この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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幕間

二件目のプロローグ

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 ななが外に出た後、彼女の後をついていくように外に出てみた。

 外には小さな女の子がしゃがんで泣いている。
 ななもしゃがんで頭を撫でながら慰めているが、一向に泣き声は止まらない。

「お姉ちゃんがいるから、ね? 大丈夫だよ?」

 両手で目をこすりながら泣き続けている女の子の顔はよく見えん。
 おかっぱ頭で、今風の女の子とはかなり違う身なり。
 どちらかと言えば、いつも薄い着物を着ているななに似ている。

 そのななは優しさのオーラが全身からはみ出ているような声で慰める。
 しかし女の子は泣き止みそうにもない。
 そんなときにこんな三十路目前の男がしゃしゃり出てきても、何の慰めになるか。

「やれやれ。まるでななの声が聞こえて……」

 そうか。
 ななの声が聞こえないどころか、ひょっとしたらななの姿が見えないんじゃないのか?
 頭を撫でられている感触もないんじゃないのか?

「おい、なな……」

 ん?
 この子……前にここに紛れ込んだ子供じゃないのか?
 だがあの時はななに手を引かれて神社の外に……。
 いや、背中を押されて神社の外に出ていったはずだ。
 となると、この子がななに背中を押されて鳥居の外に出たような気がしたのは、たまたま偶然ってことになるのか?
 それと、あの時の女の子の名前は確か……。

「しず、だっけか?」

 ビンゴ! 反応あり!
 しゃくりあげて泣く声は止まらないが俺の方を見ている。
 その女の子の前にいるななの陰にいる俺を。

「な、なながみさま?」

「なながみ?」

 その女の子は無理やりしゃくりあげるのを止めた。
 そして俺に向かって言った言葉がこれだった。
 鼻紙っつったんじゃないよな?
 いや、間違いなくなながみっつった。
 こんくらいの子供にとっちゃ、は行は言いづらいもんだ。鼻紙と言おうとしたなら、こんなにはっきりと「なな」とは言わないはずだ。
 しかもご丁寧に「さま」までつけてきた。

「あー……っと、俺のことか?」

「な、なながみさま、だべが?」

 思いっきりこっちの訛りで喋ってきやがった。
 だが泣き止んで何か期待するような眼で見つめられてそんな風に聞かれたら、どう答えていいか悩んじまうじゃねぇか。
 それにしても龍退治の時はナナしんって呼んでて、今回はなながみか。
 どのみち、ななのことを指して言ってるんだろうな。

「あー……俺はなながみさまとやらじゃないんだが……」

 おそらくその子には見えていないななと女の子を交互に見てしまう。
 ほんとのことを言っても大丈夫なんだろうか?

「きちんと言った方がいいわね。変に期待持たせるとこの子お祈りどころかお参りもしなくなっちゃうかもしれないから」

 ってななが俺に話しかけて大丈夫なのか?
 って、この子には聞こえないのか。ならななが俺に話しかけてくる分には平気なのか。

「あー……。俺はここの神様の使いの者だ。で、どちらかと言うと……しずちゃんって名前だったか? しずちゃん達と同じ人間……人間って分かるか? 人だよ人」

「し、しずちゃんね、おまいりしにきたんだ。わるいひとだぢやっつけてって」

 悪い人達をやっつける? それでお参りか。そこでここに迷い込んだってことか。
 そういう体質なんだろうな。

「しずちゃんね、しずちゃんね、おまいりおわってしずちゃんのえさかえろうとしたんだ。したばみたことねぇどさきちゃった」

「そっか。家に帰れなくなったのか。それで怖くなって泣いてたのか。よしよし、おにいちゃんがしずちゃんちがあるとこに送ってってあげようか」

 後ろでなながうんうんと頷いてる。
 まぁこれくらいの扱いは慣れたもんだよ。お檀家さんにもこんな小さい子供いるし、相手してやったこともたくさんあったしな。

「でも、でも、わりぃひとだぢやっつけてもらわねば、おどちゃもおがちゃもわらってくれねの」

「父ちゃんと母ちゃんも泣いてばかりってことか。だども悪い人達? うーん……どんな人達か分かれば考えなくもねぇが、しずちゃんは見たことねぇだろ?」

「おどちゃとおがちゃは、わりぃひとだぢのこと、はくとうっつってた。なながみさまにやっつけでぇ」

 困った。
 要するに、大人達はその悪い人達……集団をはくとうと呼んでいるらしい。が、どういう字を書くんだ?
 白頭鷲のはくとう?
 ななの方を見ると、ななも困った顔をしている。
 が、腕組みしながら何度か軽く頷く。
 いや、だからどうしたいんだよ。お前は喋ったっていいだろうよ。

