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三波新、放浪編
幕間:テンちゃんが喋れるようになったみたいです ライムもそのうち喋れそうです
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「まったく……。本来の目的はぁ、魔物がいる中で行商が可能かどうかって話だったんじゃなかったの?」
「モゴ……モゴッ!」
静かになった俺達一行にも晩飯の時間はやって来る。
それにしてもテンちゃんはよくもまぁ具のないおにぎりを好んで食べられるもんだ。
感心してしまう。
「あー……食べてる最中に話しかけて悪かったわよ! 飲み込んでから返事して」
「……んぐっ。……あぁ、そうだったっけな。それにしても、旗手ってのはそんなに人気者なのかね。握手とかサインとか求められるんだろうなー。……こっちは俺の首狙いだろうけどな」
「……卑下しないの。……まぁ何言われたって信用するのは難しいだろうけど」
「言われる前の問題だよ。詫びを入れるために探してるとかって話は聞いたが、口実に過ぎない可能性もある。宿で休みたいときは、憲兵とかもいるかもしれんが互いに見知らぬ人同士って関係が多い大都市でしか泊まれないな」
「まぁ、しょうがないよね。人口が少ない町や村じゃ、すぐに通報入っちゃうかもしれないしね」
だが、追いかけられることがなくなるのであれば、詫びすら必要ないんだよな。
旗手とやらならともかく、一般人がしょっちゅう国王と会うことなんかないだろうし。
特に会う必要もない……あ……。
「一万円、どうしようか」
「え?」
「初日にもらった一万円。あれ、向こうじゃ貸したつもりなら、返さないとだめだよな」
「慈勇教の人から……もらったんじゃなかったっけ?」
もらった、はこっちの意識だ。
相手は貸したつもりかもしれん。
「……封筒に入れて、教会の献金箱に入れたら?」
「封筒? なんで?」
「表に書いとくの。首都ミレバ市の神殿教会で見送りされた際に教会の人からお借りした一万円をここでお返しします、みたいな」
「なるほど」
でも、それが当人の手に渡るかどうかは不明だ。
ネコババされるかもしれないし。
「ちゃんと本人の元に届くかな? 顔も忘れたし名前も聞いてない」
「『旗手』って単語入れれば、旗手とは縁のない教会の人なら恐れおののいて神殿教会に連絡するんじゃない?」
「ふむ……。借りてから三年くらい経つから、十倍にして返すか。二倍くらいならちょろまかされるかもしれんが、それだけの大金だとなおさらかもな」
「十万? ……勿体ないけど……、追いかけないでください、の一言も添えたら、追われることもなくなるかもね」
何だその家出する人の「探さないでください」っていう書置きみたいな文面は。
まぁいいけどさ。
※
昔の思い出の中には楽しいことはあまりない。
ただ、学校のテストで俺のヤマカンが当たる、などと言う評判はクラス内で立った。
俺の勘はとにかく外れる。
何のことはない。
普通に授業を受ければ大体の傾向は読めた。それだけのこと。
当てにされる。
頼りにされる。
あの頃の俺は、ちやほやされるだけでもうれしかった。
だが、これも何のことはない。
テスト対策の便利な道具扱いにされただけのことだった。
それでも、褒められるのは悪い気はしなかった。
見て覚えている夢のほとんどが悪夢。
けれどそうでない夢は久々に見た気がした。
テンちゃんが現れたのは、その夢が終わってから。
「……いつも夢の途中に出てくるのに、どうした?」
「気持ちよく見てる途中でしゃしゃり出てくるほど野暮じゃないよ、あたしは」
夢に出てきた人達と同じ制服を着ているテンちゃんは、相変わらずその顔は影がかかっていて見えない。
テンちゃんがその服装にしたのは、悪夢のネタの数が比較的少ない時代の象徴だからか。なるほど。
