勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
66 / 493
三波新、放浪編

こだわりがない毎日のその先 その5

しおりを挟む
 何となくヨウミが荒れているような気がする。
 一々そんなことで気配を察知する力を使ってられるか。
 使ったところで、何かが消耗するってわけでもないが。
 それというのも、テンちゃんとライムが俺達の元を離れた。
 ヨウミから見た俺の言動は、それを思いとどまらせるどころか、立ち去るように促した、と受け止めている。

「……客相手の仕事なんだからさ、もう少し愛想よくしろよ」
「アラタに言われたくないわよ!」
「俺はおにぎり作りがメインだからな」
「寂しそうな顔してんじゃないわよ!」

 してねぇよ。
 仲良しのつもりだったんだろうが、それ以上にあの二人には、離れる理由、離れなきゃならない理由の力が強かったってことだ。
 こっちは親友だと思ってたのに、向こうからはそれほど親しく思われてなかったという行き違いの人間関係とおんなじだ。
 そんな経験、ヨウミにはなかったのか?
 羨ましい限りだ。
 俺は逆に、そんな関係なんぞ珍しくもないって感じだからな。
 だが今回の売り上げはそれほど高くはなかった。
 行商人の気配を久しぶりに感じ取ったからな。
 しかもテンちゃんとライムが去っていった次の日のこと。
 そしてサキワ村に向かって移動を初めて三日目の二人旅。
 二人きりになるのは、本当に久しぶりだ。
 だが俺もヨウミにも、それを懐かしむ気持ちは全くない。

「……仕事に身が入らなかっただけじゃないの?」

 とヨウミからクレームが入る。
 ギスギスしすぎだ。
 あいつらは道具じゃない、と常日頃から思ってはいるが、俺達のぬいぐるみとか玩具とかでもないんだぞ?
 だいたい同業者がいつやって来るかの予想は無理だし、こっちが店を開いたら何日間は立ち寄り禁止などと制限をつけるわけにもいかない。
 だが、普段からあの二人を頼りにしてたら、間違いなく戦力ダウンだったろう。
 基本的に俺自身の力で何とか出来るようにカスタマイズを頼んだ荷車だ。
 とりあえず移動については、俺とヨウミの二人きりになっても以前と劣るところは何もない。
 むしろ、新調したことでキャタピラーなどの道具も用意できた。
 立ち往生することもあったが、そんな数々の道具を使い、俺一人の力でいくつもあった難所を抜けることができた。
 今までは、その難所の気配を感じ取っては大きく迂回するしかできなかったが。

「寂しいと死んでしまう小動物じゃねぇんだから、もっとしゃんとしろよ。どうせお前は御者席で座ってるだけなんだから」
「……じゃああたしも荷車引っ張る!」
「馬鹿やろ! 動いてるときに飛び降りるな! 怪我したらまずいだろ!」

 体を動かしてる方が、じっとしてるよりも余計なことをあれこれ考えずに済む、という算段らしい。
 間違っちゃいないが……。

「俺と一緒に引っ張っても、お前が梶棒に捕まってぶら下がっても大差ないような気がするんだが?」
「うぐぅ……」

 それでもヨウミは梶棒を離さず、自分なりに力を入れて荷車を引っ張っている。
 ライムが加入する前には、そのようなことは一歩たりともしなかった。
 寂しさを紛らわすためってのが見え見えだ。
 けど丸二日も拗ねに拗ねまくってた。
 そんな中で、何か感じ取ったものがあったんだろう。
 前向きな姿勢とも受け取れるその行動は評価してもいいか。
 なんせたった一日、いや、数十分の会話の結果で状況がガラッと変わったんだ。
 その現実を認めたくなかったんだろう。
 俺だって、休日になるはずだった日程が、周りの人の気まぐれで何十日も休みなしの日程に変わったことはザラにあった。

「あれ、そう言えば、あの旗手達どこまで進んだのかな?」
「ん?」

 ヨウミの口調がいきなり変わったためか、話しの出だしを聞きそびれた。
 耳が音声についていけないことって、割とある。

「旗手達もこっちの方向に進んだんだよね。アラタの言いっぷりだと、あそこの近くで泉の現象が起きそうって話だったでしょ?」
「あぁ、その場所はもう通り過ぎたよ。この道の左側の奥の方。山の麓っぽかったけど、洞窟がそこにでもあるのか……」
「洞窟はそんなにあちこちにはないわよ。あったらアリの巣みたいになっちゃうでしょ」