「鏡があるからそれで詳しいことは調べてみよっか。断言はできないから曖昧に承諾していいよ」

 大丈夫かよ。
 他に手がかりないだろ。

「あー……、しずちゃんよ、俺からなながみさまに言っといてやる。だから今はおうちに帰んな。鳥居のとこまでついてってやるから、な?」

 今度は声を出さずに肩をひくつかせながら泣きだした。
 鳥居を一周させてななの家の前から送り出してやると、しずの姿はななの家の前から消えた。

「南、お疲れ。こういうときも南がいてくれて助かったわ。早速見てみよっか」

「見てみよっかってお前……どの世界から来たのか分かってるのか?」

「分かるわよ。あなた言葉聞き取れてたじゃない」

 え?
 ここだとどんな世界の言葉でも通用するような仕組みじゃないのか?

「私ならそんな術を持ってたりするけど、南にはないよ? だから南のいる世界かそれに近い言語を使う世界から来たってことね。まずは戻って鏡を見てみましょ」

 俺のいる世界に近い世界って、どういう判断基準だよ。
 とりあえず社の中に戻るか。

「それにしても俺がいて助かったってことは、今までこんなことは何度かあったってことか?」

「うん。そんなときはまず迷子になった人を無事に帰してあげなきゃいけないんだけど、ホントに一苦労……一苦労なんてもんじゃないわね。迷子になった人のほとんどは私の姿は見えないし声も聞こえないんだから。南がいてくれてほんとに助かったわ」

「だろうな。まぁそれだけでも十分戦力にはなれてるってことか」

「ほんとだよ。有り難いよ。さて……見てみますか」

 俺も鏡を覗き込む。

 何と言うか……長閑な自然の中って感じだ。
 遠くにも見える山脈。そして森林。
 思いっきり手前には、実り豊かそうな稲がたくさん植えられてある田んぼが広がっている。
 建物はかやぶき屋根か?

「あ、ほら、しずちゃんね。無事に帰れたってことよ」

「それよりも……鉄筋コンクリートのビルディングがないな。電線も電柱もない。電気がない世界なのは、龍退治をした世界と同じだが……」

 鏡に見える世界からの音声は聞こえない。
 鏡に映る世界にいるしずは、両親から怒られているようだ。
 両親の困っている姿を見たら、子供だってそれなりに力になりたいって思うもんだ。

 が、怒っているばかりではなく、しずを小脇に抱えでどこかに走り去っていく。

「……誘拐か? 両親だよな? この二人」

 遠くの森林の中に入っていく。
 そしてしばらくしてから、その反対方向から大勢土煙を立てて走ってくる連中がいる。

「……馬に乗ってるやつがいるな。馬、だよな? モンスターじゃないよな」

「龍退治の時には見なかった銃器っぽいのを持ってる人達もいるわね」

「エルフとかモンスターとかはいないな。馬は五頭。銃も五丁? 全部で……二十二人。はくとうって呼ばれてるやつらか?」

 田んぼがそいつらに踏み荒らされていく。
 見るも無残ってやつだ。
 だがここではどうにもならない。

「南……」

「何?」

「今日はここまででいいわ。鏡に集中して術をかけて見てみたいし、判明するまで付き合わせるのもね。明日また来てちょうだい。それまでに他にもいろいろ調べて見るから」

 俺が傍にいたら力になれることもあるが、気が散ることもある、か。

「あぁ、じゃあまた明日ってことでいいよな? すぐに来てほしけりゃ雷鳴らせ。すぐ駆けつける」

 ななから「お願い」って言葉を聞いて、今日のところは寺に戻ることにした。
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