勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
49 / 493
三波新、放浪編

行商を専業にしたいんだが、どうしてこうなった ……ほんと、どうしてこうなった?

しおりを挟む
 ダンジョンから出て久々の日光を浴びた。
 流れる空気も気持ちいい。
 エージは相変わらず精気が抜けたような顔をしている。
 一体どうしたというのか。
 とりあえずここまで来たらあとは荷車に合流するのみ。
 そして俺の企みは成功していた。
 その企みとは……。

「あ、アラタ、それとエージ君、だっけ? 大丈夫だった?」

 ヨウミが静かな声で呼びかける。
 先に戻った三人は、忠実に俺の伝言をテンちゃんに伝えたようだ。
 テンちゃんは横に寝そべり、いつものように自分の腹を枕にし、三人を寝かしつけていた。

「こ……これ……どういうこと?」

 エージが戸惑うのも無理はない。
 というか、このことを説明するのを忘れていた。

「あんまり慌ててたから先に戻らせて、こいつに寝かしつけるように伝言しといたんだよ」
「三人の慌てぶりがただ事じゃなかったからね。テンちゃんいい仕事してくれたわ」
「え……えっと……」
「ま、崩落事故が起きた時点で一番落ち着いてたのはお前だってことだよ。テンちゃん、三人起こしていいぞ」

 顔を腹に向け、一人ずつ顔を舐めていく。

「う……むぅん……ん?」
「うぅ……あ……あれ?」
「んぁ……ん……んん?」

 目をこすりながら三人は上体を起こした。

「み……みんな、大丈夫?」
「あ……エージ!」
「エージ! 心配したんだぞ!」
「エージぃーっ!」

 感動の再会を無事に済ませることができた。
 まぁ事故が起きた時点で、正直なんとかなるとは思ってたが……。
 この気持ちはこいつらには伝えられないな。

「そ、そうだっ。俺、アラタさん、旗手様だと思うんだよ!」

 再会して第一声がそれかよ。

「いい加減に……」
「地下二階から上がってくるまで、一体も魔物と出会うことがなかったんだぜ?」
「それは、気配を」
「普通じゃないですよ! みんな、どんなルートになってるか覚えてるか?」

 噴き出した興奮はそう簡単に抑えられそうにもないし、すぐに収まりそうにない。
 普段と違うリーダーに驚いているのか、三人は何も言い出せず、エージの話をただ聞く一方だ。

「ちょ、ちょっと落ち着こうか、ね? エージ君。一体どういうこと? アラタはずっと前から魔物や人の気配とか感じ取れる人なんだよね。その気配から、どんな魔物か、どんな人かも判断することができたんだけど……」
「どんな魔物かって?」
「私達に敵意があるのか害意はあるのか、こっちに親しい思いを持ってるかどうか、とか、そんな感じ」
「……普通じゃないですよ、それ」
「冒険者達の中にも、そんな力を持つ人達いるでしょ?」
「……魔術を使えばね。魔術や魔力なしにそんなことが分かる人っていませんよ」
「……アラタぁ……。この子、頑固」

 お前は何で口出ししてきたんだよっ!
 しかも他の三人も興奮して来てるみたいだし。
 ミーハーかよ!

「俺も旗手のことは何度か見たけど、何と言うか……特有の武器とか防具とか手にしてたんだよな。俺は全くなかったし、そばにそんなもんなかったしな」

 四人は顔を見合わせた。

「……じゃないの?」
「俺もそう思う」
「それ以外当てはまらないよな」
「うん。大体特別なことがなきゃあんなこと……」

 イライラしてきた。
 言いたいことがありゃはっきり言えよ。

「……冒険者養成校で習うことなんですが」
「何がよ」
「旗手様って、どんな種類の方がいらっしゃるかご存じですか?」
「知るかよ。俺は一般人でたんに巻き込まれただけっつーことで、神殿から追い出されたんだよ。詳しい話なんか聞くわけないだろ。この世界のことを聞くのが精一杯だったよ!」

「……旗手様は大司祭様の召喚魔法により、召喚されるんです。でも一度につき半数。旗手様の種類は十四人いると聞いてます」

 随分多いなおい。
 特撮ヒーローでも一度にそんなにたくさん出てくるのは滅多にないぞ?

