれなきゃ確認できねぇほど俺の頭は緩んでねぇよ!
「したも何も、今朝のことだろうがよ。寿命を迎えた人の中にはそんな希望を聞いたりするんだろ?」
「うん。今度はこういう世界に行きたいとかそんな願いをする人はいるんだけど、この世界の未来に生まれ変わりたいって願う人もいるの。もちろん昔の時代に生まれ変わりたいとか、もう一度同じ時代を生きたいって人もいるし」
ぅおいっ。
せめてその可能性だけは教えてもらいたかったぞ。
誰かに聞かなくても自分で調べられりゃすぐ分かることもあっただろうしよっ。
「でもどれくらいの年月を早送りしたかまではね」
「それなら問題ない」
そう。
あの祭りは、約四百年前。
しずが生きていた頃ってばさらに絞らなきゃならんだろうが、野盗が出没した記録さえ見つけられれば。
ってちょっと待て。
「おい。お前がこの一件に関わっていいのか? 政治や経済なんかはお前では判断つきかねないって話してたよな?」
こいつが生み出したものであれば、いわばアフターケアってことだろう。
そこに住む、苦しんでいる人達に救いの手を差し伸べることも出来る。
しかし住民達が神様に報告もせず教えもせず、その世界で常識の一つとして定着した物ならば、いくら神様でも理解できないこともある。
理解できなければ物事の正誤の判断が出来ないこともある。
それは野生動物の弱肉強食の世界と同じだろう。
食べる方は、食べなければ生きていけない動物。
食べられる方は、逃げなければ生きてはいけない動物。
そして生き残った方が次の時代でも活動できる。
そこに正誤は存在しない。
生き物ならば、みな生きようと努力しているのだから。
だが、しかし。
「しずは二回もここに来た。偶然か必然かは分からんが。だが、野盗や殿さんと違ってお前に縁が一番近い人物ってことになるんじゃねぇか?」
「だからと言って、必ず願いを叶えなければならないってわけじゃない。あの女の子が死んで次の生に生まれ変わるとしたら、ここに来る可能性は高いかもしれないけど、転生の希望を聞き届けることと今の生での願いを聞き届けることは違うもの」
殿さんやしずの家族、そしてしずも生きようと必死だ。
だが野盗も、食うに困っての行為だろう。生存本能は実に業が深い。
「でも、片方はいろんなものを生み出そうと努力している。片やもう一方は、ただ搾取するだけ。生み出そうとする者を守る立場の者は、誰もがみんな力足らず、という現状ってことだよな」
「努力は報われないこともある。けど努力を否定しなければならない摂理はないし、そもそも暴力を肯定するつもりもない」
しずという女の子を、苦心してまで彼女の世界に帰そうとしたが、彼女が持つ願いを叶えようと積極的に動く姿勢はないんだな。
シビアというかクールというか。
それでも静を何とかしてあげたいという気持ちはあるんだろうな。
助ける理由を外側から作っていこうとしてる感じだ。
「よし。ということはだ。あの子の願いを叶えるために出発……」
「しないわよ?」
おいっ。
いきなり否定かよ?!
「具体的にどの時代に行くか分からないし、何よりその願いを他の多くの人からは聞こえてこないの。龍退治の時は不特定多数の人からの願いが聞こえたからね」
「二度も迷い込むほどお参りしてるだろうに……っつっても、行き先が分かんなきゃ動きようがないのか」
「残念だけどそういうことね。でも二度もここに迷い込んだということは、三度目があるこ可能性はある。その時は」
「準備万端にしとかないとな。とりあえず報告はここまでにしとこう。また明日来る」
ななが頷くのを見て、俺は社を出た。
だがもし本当に出張ることになったら、火縄銃と馬をどうするか、だ。
古めかしいと言えども飛び道具。避けられるはずもないし防弾チョッキなんて通販でしか買えない。
馬だって競走馬のような細い脚じゃない。
正義の味方ではありたいし、地元を豊かにする人たちの味方でありたいが、人の命を奪うような真似もしたくはない。たとえ時代が違ったとしてもだ。
なるようにしかならないが、ギリギリまで足掻いてみるか。
何をどうすればいいのか、全く頭に浮かんではこないがな。
「白討?」
って何だ?