「そうか。まぁそれはおいといて。日中は助かったよ。よく察してくれたな」
「流石に落ち着かせなきゃって思うわよ、あの様子じゃ。そしたらあの伝言でしょ? ピーンときたもの」
察しのいい奴は嫌いじゃない。
むしろ頼れる。
けどなぁ……。
「何か問題でもあった?」
察しが良すぎだよ。
「あぁ。あ、ライムもいるのか。ならちょうどいいか」
「何?」
「普段の時でも会話できないかな、とな」
今回はまだ余裕があった。
緊急事態が発生したら密にコミュニケーションをとる必要もあるだろう。
「それもそうね……考えとくわ。ヨウミにも伝えないとね」
確かに。
いきなりテンちゃんが日本語喋り出したら、間違いなく腰を抜かすだろうな。
※
今朝起きて朝ご飯の準備をする。
俺がやれることは、テンちゃんの朝のおにぎり作りくらいなもんだが。
で、その次にすべきことは、二体が日本語を話せるかどうかじゃなく、十倍返しの文章作り。
封筒はある。
十万円も入る。
「えーと……『私は旗手の方々と一緒に、召喚魔法の巻き込みを食らった一般人です。神殿の教会に一泊させていただき、出ていく際に教会の人からお金を借りました。その十倍の金額を、献金も兼ねてお返し……』あれ?」
「どうしたの?」
「一万円の借用書とか作ってない」
「それで?」
「貸したのは十万円だって言われたらどうしよう?」
ヨウミに答えられるはずもない質問。
でもほかに聞く相手もいないし。
「踏み倒したら?」
「「え?」」
声はテンちゃんから聞こえてきた。
「アラタのこと、探してるんでしょ? 万が一捕まったときに出したら? 捕まらなかったら踏み倒せばいいよ」
「テンちゃん……喋った……」
いや、喋った、じゃねぇだろうよ。
「いや、ヨウミ、昨日の夜、こいつが伝えてきたはずだろ?」
「……そう言えば……。あ、じゃあライムもかな?」
「ライムはもう少し時間かかるって」
ライムは相変わらずプニプニ動くだけ。
それにしても、随分過激なことをいうもんだ。
「でも周りに人がいたら見世物になっちゃうかもしれないから黙っとくね」
「お、おう……」
こんなあっさりと、他種族の慣習に染まれるものかね。
まぁこっちの方が面倒なことは省けそうでいいんだけどさ。
「モゴ……モゴッ!」
静かになった俺達一行にも晩飯の時間はやって来る。
それにしてもテンちゃんはよくもまぁ具のないおにぎりを好んで食べられるもんだ。
感心してしまう。
「あー……食べてる最中に話しかけて悪かったわよ! 飲み込んでから返事して」
「……んぐっ。……あぁ、そうだったっけな。それにしても、旗手ってのはそんなに人気者なのかね。握手とかサインとか求められるんだろうなー。……こっちは俺の首狙いだろうけどな」
「……卑下しないの。……まぁ何言われたって信用するのは難しいだろうけど」
「言われる前の問題だよ。詫びを入れるために探してるとかって話は聞いたが、口実に過ぎない可能性もある。宿で休みたいときは、憲兵とかもいるかもしれんが互いに見知らぬ人同士って関係が多い大都市でしか泊まれないな」
「まぁ、しょうがないよね。人口が少ない町や村じゃ、すぐに通報入っちゃうかもしれないしね」
だが、追いかけられることがなくなるのであれば、詫びすら必要ないんだよな。
旗手とやらならともかく、一般人がしょっちゅう国王と会うことなんかないだろうし。
特に会う必要もない……あ……。
「一万円、どうしようか」
「え?」
「初日にもらった一万円。あれ、向こうじゃ貸したつもりなら、返さないとだめだよな」
「慈勇教の人から……もらったんじゃなかったっけ?」
もらった、はこっちの意識だ。
相手は貸したつもりかもしれん。
「……封筒に入れて、教会の献金箱に入れたら?」
「封筒? なんで?」
「表に書いとくの。首都ミレバ市の神殿教会で見送りされた際に教会の人からお借りした一万円をここでお返しします、みたいな」
「なるほど」
でも、それが当人の手に渡るかどうかは不明だ。