 それもそうか。
 洞窟で山が崩れたりしかねない。

「多分表面だから雪崩現象かもね。屋外での泉現象が起きてるんじゃないかしら? ってことは、その場所は通り過ぎたってこと?」
「移動を始めた初日に、もう通り過ぎてた。ここはもう安全圏内。っつっても、あの連中、多分まだ魔物達とやり合ってるところだな」

 それにしても、まさか俺のいた世界から新たに召喚されてるとは思わなかった。
 しかも元職場の先輩が、だ。
 けど、何の旗手かは聞いてなかったな。
 俺は旗手の役から降りたけど、力はそのまま使えるようだから、同じ予見ではないとは思うが。

 けれど、七人揃っても、魔物を抑え込むのに手間取ってるってのはどうなんだ?
 こっちは歩き続けてススキの原っぱの道も終わって、強い日差しを遮るような林道に入ったというのに、その戦いの気配はまだ感じ取れる。
 まぁ今の俺にはどうでもいいことだ。
 熱せられることのない空気が流れ、それが涼やかな風に感じる。
 しかも、周りの景色はさえぎられることはなく、緑のトンネルをくぐっている感じがする。
 その清涼感は自然の恵みによるものってやつだな。
 おかげで、足取りにも少しだけ力が入る。

 けれども。

「ヨウミ。林の中に何か……いるな」
「何か? 何かって何よ? まさか、テンちゃん達?!」

 そんなわけがない。
 こっちに、何と言うか……敵意って言うか……。

「何か、こっちにちょっかい出してきそうな奴がいる。今にもすぐにこっちにかかってきそうだから……」
「え? 魔術でもかましてくるの?」

 あぁ、そんな感じか。
 自分は俺達から離れたまま、何か関わろうとする感じ。

「だけど魔法の気配はないな。となると……」
「弓? って、まさかエルフとか?!」

 そういえばエルフとかは今まで見たことなかったな。
 そんな奴らもいるのか。

「でも一応魔物の区分になってるから……まさか泉……じゃなくて、雪崩現象の魔物?! こっちにまで来ないって言ってたじゃない!」
「声がでかい! ……あの発生から現れた魔物とは別物みたいだ。でなきゃすぐにでも襲ってこれるはずだし……。あ……」

 方向は左側面上方から。
 多分高い木の枝にいるんだろう。
 けれども危害を加えるんじゃなくて、驚かすつもりか?
 脅すんじゃなくて。

「あって何よ! どうしたの!」
「でかい声で騒ぐな。……俺が頷いたら俺にぶつかってこい。ぶつかったら、左側の一番高い木を見てみろ。今は見るな!」

 小声での指図に、訳が分からなそうではあったがヨウミは頷いた。
 あとはタイミングなんだが……。
 あ、今か?
 コクリと頷く。
 その言葉通りに梶棒を牽いて歩いていたヨウミはそれから手を離し、俺にぶつかってきた。
 その瞬間一本の弓矢がヨウミの左側の地面に突き刺さる。

「何かいた! ……灰色の……エルフ?」

 また灰色かよ。
 それはそれとして、その声を聞いて俺もそっちの方を見る。

「へぇ。彼女、いい勘してるねぇ。戦闘の素質あり、かなあ?」

 随分よく通る声だ。
 かなり距離があったはず。
 そこから枝伝いに降りてきて、そいつは荷車のそばにやってきた。

「エルフの女の人だ……」

 エルフなのに人って言い方はどうなんだ?

「ヒマだったから揶揄いに来ただけだよ。けどなかなか面白そうな奴だな、お前」
「俺か? ま、俺もこいつもただの一般人だよ」
「お前じゃねぇよ! そっちの女だよ!」

 どうしよう。
 またややこしいのに絡まれた。
 しかも、多分どこか抜けてる。
 もっとも芝居したからそう見られるのも当たり前か。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...