聞いたことがあったようななかったような。
「お前、ほんと地元ネタに弱いな。ホントに元クイズ研かよ?」
相変わらず先輩はきついことを言ってくる。
話題性の高い一般知識に関心が強いだけだっつーの。
ラーメンのメニューはどれでも旨いけど、後輩の、特に俺にだけはキツいんだよなー。
「犬っこ祭りの由来も知らねぇんじゃねぇだろうな?」
犬っこ祭り。
ここに住む人でそれを知らない奴ぁいねぇだろ。
湯川市の三大祭り、っていう設定なんだが、その一つであり、小正月の日に行われる雪祭りだ。
確か、江戸時代の話だったか。
「ここに来た殿さんが、盗賊に荒らされて困ってた住民のために、その盗賊を追い払ったとか何とか」
その時に活躍したのが秋田犬。
その犬の姿を雪で作り、感謝の気持ちを表した。
それが雪祭りの始まりだったはず。
「その盗賊……野盗の名前が白討って呼ばれてたんだな。まぁそれはいいんだが、ほんとのところはどうなのかって話もある」
「ほんとのところ? 詳しく知ろうとしなくたって、そんくらいは俺でも知ってますよ? なのに事実は違うと?」
先輩が経営しているラーメン屋「鰹武士」。
俺が昼飯時の最後の客として入店したのはもちろん、しずって女の子自身から得た情報と、しずから聞いた話から何か手掛かりを得られるかもしれないと思ったから。
異世界のことかもしれないが、訛りが分かるってのが妙に現実感を強く感じられた。
しかもしずの服装が、古い時代を感じさせられる物だったせいもあった。
「ここの三大祭りってなんだっけ?」
「それくらいは分かりますよ。絵どうろう七夕まつり、犬っ子祭り、大名行列でしょ?」
「その通り。だが大名行列だけは見劣りするんだよな。別に悪口を言ってるわけじゃねぇ。ここだけで行われる祭りじゃないし、祭りっていうより、行事と言った方がしっくりくる感じがするからな。」
たしかに大名行列は他の地域でも見られる行事だ。
決して珍しいものじゃない。
勿論それに使われる道具などは当時の物もあったりするから、それ自体は珍しい物ではあるが。
「じゃあ何で大名行列はあちこちで見られると思う?」
「参勤交代、でしょ? 確か天下統一した徳川家が……」
「うん。江戸に身内の誰かを常にいさせて、面会を義務付けたとかって話もあるな。いわば人質だ。幕府に逆らわせないためってことだな。その目論見は当たる。だから黒船が来日したときには国内は大混乱。争乱はすぐに収められなかったりした」
確か、参勤交代で、大名達に余計な金を持たせないようにしたって話も聞いたことがあったな。
「地方を弱体化させる目的があったなんて話も聞いたことがありますがねぇ……」
「うん。ましてや藩を置いたところからかなり離れた田舎だ。野盗だってただの泥棒じゃない。戦場から逃げてきた落ち武者なら、実戦慣れした連中だろう。そんな集団に抵抗できる戦力があったかどうか」
殿様に縋ったって、ない袖は振れないって訳だ。
その言い回しはお金に限ったことではない。
ない戦力を民のために回すことは出来ないってことだ。
「にしても何でまた、昼の営業時間の終わる間際に来てまで聞きたがったんだ? 郷土愛に目覚めたか?」
「いや、そんなに強く意識したこたぁないんですけどね」
誰かに喋っちゃだめって言われたこたぁないが、言わずに済めばそれに越したことはないよな。
ということは、これ以上掘り下げて聞くのは良くはないかもしれん。収穫ゼロってわけでもないしな。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
「……ってことがあってな」
「南も重要な情報持ってきてくれたね。こっちも分かったことがあったよ」
異駒清水神社に行くのはいつも早朝。寺の本堂の扉を開けてから。
昼飯を「鰹武士」で食べてからすぐにその報告がてら来てみたら、ななもななで分かったことがあったらしい。
「時間を早送りして周辺を見回してみたら、ここが映った」
「ここ?! 湯川市?! ってこたぁ……」
異世界を行ったり来たりするだけじゃなくて、ひょっとして。
「ここの過去の世界から来たってことよね。完全に頭から抜けてた」
おい、女神。
人間臭いこと言ってんじゃねーよ。
「ってことは何か? 時間旅行もできるってことか?」
「旅行って言うか……転生の面談、面接の話したことあったでしょ?」
したことあったでしょ? って、んなこと聞かれなきゃ確認できねぇほど俺の頭は緩んでねぇよ!
