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三波新、放浪編
リクエストに応えてみよう と思ったんですが その4
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「アラタっ! どう……って、これ……」
「……ライムと言いヨウミと言い……あそこで待ってろって」
「じっと待ってるなんてできるわけないでしょ!」
何こいつ興奮してんだ。
「待つ以外何かできると」
「アラタ、あんなに険しい顔になってたんだもん! その様子を見てのんびりできるわけないでしょ!」
ライムが動いたのはこいつの差し金か。
まったく……。
とりあえず……。
「俺の体も冷えそうだ。こいつも生き物なら温度が必要だ。暖を取りたいが……」
「来る途中にいい感じの洞穴があったよ! そこに移動……って、そうだ、この魔獣……」
こいつは魔獣なのか。
この世界の猫ってみんな六本足だから、こいつもこの世界では普通の動物かと。
魔獣と動物の区別はどうつけるんだ。
「火でも吹いてくれりゃ、自分で体を労わることもできるだろうが……」
「そんなの、ドラゴンの類くらいじゃないの?」
あ、やっぱりドラゴンもいるんだ。
「そうじゃなくて。……この子、天馬かも。でも白じゃなくて灰色っぽいね」
「天馬? って、今は詮索より体力回復だろ!」
「そんなの、アラタのおにぎりでもいいじゃない。問題はあの洞穴までどうやって運ぶか、よね」
ヨウミでも分かるか。
こいつの重さ。
引きずって運べても、体中に擦り傷ができちまう。
荷車に乗せられりゃ乗せてるさ。
でも乗せても誰も運べないし、そもそも荷車にそこまで耐久力があるとは思えない。
「ここからどれくらいの距離だ?」
「百メートルくらいかな?」
ススキの中を突っ切っていったから分からなかった。
考えてみれば、道路を進んでからこいつがいた場所に向かえば、余計な体力使わずに済んでたんだな。
まぁ今更だが。
「……焚火一式そこに持ってくか。骨折で左右一本ずつだから、痛みを我慢すれば歩けなくはないと思うが……」
こんな時のサバイバル法とかは知らないが、とりあえず……。
「こないだ寝具が欲しいっつて毛布買ったよな」
「え? あ、うん。それ……え? 何? どうするの?」
「全部こいつに使う」
「ちょっ! ちょっと!」
普通の競走馬よりもかなり大きいその体。
とりあえず背中だけを覆いつくせる。
あとはロープを使って、背中から落ちないように……。
「暴れんなよ? 痛いとこには触らないからな? ……威嚇してきやがる。まぁ人間のサバイバル法が通用するわけじゃないだろうが……」
「ライムならできるでしょ? 風呂敷みたいに広くなるし、体温も変えられるもの」
俺の、できれば人の力で助けてやりたかった。
なぜなら、ヒーローは意外と、困ってる人の都合に合わせてくるとは限らないから。
そして、意外とそばにいる人がその人にとってのヒーローになり、その力があったりする。
だから……。
「……俺なんか、お前に一噛みされるだけで死んじまう程度の種族だぞ! 世話が終わるまでくらい我慢しろや! でなきゃ一人でとっとと岸に這い上がれば済むこった! 一人でそれもできなかったくせにわがまま言ってんじゃねぇ!」
言葉が分かるかどうかなんて知ったことか!
噛み殺したきゃ噛み殺してみろよ!
そんなつもりもないくせに!
川から引き揚げてもらって安心してるくせに!
「ちょっ! アラタっ! 蹴り飛ばされるわよ!」
「蹴り飛ばされたら俺は死ぬだろうよ! だがこいつもこのままほったらかされて死ぬだけだ! くたばりたくなきゃ大人しくしてろ!」
……気迫は伝わったらしいな。
不満そうな顔を向けてるが、口は閉じたまま。手足も地面に置いたまま。
助けが欲しかったやつが助けを求める前に助けてもらって、助けてほしいなんて言った覚えはないって言ういわゆるツンデレって奴は、俺は認めん!
黙って救いの手を受け入れろってんだ!