ネコババされるかもしれないし。
「ちゃんと本人の元に届くかな? 顔も忘れたし名前も聞いてない」
「『旗手』って単語入れれば、旗手とは縁のない教会の人なら恐れおののいて神殿教会に連絡するんじゃない?」
「ふむ……。借りてから三年くらい経つから、十倍にして返すか。二倍くらいならちょろまかされるかもしれんが、それだけの大金だとなおさらかもな」
「十万? ……勿体ないけど……、追いかけないでください、の一言も添えたら、追われることもなくなるかもね」
何だその家出する人の「探さないでください」っていう書置きみたいな文面は。
まぁいいけどさ。
※
昔の思い出の中には楽しいことはあまりない。
ただ、学校のテストで俺のヤマカンが当たる、などと言う評判はクラス内で立った。
俺の勘はとにかく外れる。
何のことはない。
普通に授業を受ければ大体の傾向は読めた。それだけのこと。
当てにされる。
頼りにされる。
あの頃の俺は、ちやほやされるだけでもうれしかった。
だが、これも何のことはない。
テスト対策の便利な道具扱いにされただけのことだった。
それでも、褒められるのは悪い気はしなかった。
見て覚えている夢のほとんどが悪夢。
けれどそうでない夢は久々に見た気がした。
テンちゃんが現れたのは、その夢が終わってから。
「……いつも夢の途中に出てくるのに、どうした?」
「気持ちよく見てる途中でしゃしゃり出てくるほど野暮じゃないよ、あたしは」
夢に出てきた人達と同じ制服を着ているテンちゃんは、相変わらずその顔は影がかかっていて見えない。
テンちゃんがその服装にしたのは、悪夢のネタの数が比較的少ない時代の象徴だからか。なるほど。
「そうか。まぁそれはおいといて。日中は助かったよ。よく察してくれたな」
「流石に落ち着かせなきゃって思うわよ、あの様子じゃ。そしたらあの伝言でしょ? ピーンときたもの」
察しのいい奴は嫌いじゃない。
むしろ頼れる。
けどなぁ……。
「何か問題でもあった?」
察しが良すぎだよ。
「あぁ。あ、ライムもいるのか。ならちょうどいいか」
「何?」
「普段の時でも会話できないかな、とな」
今回はまだ余裕があった。
緊急事態が発生したら密にコミュニケーションをとる必要もあるだろう。
「それもそうね……考えとくわ。ヨウミにも伝えないとね」
確かに。
いきなりテンちゃんが日本語喋り出したら、間違いなく腰を抜かすだろうな。
※
今朝起きて朝ご飯の準備をする。
俺がやれることは、テンちゃんの朝のおにぎり作りくらいなもんだが。
で、その次にすべきことは、二体が日本語を話せるかどうかじゃなく、十倍返しの文章作り。
封筒はある。
十万円も入る。
「えーと……『私は旗手の方々と一緒に、召喚魔法の巻き込みを食らった一般人です。神殿の教会に一泊させていただき、出ていく際に教会の人からお金を借りました。その十倍の金額を、献金も兼ねてお返し……』あれ?」
「どうしたの?」
「一万円の借用書とか作ってない」
「それで?」
「貸したのは十万円だって言われたらどうしよう?」
ヨウミに答えられるはずもない質問。
でもほかに聞く相手もいないし。
「踏み倒したら?」
「「え?」」
声はテンちゃんから聞こえてきた。
「アラタのこと、探してるんでしょ? 万が一捕まったときに出したら? 捕まらなかったら踏み倒せばいいよ」
「テンちゃん……喋った……」
いや、喋った、じゃねぇだろうよ。
「いや、ヨウミ、昨日の夜、こいつが伝えてきたはずだろ?」
「……そう言えば……。あ、じゃあライムもかな?」
「ライムはもう少し時間かかるって」
ライムは相変わらずプニプニ動くだけ。
それにしても、随分過激なことをいうもんだ。
「でも周りに人がいたら見世物になっちゃうかもしれないから黙っとくね」
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