「したも何も、今朝のことだろうがよ。寿命を迎えた人の中にはそんな希望を聞いたりするんだろ?」
「うん。今度はこういう世界に行きたいとかそんな願いをする人はいるんだけど、この世界の未来に生まれ変わりたいって願う人もいるの。もちろん昔の時代に生まれ変わりたいとか、もう一度同じ時代を生きたいって人もいるし」
ぅおいっ。
せめてその可能性だけは教えてもらいたかったぞ。
誰かに聞かなくても自分で調べられりゃすぐ分かることもあっただろうしよっ。
「でもどれくらいの年月を早送りしたかまではね」
「それなら問題ない」
そう。
あの祭りは、約四百年前。
しずが生きていた頃ってばさらに絞らなきゃならんだろうが、野盗が出没した記録さえ見つけられれば。
ってちょっと待て。
「おい。お前がこの一件に関わっていいのか? 政治や経済なんかはお前では判断つきかねないって話してたよな?」
こいつが生み出したものであれば、いわばアフターケアってことだろう。
そこに住む、苦しんでいる人達に救いの手を差し伸べることも出来る。
しかし住民達が神様に報告もせず教えもせず、その世界で常識の一つとして定着した物ならば、いくら神様でも理解できないこともある。
理解できなければ物事の正誤の判断が出来ないこともある。
それは野生動物の弱肉強食の世界と同じだろう。
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食べられる方は、逃げなければ生きてはいけない動物。
そして生き残った方が次の時代でも活動できる。
そこに正誤は存在しない。
生き物ならば、みな生きようと努力しているのだから。
だが、しかし。
「しずは二回もここに来た。偶然か必然かは分からんが。だが、野盗や殿さんと違ってお前に縁が一番近い人物ってことになるんじゃねぇか?」
「だからと言って、必ず願いを叶えなければならないってわけじゃない。あの女の子が死んで次の生に生まれ変わるとしたら、ここに来る可能性は高いかもしれないけど、転生の希望を聞き届けることと今の生での願いを聞き届けることは違うもの」
殿さんやしずの家族、そしてしずも生きようと必死だ。
だが野盗も、食うに困っての行為だろう。生存本能は実に業が深い。
「でも、片方はいろんなものを生み出そうと努力している。片やもう一方は、ただ搾取するだけ。生み出そうとする者を守る立場の者は、誰もがみんな力足らず、という現状ってことだよな」
「努力は報われないこともある。けど努力を否定しなければならない摂理はないし、そもそも暴力を肯定するつもりもない」
しずという女の子を、苦心してまで彼女の世界に帰そうとしたが、彼女が持つ願いを叶えようと積極的に動く姿勢はないんだな。
シビアというかクールというか。
それでも静を何とかしてあげたいという気持ちはあるんだろうな。
助ける理由を外側から作っていこうとしてる感じだ。
「よし。ということはだ。あの子の願いを叶えるために出発……」
「しないわよ?」
おいっ。
いきなり否定かよ?!
「具体的にどの時代に行くか分からないし、何よりその願いを他の多くの人からは聞こえてこないの。龍退治の時は不特定多数の人からの願いが聞こえたからね」
「二度も迷い込むほどお参りしてるだろうに……っつっても、行き先が分かんなきゃ動きようがないのか」
「残念だけどそういうことね。でも二度もここに迷い込んだということは、三度目があるこ可能性はある。その時は」
「準備万端にしとかないとな。とりあえず報告はここまでにしとこう。また明日来る」
ななが頷くのを見て、俺は社を出た。
だがもし本当に出張ることになったら、火縄銃と馬をどうするか、だ。
古めかしいと言えども飛び道具。避けられるはずもないし防弾チョッキなんて通販でしか買えない。
馬だって競走馬のような細い脚じゃない。
正義の味方ではありたいし、地元を豊かにする人たちの味方でありたいが、人の命を奪うような真似もしたくはない。たとえ時代が違ったとしてもだ。
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