「……さて。その洞窟で火を焚くか。ほら、ついてこい。そのままじゃ風邪ひいて体力減っちまうぞ!」
手綱もリードの紐も何もない。
声をかけて、それだけで言うことを聞くかどうか。
だがそいつは、ゆっくりと立ち上がった。
顔をゆがめているのは、痛みに耐えているからか。
その約百メートルの間、自分の気持ちを整理する。
助かりっこない命に手を差し伸べて、無駄な延命処置を施すのはどうなんだ? と思う。
助かる命を助け、その結果命を落とすこともどうなんだ? とも。
前者はいろんな視点から見れば、そのベストな結論も変わるはずだ。
だが後者は、はっきり言って夢見が悪いのは間違いない。
手を尽くせば助かる命なら手を尽くすべき、とは思う。
だが、何かを食わせることはできても、医療処置の手段はないし知識も知恵もない。
「……ヨウミ」
「何?」
「獣医とか……こんな生き物のケガとかを治す医者っているのか?」
「獣医はいるけど、魔獣は……。魔獣を飼ってる人はいなくはないけど、動物を飼うよりも神経使うって話は聞いたことがある程度」
いない、と思っていい。
自然治癒、あるいは自力で治るのを期待するしかないが……。
いかん。そうじゃない。
俺単独でこいつを助けるのと誰かの手を借りて助けるその線引きはどこだ?
俺が世話をすることと俺の手を離れることの線引きはどこだ?
そんなことも考えずに助けに向かって、今頃そんなことに悩むなんて、無責任すぎないか?
……いや。
俺は、こいつを助けたかったんじゃない。
俺は、あの時の俺を助けたかったんだ。
けどあの時の俺は、今の俺がどう動いても救われるはずがない。
あの時の俺は過去のものだし、今どう動いても過去を変えられるはずがないから。
くそっ。
昔のことを振り返ったがために、また昔のことに囚われるなんて思いもしなかった。
まるで呪いだな。
呪縛にかかったようなもんだ。
が、それも、俺の世界の現在から解放された副作用かもしれん。
だって仕方がないじゃないか、で済まされたし、済ますことができたから。
でも、今もそれが当てはまることが……。
「アラタ、ここだよ。洞窟」
「あ……」
ぽぅっとしてる場合じゃない。
「洞窟の中で焚火すると酸素が減っちまうな。空気が出入りできる程度の隙間を開けた場所で火を焚こう」
「分かった。えーと、焚き木焚き木……っと」
こいつに俺達の非常食を食わせるわけにはいかない。
となると、飯を炊いておにぎりを食わせるしかないんだが、飯炊き用の水はない。
ライムの力を借りるしかないんだが……。
「よいしょっと。これだけあれば十分かな? ……どうしたの? この子に何か食べさせなきゃ」
「水がない」
「ライムにろ過してもらったら? いつもやってるじゃない」
今は、俺が単独で助けたいと思ったこいつのためのおにぎり作りの話をしている。
だから迷ってるんじゃないか。
……俺の過去は、俺だけのものだ。
お前らを巻き沿いにしていいもんじゃない。
「とりあえず、体洗ってあげないと。いつまでも泥水かかったままじゃ気持ち悪いでしょ?」
「お、おいっ! 何を勝手な……」
「ん? どうしたの? 体綺麗にするだけでも、気分は変わるものよ? 治りも少しは良くなると思うよ?」
「そうじゃなくて……」
「だって、せっかく命が助かったんだもん。このあとは、早く元気になってもらうことしか考えられない。よね? テンちゃん」
はい?
テンちゃん?
「天馬だから天馬のテンちゃん」
「名前つけるな! 俺達は飼い主じゃねぇんだぞ!」
「いつかはお別れするのは分かるけど、じゃあそれまではこの子のことなんて呼ぶの?」
「うぐっ……」
「堅っ苦しすぎるのよ、アラタは。ね、テンちゃん」
堅っ苦しいんじゃない。
筋は通さなきゃならんだろ。
でないと、こいつを助けてくれ、なんて言い寄ってくる連中が湧いて出てくるぞ?