「えっと、大剣、双剣、投擲、打棒の攻撃の四種でしょ? それと……」
「守りは、守護、守備、治癒の三種だね」
「ほかには魔術系よね、魔術、補助、伝達、創製、改修の五種で十二種。あとはその他だけど……」
「うん。策術と……予見。卒業テストにも出てたよな」

 四人から見つめられる。
 が、だからと言って、どうしろというのだ。

「予見の旗手様なんじゃないですか? アラタさん」
「知らねぇよ。全然聞かされてないし噂話ですら耳に入ってこねぇよ。大体大司祭も国王も、この世界に来たその日に見たよ。凡人だって陰口言われてそれっきりだよ。もしそうだとしても、お前らが俺に何かできるわけじゃねぇよな?」

 なにしょげてんだか。
 勝手に盛り上がって勝手に落ち込んだその姿。
 洞窟の中に入った時の様子とは偉い違いだな、おい。
 やっぱりまだ子供、まだ新人か。

「……噂では聞いていたんです。いつもは七人召喚されるのに、六人だって。教官達も首をかしげてた」
「だからどうした。そんなのは酒場で酔っ払ってグダってる連中が言うことだろ? 結論も出ない。そんなことを言う連中が解決に向けて行動を起こすでもない。ただの愚痴の類じゃねぇか」
「で……でも……」
「俺は二度もお尋ね者になった経験がある。しかもその手配書の発行責任者はその二人。そんな妄想を言うのはもう止めろ」

 テンちゃんが四人に鼻面をこすりつける。
 慰めてるつもりなんだろうな。
 俺だって好きで空気を重くしてるわけじゃない。
 ごめんなさいとか出過ぎた真似をとか言えばそれで済む話だ。
 そんな機転も利かせられず、この重苦しい雰囲気を打ち消すには、なかなかいい仕事をしてくれる。

「……ほらほら。今回の依頼はこれでお終いだ。とっとと宿屋にでも行ってきたらどうだ?」

 と言っても、この件で彼らの収入はなかったな。
 こいつらの腰が重いなら……。

「あ、あの……」
「……ちょっと待ってろ」

 金は出せないが、これくらいなら朝飯前だ。
 もう夕方だが。

「……ライム特製の水と人気の筋子とシャケのおにぎりセットだ。宿に泊まる金がなきゃ食うもんにも困るだろ。これくらいあれば明日までは持つだろ? 持っていきな」
「あ、ありがとうございますっ!」
「おう。ただし次回からは金を払ってもらうからな。初めての買い物になるだろうからサービスして、一人二倍いてっ!」
「アラタ……その冗談はもう十分使い古されてるから」

 ヨウミからはたかれた。
 最近宿に泊まれないからって、うっ憤を晴らしてるんじゃないだろうな?

「……あの、じゃあこのことはアラタさんとは直接関係ないかもしれませんが……」
「ん?」
「国王にはよくない噂があって……」
「その噂なら聞いたぞ? 王妃と皇太子が国王に成り代わって国政を仕切ってるとか。改善されてるとか何とかって話も聞いたかな?」

 四人はやや安心したような顔をした。
 何か心の中に引っかかってるものがあったんだろうな。

「旗手様じゃないかもしれませんが、旗手様と似た能力を持ってる、という見方もできますから……」
「すると、また手配書が出るかもな。偽物だって。言っとくが一般人で、旗手になろうとか旗手だとか名乗る気は一切ないからな? そんな噂聞こえてきたら否定してくれよ?」

「は、はいっ」
「今日はありがとうございました」

 四人は口々に礼を言って去っていった。
 何と言うか……今日はいろんな意味で騒がしかった日だったな。
 ところで……。

 俺がダンジョンの中に入っていった目的、何だったかなぁ……。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...