それこそ泉現象の魔物以上にな。
「……とにかくこいつの傷を治すには治療と体力回復だ。こいつ用のエサって店で売られてるのか?」
「んー……これだけ大きい体だと、普通の店じゃ扱ってないよね。牧場御用達の店とかじゃないと……」
「近くの町にそんな店は……」
「あるわけないじゃない」
だろうな。
「でも……おにぎりなら問題ないんじゃない? 私達の食料じゃ、食費が馬鹿にならないし」
おにぎり……。
極端に考えるなら、米と塩だ。あと水分か。
こいつを助ける手段を持つのが俺達しかないというなら……ライムの力を借りるのも吝かじゃないか。
「……ヨウミ、近くの町までお遣い頼めるか?」
「お遣い? 何するの?」
「この雨がいつまで続くか分からない。何日分かの俺達の食料と……それだけでいいか。あれこれ頼んでもこの雨だ。無駄に濡らしちまうしな」
「分かった。賞味期限も考えとかないとね。行ってくる」
──────
そして洞窟の中にこいつを雨宿りさせ、雨に降られながらライムと一緒に米を炊いている。
それにしても……。
こっちで勝手に名前を決めても、こいつにはその名前が自分のことだと理解できないだろうに、なぁ。
「……ライムと言いヨウミと言い……あそこで待ってろって」
「じっと待ってるなんてできるわけないでしょ!」
何こいつ興奮してんだ。
「待つ以外何かできると」
「アラタ、あんなに険しい顔になってたんだもん! その様子を見てのんびりできるわけないでしょ!」
ライムが動いたのはこいつの差し金か。
まったく……。
とりあえず……。
「俺の体も冷えそうだ。こいつも生き物なら温度が必要だ。暖を取りたいが……」
「来る途中にいい感じの洞穴があったよ! そこに移動……って、そうだ、この魔獣……」
こいつは魔獣なのか。
この世界の猫ってみんな六本足だから、こいつもこの世界では普通の動物かと。
魔獣と動物の区別はどうつけるんだ。
「火でも吹いてくれりゃ、自分で体を労わることもできるだろうが……」
「そんなの、ドラゴンの類くらいじゃないの?」
あ、やっぱりドラゴンもいるんだ。
「そうじゃなくて。……この子、天馬かも。でも白じゃなくて灰色っぽいね」
「天馬? って、今は詮索より体力回復だろ!」
「そんなの、アラタのおにぎりでもいいじゃない。問題はあの洞穴までどうやって運ぶか、よね」
ヨウミでも分かるか。
こいつの重さ。
引きずって運べても、体中に擦り傷ができちまう。
荷車に乗せられりゃ乗せてるさ。
でも乗せても誰も運べないし、そもそも荷車にそこまで耐久力があるとは思えない。
「ここからどれくらいの距離だ?」
「百メートルくらいかな?」
ススキの中を突っ切っていったから分からなかった。
考えてみれば、道路を進んでからこいつがいた場所に向かえば、余計な体力使わずに済んでたんだな。
まぁ今更だが。
「……焚火一式そこに持ってくか。骨折で左右一本ずつだから、痛みを我慢すれば歩けなくはないと思うが……」
こんな時のサバイバル法とかは知らないが、とりあえず……。
「こないだ寝具が欲しいっつて毛布買ったよな」
「え? あ、うん。それ……え? 何? どうするの?」
「全部こいつに使う」
「ちょっ! ちょっと!」
普通の競走馬よりもかなり大きいその体。
とりあえず背中だけを覆いつくせる。
あとはロープを使って、背中から落ちないように……。
「暴れんなよ? 痛いとこには触らないからな? ……威嚇してきやがる。まぁ人間のサバイバル法が通用するわけじゃないだろうが……」
「ライムならできるでしょ? 風呂敷みたいに広くなるし、体温も変えられるもの」
俺の、できれば人の力で助けてやりたかった。
なぜなら、ヒーローは意外と、困ってる人の都合に合わせてくるとは限らないから。
そして、意外とそばにいる人がその人にとってのヒーローになり、その力があったりする。
だから……。
「……俺なんか、お前に一噛みされるだけで死んじまう程度の種族だぞ! 世話が終わるまでくらい我慢しろや! でなきゃ一人でとっとと岸に這い上がれば済むこった! 一人でそれもできなかったくせにわがまま言ってんじゃねぇ!」
言葉が分かるかどうかなんて知ったことか!
噛み殺したきゃ噛み殺してみろよ!
そんなつもりもないくせに!
川から引き揚げてもらって安心してるくせに!
「ちょっ! アラタっ! 蹴り飛ばされるわよ!」
「蹴り飛ばされたら俺は死ぬだろうよ! だがこいつもこのままほったらかされて死ぬだけだ! くたばりたくなきゃ大人しくしてろ!」
……気迫は伝わったらしいな。
不満そうな顔を向けてるが、口は閉じたまま。手足も地面に置いたまま。
助けが欲しかったやつが助けを求める前に助けてもらって、助けてほしいなんて言った覚えはないって言ういわゆるツンデレって奴は、俺は認めん!
黙って救いの手を受け入れろってんだ!
「……さて。その洞窟で火を焚くか。ほら、ついてこい。そのままじゃ風邪ひいて体力減っちまうぞ!」
手綱もリードの紐も何もない。
声をかけて、それだけで言うことを聞くかどうか。
だがそいつは、ゆっくりと立ち上がった。
顔をゆがめているのは、痛みに耐えているからか。
その約百メートルの間、自分の気持ちを整理する。
助かりっこない命に手を差し伸べて、無駄な延命処置を施すのはどうなんだ? と思う。
助かる命を助け、その結果命を落とすこともどうなんだ? とも。
前者はいろんな視点から見れば、そのベストな結論も変わるはずだ。
だが後者は、はっきり言って夢見が悪いのは間違いない。
手を尽くせば助かる命なら手を尽くすべき、とは思う。
だが、何かを食わせることはできても、医療処置の手段はないし知識も知恵もない。
「……ヨウミ」
「何?」
「獣医とか……こんな生き物のケガとかを治す医者っているのか?」
「獣医はいるけど、魔獣は……。魔獣を飼ってる人はいなくはないけど、動物を飼うよりも神経使うって話は聞いたことがある程度」
いない、と思っていい。
自然治癒、あるいは自力で治るのを期待するしかないが……。
いかん。そうじゃない。
俺単独でこいつを助けるのと誰かの手を借りて助けるその線引きはどこだ?
俺が世話をすることと俺の手を離れることの線引きはどこだ?
そんなことも考えずに助けに向かって、今頃そんなことに悩むなんて、無責任すぎないか?
……いや。
俺は、こいつを助けたかったんじゃない。
俺は、あの時の俺を助けたかったんだ。
けどあの時の俺は、今の俺がどう動いても救われるはずがない。
あの時の俺は過去のものだし、今どう動いても過去を変えられるはずがないから。
くそっ。
昔のことを振り返ったがために、また昔のことに囚われるなんて思いもしなかった。
まるで呪いだな。
呪縛にかかったようなもんだ。
が、それも、俺の世界の現在から解放された副作用かもしれん。
だって仕方がないじゃないか、で済まされたし、済ますことができたから。
でも、今もそれが当てはまることが……。
「アラタ、ここだよ。洞窟」
「あ……」
ぽぅっとしてる場合じゃない。
「洞窟の中で焚火すると酸素が減っちまうな。空気が出入りできる程度の隙間を開けた場所で火を焚こう」
「分かった。えーと、焚き木焚き木……っと」
こいつに俺達の非常食を食わせるわけにはいかない。
となると、飯を炊いておにぎりを食わせるしかないんだが、飯炊き用の水はない。
ライムの力を借りるしかないんだが……。
「よいしょっと。これだけあれば十分かな? ……どうしたの? この子に何か食べさせなきゃ」
「水がない」
「ライムにろ過してもらったら? いつもやってるじゃない」
今は、俺が単独で助けたいと思ったこいつのためのおにぎり作りの話をしている。
だから迷ってるんじゃないか。
……俺の過去は、俺だけのものだ。
お前らを巻き沿いにしていいもんじゃない。
「とりあえず、体洗ってあげないと。いつまでも泥水かかったままじゃ気持ち悪いでしょ?」
「お、おいっ! 何を勝手な……」
「ん? どうしたの? 体綺麗にするだけでも、気分は変わるものよ? 治りも少しは良くなると思うよ?」
「そうじゃなくて……」
「だって、せっかく命が助かったんだもん。このあとは、早く元気になってもらうことしか考えられない。よね? テンちゃん」
はい?
テンちゃん?
「天馬だから天馬のテンちゃん」
「名前つけるな! 俺達は飼い主じゃねぇんだぞ!」
「いつかはお別れするのは分かるけど、じゃあそれまではこの子のことなんて呼ぶの?」
「うぐっ……」
「堅っ苦しすぎるのよ、アラタは。ね、テンちゃん」
堅っ苦しいんじゃない。
筋は通さなきゃならんだろ。
でないと、こいつを助けてくれ、なんて言い寄ってくる連中が湧いて出てくるぞ?
それこそ泉現象の魔物以上にな。
「……とにかくこいつの傷を治すには治療と体力回復だ。こいつ用のエサって店で売られてるのか?」
「んー……これだけ大きい体だと、普通の店じゃ扱ってないよね。牧場御用達の店とかじゃないと……」
「近くの町にそんな店は……」
「あるわけないじゃない」
だろうな。
「でも……おにぎりなら問題ないんじゃない? 私達の食料じゃ、食費が馬鹿にならないし」
おにぎり……。
極端に考えるなら、米と塩だ。あと水分か。
こいつを助ける手段を持つのが俺達しかないというなら……ライムの力を借りるのも吝かじゃないか。
「……ヨウミ、近くの町までお遣い頼めるか?」
「お遣い? 何するの?」
「この雨がいつまで続くか分からない。何日分かの俺達の食料と……それだけでいいか。あれこれ頼んでもこの雨だ。無駄に濡らしちまうしな」
「分かった。賞味期限も考えとかないとね。行ってくる」
──────
そして洞窟の中にこいつを雨宿りさせ、雨に降られながらライムと一緒に米を炊いている。
それにしても……。
こっちで勝手に名前を決めても、こいつにはその名前が自分のことだと理解できないだろうに、なぁ。
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○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
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この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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